脳梗塞の患者さんを担当することになったものの、BRSやFMA、SIASにNIHSS…と数ある評価スケールを前に、どれをどの順番で使えばいいのか迷ってしまう、そんな経験はありませんか。
(正直、私の勤めていた病院では評価バッテリーがあらかじめデータベース化されていて「この評価を取る」と決まっていたので、どれを使うか自体で悩むことはあまりありませんでした。ただ、他の評価との使い分けという視点は、当時はあまり持てていなかったように思います)
この記事を読んでいただくと、脳梗塞の理学療法評価の全体像と、急性期・回復期・生活期といった病期ごとの優先順位、代表的な評価スケールの使い分けがすっきり整理でき、その日から根拠を持って評価計画を組み立てられるようになりますよ。
理学療法士としての専門知識と、各評価スケールの標準的な基準・目的という両方の視点から、無理なく実践できる形で解説していきますね。
脳梗塞理学療法評価は目的の明確化が出発点となる

脳梗塞の理学療法評価は、「なんとなく毎回同じバッテリーを取る」ものではなく、まず何のために評価するのかを明確にすることが出発点になりますね。
- 重症度を把握したいのか
- 運動機能の変化を追いたいのか
- ADL(日常生活動作)への影響を見たいのか
- 高次脳機能を確認したいのか
目的によって選ぶべきスケールは変わってきます。
評価の目的があいまいなまま数だけこなしてしまうと、必要な情報が抜け落ちたり、逆に不要な評価に時間を取られたりしてしまいます。
病期や患者さんの状態に応じて評価目的を整理し、必要な指標を組み合わせて選ぶという視点を持ってみるのもおすすめです。
病期別に評価の優先順位は大きく変化する
病期によって、評価の優先順位はガラッと変わりますね。急性期では全身状態やバイタルサインの安定性、リスク管理が最優先で、離床可能かどうかの判断が中心になります。回復期に入ると、ADL動作の獲得に向けた身体機能評価や動作分析の比重が増し、目標設定も具体的な生活場面を意識したものになっていきます。そして生活期・維持期では、機能そのものよりも「その人らしい生活が継続できているか」という視点が重要になり、環境調整や介助者の負担、社会参加の状況なども評価対象に含まれてきます。同じ疾患名であっても、病期が違えば見るべきポイントも介入の優先順位もまったく異なるため、PTケイとしては「今この方はどの病期にいて、何を優先すべきか」を常に意識しながら評価を組み立てるようにしています。
急性期は全身状態とリスク管理評価が最優先

急性期は、NIHSSなどでベッドサイドにて短時間に重症度を確認しながら、早期離床と廃用予防を目的とした評価が中心になります[1]。
回復期は機能・ADL評価で目標設定に直結させる
回復期は麻痺や感覚・バランスの定量評価に加え、FIMなど「活動」レベルの評価の比重が増し、具体的な生活場面を意識した目標設定に直結していきますね。
生活期は活動と参加の評価が中心となる

生活期は家屋環境や介護負担度、福祉用具の適合など、実生活への適応度を測る「参加」レベルの評価が中心になっていきます。
運動麻痺はBRSとFMAで重症度と機能を評価する
ここまで病期ごとの評価の優先順位を見てきましたが、ここからは実際によく使われる代表的な評価スケールを、目的別に具体的に確認していきましょう。
BRS(ブルンストロームステージ)は簡便な重症度分類
Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS、ブルンストロームステージ)は弛緩期から分離運動の獲得まで、上肢・手指・下肢をそれぞれStage I〜VIの6段階で質的に分類する評価です[2]。ベッドサイドで短時間に回復段階を把握・共有できる手軽さが魅力です。
FMAは詳細な運動機能評価に適する
Fugl-Meyer Assessment(以下FMA)はBrunnstromの理論を基にした定量評価で、上肢66点・下肢34点の計100点満点で採点します[3]。数値化により微細な機能変化の把握や予後予測にも役立ちます。
総合的な運動・感覚機能はSIASで多面的に評価する

Stroke Impairment Assessment Set(以下SIAS、脳卒中機能障害評価法)は、運動機能だけでなく感覚・筋緊張・Range of Motion(以下ROM、関節可動域)・体幹・高次脳機能まで、9領域22項目で包括的に評価できるスケールですね[4]。
各項目がシングルタスクで、ベッドサイドで5〜10分ほどで完了するのも嬉しいポイントです(多忙な臨床の合間にはこの手軽さが本当にありがたいんですよね)。
スコアをレーダーチャート化すると、その方特有の障害プロファイルが一目瞭然になり、課題抽出や経過モニタリングにも役立ててきました。
意識・重症度評価はNIHSSとmRSで把握する
NIHSSは急性期の神経学的重症度を数値化する
National Institutes of Health Stroke Scale(以下NIHSS)は意識水準や運動麻痺、感覚、言語など全11項目・42点満点で神経学的重症度をベッドサイドで数値化する評価です[5]。スコアが高いほど重度で、t-PAや血栓回収療法など急性期治療の適応判断にも欠かせない指標だと感じています。
mRSは日常生活の自立度から障害の程度を評価する
modified Rankin Scale(以下mRS)は、身体的な障害の程度を0(無症状)から6(死亡)までの7段階で評価する指標です[6]。NIHSSのように神経症状そのものを項目ごとに数値化するのではなく、日常生活における自立度から全体的な障害の重症度を大まかに捉える点が特徴です。急性期の重症度把握だけでなく、退院時や経過観察時のアウトカム指標としても広く用いられています。
バランスと歩行能力の評価は転倒予防に直結する

Berg Balance Scale(以下BBS)やTimed Up and Goテスト(以下TUG)は、転倒予防の観点からも欠かせない評価です。
BBSでバランス能力を数値化する
BBSは立位保持や方向転換など14の動作を数値化し、転倒リスクを層別化する評価尺度として推奨されています[7]。主観に頼らず数値で経過を追える点が大きなメリットです。
TUGと歩行速度で歩行自立度を予測する
TUGや通常歩行速度も移動能力・動的バランスの指標として推奨され、歩行速度0.8m/秒未満は転倒リスク増大のサインとされています[8]。こうした客観的指標の組み合わせが、無理のない転倒予防プログラム作りの土台になると感じています。
高次脳機能障害の評価漏れはADL自立を阻害する
運動麻痺の評価はしっかり行っていても、高次脳機能障害の評価が抜けてしまうと、ADL自立を大きく阻害してしまうケースがあるんですよね。
麻痺が軽度でも、注意障害や半側空間無視、遂行機能障害があると転倒リスクは下がりません。
- 歩行能力は自立レベルでも、注意障害で環境への配慮が抜ける
- 半側空間無視で片側の障害物に気づけない
- 遂行機能障害で、動作の手順を組み立てられない
こうした背景があるまま「歩けるから大丈夫」と判断してしまうと、退院後の転倒につながりかねません(特に高次脳機能障害については、OTやSTと相談しながら慎重に判断するようにしています)。
運動面と高次脳機能面、両方の視点を持って評価する意識が大切ですね。
ADL評価はFIMとBIで目標を可視化する

ADLの目標を患者さんやご家族、多職種チームと共有するには、Functional Independence Measure(以下FIM)とBarthel Index(以下BI)の使い分けが欠かせませんね。
- FIM:運動13項目・認知5項目の計18項目を7段階で採点し、「している動作」を細かく評価[9]
- BI:基本ADL10項目を自立度で採点する100点満点の尺度で、「できる動作」を素早くスクリーニング[10]
介助量の変化を追うならFIM、全体像を把握するならBIですね。
評価結果を治療プログラムへ反映させる臨床思考
評価はあくまでスタート地点であって、そこで満足してはいけないなと常々感じています(笑)。
BRSやFMAで「今どの段階にいるか」を把握したら、次は「なぜその段階から先に進めないのか」を分析する視点が必要ですね。
たとえば、
- 筋緊張の異常が動作を妨げているのか
- 感覚フィードバックが乏しく運動学習が進まないのか
- 単純に筋出力そのものが足りないのか
原因によってアプローチはがらっと変わってきます。
私自身、ロボットスーツHALを使った介入で、アシストによる運動と感覚のループ(インタラクティブバイオフィードバック)が運動学習を後押ししてくれると感じる場面が何度もありました。数値上の変化が小さくても実用的な動作獲得につながることもあるので、評価結果を「点」ではなく「なぜ」まで掘り下げる思考を大切にしていただけると嬉しいです。
まとめ:脳梗塞理学療法評価

脳梗塞のリハビリ評価は、「これさえ使えば安心」という唯一絶対のスケールがあるわけではないんですよね。
- 病期(急性期・回復期・生活期)
- 目的(重症度把握・機能評価・ADL評価・高次脳機能評価)
この2つを軸に、BRSやFMA、SIAS、NIHSS、mRS、BBS、TUG、FIMなどを組み合わせて使っていく、という姿勢が大切だと感じています。
評価スケールの選択に迷ったときは、病期と目的に立ち返って考えると整理しやすくなります。
見通しを伝える際も、断定を避け可能性として語る姿勢を大切にしたいですね。
日々の評価の積み重ねが、患者さんの回復を支える土台になっていくのではないかと感じています。
引用文献
[1] コメディカルプラス(マイナビ). 理学療法士国家試験対策ドリル. https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/kokushi/drill/4453/. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月15日.
[2] STROKE LAB. ブルンストロームステージとは?Brunnstrom Stage・BRS評価・片麻痺リハビリを動画と図で解説. https://www.stroke-lab.com/evaluation/21682. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月15日.
[3] STROKE LAB. Fugl-Meyer Assessment(FMA/フーゲル・マイヤー評価法)上肢評価|手順・採点・脳卒中の予後予測を解説. https://www.stroke-lab.com/evaluation/21792. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月15日.
[4] rehabilikun. SIASとは?9領域・22項目・採点方法を解説. https://rehabilikunblog.com/【脳卒中機能評価法:sias とは?】22の評価項目|総/. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月15日.
[5] マイナビ看護師. 看護の「NIHSS」とは?使用方法や11項目の評価方法を解説. https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/career_skillup/20240922-2173906/. 2024年. アクセス日: 2026年09月15日.
[6] rehabilikun. mRSの評価方法|3・4の違いと記録用紙PDF. https://rehabilikunblog.com/【modified-rankin-scale:mrs】脳卒中評価/. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月15日.
[7] STROKE LAB. バーグバランススケール(BBS)14項目の採点方法・カットオフ値を写真で徹底解説. https://www.stroke-lab.com/speciality/16935. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月15日.
[8] hokuto.app. 転倒予防に関する評価と介入. https://hokuto.app/post/uE88ewNl2eqPYvVlsiD5. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月15日.
[9] rehabilikun. FIMとは|18項目の採点方法・認知5項目・点数の見方. https://rehabilikunblog.com/adl_fim/. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月15日.
[10] ケアコラボ. バーセルインデックスとは?全10項目の評価基準・よくある質問を解説. https://page.carecollabo.jp/blogs/barthel-index-manual/. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月15日.





