脳卒中で片麻痺になったご家族の腕や手がなかなか思うように動かず、自宅でどんな自主トレをしてあげたらいいのか分からなくて不安になっている、という方も多いのではないでしょうか。
そんな時は、いきなり手先の細かい動きを目指すのではなく、肩甲帯を安定させることから始め、肩・肘の可動域、手首や前腕の回内外、そして最後にリーチ動作へと、順序を踏んで練習していくことがポイントですね。
この記事では、そんな上肢の自主トレを段階ごとに、自宅で迷わず継続できるようなメニューとして紹介していきます。
理学療法士としての専門知識と、公的な資料の両面から無理のない範囲でお伝えしていきますので、どうぞ安心して読み進めていただけると嬉しいです。
肩甲帯の安定が上肢自主トレの土台になる

上肢の自主トレというと、どうしても「肩を回す」「肘を伸ばす」といった動きそのものに注目してしまいがちですよね。
でも実は、その前段階にある肩甲帯(肩甲骨や鎖骨を含む土台部分)の安定が整っていないと、せっかくの運動も効果が半減してしまうんです。
イメージとしては、家を建てるときの「地盤」のようなものですね。
- 地盤(肩甲帯)が不安定だと、その上に建てる家(肩や肘の動き)もぐらついてしまう
- 肩甲帯が安定して初めて、肩関節がスムーズに動く土台ができる
- 土台が整わないまま手先の動作(リーチ動作など)を練習しても、代償動作が入りやすくなる
というわけで、この記事全体でも
- 肩甲帯の安定
- 肩・肘の可動域
- 手首・前腕の回内外
- リーチ動作
という順番を大切にしています。
(このあたり、私も病院時代に「肩だけ動かしても改善しないな…」と感じることが何度もありました(笑)。焦って先の動作練習に進みたくなる気持ちはよく分かるのですが、まずは肩甲帯からじっくり整えていく、という視点を持ってみるのもおすすめです)
次の項目から、それぞれの段階別に自主トレの具体例をご紹介していきますね。
肩・肘の可動域を広げる自主トレで拘縮を防ぐ

肩甲帯周りが少し動きやすくなってきたら、次は肩・肘そのものの可動域トレーニングに進んでいきましょう。
ここで大事なのは、「順番を飛ばさない」ということですね。
土台となる肩甲帯が硬いままリーチ動作の練習をしてしまうと、代償動作ばかりが強化されてしまい、かえって拘縮を助長してしまうケースもあるため、順序を守って進めていくことが大切です(これは明確な研究データに基づくものではなく、近位から遠位へと運動の土台を整えていくという臨床上の一般的な考え方と、私自身の臨床経験を踏まえた見解です)。
肩・肘の自主トレとして意識していただきたいポイントは、以下の通りです。
- 肩の屈曲・外転:健側の手で患側の腕をゆっくり支えながら、痛みのない範囲で持ち上げる
- 肘の屈伸:手首を軽く握るように支え、ゆっくり曲げ伸ばしを繰り返す
- 可動域の終わりで数秒キープ:無理に伸ばしきらず、心地よい伸び感で止める
拘縮予防で一番怖いのは、痛みを我慢して頑張りすぎてしまうことなんですよね。
(〜すべき、という強い言い方はあまり好きではないのですが)痛みが出たらそこで止める、という意識だけは徹底していただけると嬉しいです。
無理のない回数から始めて、少しずつ慣れていくという視点を持ってみてくださいね。
手首・前腕の回内外運動が日常動作を支える

肩や肘の動きが整ってきたら、次は手首・前腕の回内外(手のひらを上下に返す動き)に注目してみていただけると嬉しいですね。
ドアノブを回す、蛇口をひねる、リモコンを操作するなど、生活の中の細かい動作は、実はこの回内外の可動域にかなり支えられています。
見落とされがちな部分ですが、肩甲帯→肩肘→手首前腕という順番で整えていくことで、最終的なリーチ動作の質もぐっと安定してくるのではないかと感じています。
指の細かい動きは専用メニューで補強する
指先の巧緻動作については、このセクションだけで語り尽くすのは難しい、奥の深いテーマです。
(片麻痺の手指リハビリ・自主トレについて詳しくはこちら。記事は準備中です)
リーチ動作の練習で生活動作の幅が広がる

肩甲帯・肩肘・手首前腕と順番に整えてきたら、いよいよ最後はリーチ動作の練習ですね。
コップを取る、テーブルの物に手を伸ばす、といった日常動作そのものを自主トレに取り入れることで、実際の生活動作の幅がぐっと広がっていきます。
段階を飛ばしていきなりリーチ動作から始めてしまうと、代償動作がクセになりやすいので、順序を守って進めていただけると嬉しいですね。
川平法など促通反復療法との併用も選択肢
麻痺の回復を促す専門的なアプローチとして、川平法(促通反復療法)を併用するという選択肢もあります。
これは麻痺した運動を意図的に繰り返し引き出すことで神経の回路を再建しようとする方法で、専門的な手技のため実施には注意が必要という点だけ触れておきますね。
(川平法を使った自主トレについて詳しくはこちら。記事は準備中です)
自主トレの負荷設定と注意点で悪化を防ぐ

上肢の自主トレは、やりすぎても、不安で全然やらなくても、効果が出にくいものです。
ここでは目安となるペースと注意点をお伝えします。
負荷設定の基本
- 頻度は週2〜3日を目安に、間に休息日を挟む[1]
- きつさの感覚は「かなり軽い〜ややきつい」くらいでOK
- 反動を使わず、ゆっくり動かす(スロートレーニング)のもおすすめです
慣れてきたら少しずつ回数を増やす、くらいの気持ちで十分です。
注意していただきたいポイント
- 力を入れるときに息を止めない(血圧急上昇のリスクがあるため)[1]
- 関節や骨に痛みがある場合は、無理せず負荷の少ない種目に変更する
- 持病がある方は、事前にかかりつけ医や理学療法士に確認しておくとより安心です[2]
以下のような症状が出たときは、すぐに中止して安静にしてください。
- 強い関節痛・筋肉痛
- 息苦しさ、めまい、吐き気、動悸
「頑張れば頑張るほどいい」というものではなく、無理のない範囲で続けることが何より大切、という視点を持ってみていただけると嬉しいです。
まとめ:片麻痺リハビリの上肢自主トレで生活動作を広げる

ここまで、片麻痺の上肢自主トレについて、順序立てて見てきましたね。
最後に、大切なポイントをもう一度整理しておきます。
- 肩甲帯の安定からスタートする
- 次に肩・肘の可動域を広げる
- そして手首・前腕の回内外を整える
- 最後にリーチ動作へつなげていく
この順番を守ることが、遠回りしないコツではないかと感じています。
(私自身、こういう「順番」を無視してあれこれ手を出してしまい、結局どれも中途半端になった経験があるので…笑)
指の細かい動作の練習や、川平法(促通反復療法)については、また別記事で詳しくお伝えできればと思っています。
自主トレは、無理のない回数・強度で続けることが何より大切ですね。
痛みが出たり、疲労が強く残るようなやり方は、過用性の悪化につながる可能性もあります。
焦らず、ご自身やご家族のペースで、少しずつ生活動作の幅を広げていっていただけると嬉しいです。
一歩ずつの積み重ねが、確実に力になっていくはずですよ。
引用文献
[1] 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. 厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/001195869.pdf. 2023年. アクセス日: 2026年09月22日.
[2] 厚生労働省. 標準的な運動プログラム. e-ヘルスネット. https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-005.html. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月22日.





