退職が決まると、引き継ぎや挨拶に追われて、健康保険や年金、雇用保険の手続きまで気が回らなくなりがちです。
次の職場がすぐ決まっている場合と、間に空白期間がある場合とでは、必要な手続きが変わります。期限のあるものもあるため、先に全体像を知っておくと安心です。
この記事では、理学療法士が退職・転職するときの公的な手続きのうち、条文などで確認できる健康保険、国民年金、雇用保険を、期限・必要書類・確認先とあわせて整理します。個別の事情で扱いが変わることがあるため、最終的な判断は、窓口で確認してください。
退職前後の手続きの全体像

手続きは、「次の職場がすぐ始まるか」で、大きく2つに分けて考えると整理しやすくなります。
- 次の職場がすぐ始まる場合:多くは、新しい勤務先が社会保険の加入手続きを進めます。自分では、必要書類を渡す準備が中心になります。
- 間に空白期間がある場合:健康保険と年金の切り替えを、自分や家族が行う必要が出てきます。雇用保険の手続きも関わってきます。
どちらの場合も、退職日が決まった時点で、勤務先の担当者に「退職後に必要な書類」を聞いておくと、抜けが減ります。
健康保険:空白期間があるときの考え方
退職すると、勤務先の健康保険の被保険者資格を失います。健康保険法の第36条では、事業所に使用されなくなったときは、その日の翌日から被保険者の資格を喪失するとされています[1]。つまり、退職日の翌日が、資格を喪失する日になります。
空白期間がある場合、主な選択肢は、次のようなものです。
- 国民健康保険に加入する
- 退職前の健康保険を、任意継続する
- 家族の健康保険の扶養に入る
家族の扶養に入る場合は、手続きの多くを家族の勤務先が進めるため、本人がすべてを手続きするとは限りません。国民健康保険に加入する場合は、世帯主が、国民健康保険法施行規則の第3条により、14日以内に届書を市町村に提出する必要があるとされています[2]。
任意継続について、健康保険法の第37条では、被保険者の資格を喪失した日から20日以内に申出をしなければならないと定められています[3]。資格を喪失した日は、先に述べたとおり退職日の翌日ですので、20日は、その日から数えることになります。ただし、保険者が正当な理由があると認めるときは、この期間を過ぎた申出でも受理できるとされています[3]。
また、初めて納付する保険料を納付期日までに納めなかったときは、任意継続被保険者とならなかったものとみなされます。ただし、遅れたことに正当な理由があると保険者が認めたときは、この限りでないとされています[3]。
任意継続の期間や保険料の額など、条文以外の条件は、加入していた健康保険によって異なる場合があります。どの選択肢が合うかは、退職前に、保険料の見込みを窓口で確認して比べましょう。
年金:厚生年金から国民年金への切り替え
会社などで厚生年金に加入していた場合、退職して次の職場までに空白期間があると、年金の加入区分が変わることがあります。
国民年金法の第7条では、国民年金の被保険者の区分が定められています。厚生年金保険の被保険者は第2号被保険者とされ、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の人で、第2号と第3号のどちらにも該当しない人は、第1号被保険者に当たります[4]。
加入区分が変わるときの届出について、同法の第12条では、被保険者(第3号被保険者を除く)は、資格の取得や喪失、種別の変更などを、市町村長に届け出なければならないと定められています[5]。期限については、国民年金法施行規則の第6条の2で、種別の変更の届出は、その事実があった日から14日以内に行うとされています[6]。
実際にどの区分になるか、何を提出するかは、年齢や配偶者の有無などの状況で変わります。お住まいの市区町村の窓口や、年金事務所で確認してください。
雇用保険:失業給付(基本手当)を受けられるかの確認
退職後に仕事が決まらない期間がある場合は、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付)が関わることがあります。
雇用保険法の第13条では、基本手当は、被保険者が失業した場合に、離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あったときに支給されるとされています[7]。また、特定理由離職者などに当たる場合は、この期間が離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上と、読み替えられる場合があります[7]。
ただし、この期間の条件を満たすだけで、受給が決まるわけではありません。同法の第4条では、「失業」とは、離職し、労働の意思および能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態をいうとされています[8]。また、第15条では、失業の認定を受けるには、離職後に公共職業安定所に出頭して求職の申込みをし、原則として4週間に1回、失業の認定を受けることなどが定められています[9]。離職の理由によって扱いが変わる場合もあります。
勤務先の事業主は、雇用保険の被保険者でなくなったことを、その事実があった日の翌日から10日以内に届け出る必要があるとされています[10]。受給の手続きでは、勤務先を通じて離職票などの書類が必要になることがあるため、退職前に、受け取る書類と時期を勤務先の担当者に確認しましょう。
自分が特定理由離職者に当たるか、いつ何を提出するかは、ハローワークで確認してください。
期限・必要書類・確認先の一覧
ここまでの内容を、時期ごとに表にまとめます。これは、抜けを防ぐための整理で、必要な手続きは人によって異なります。
| 時期 | やること | 期限の目安 | 確認先・必要書類 |
|---|---|---|---|
| 退職前 | 退職後の予定(すぐ就職か、空白期間か)を決める。勤務先に、退職後に必要な書類と受け取る時期を聞く | 退職日が決まった時点で | 勤務先の担当者(離職票・健康保険の資格喪失に関する書類など) |
| 退職直後(健康保険) | 国民健康保険の加入、任意継続の申出、家族の扶養のいずれかを選ぶ | 任意継続は、資格を喪失した日(退職日の翌日)から20日以内。国民健康保険は、世帯主が14日以内の届出 | 任意継続は加入していた保険者(協会けんぽ・健康保険組合など)、国民健康保険は市区町村の窓口。家族の扶養は、家族の勤務先 |
| 退職直後(年金) | 国民年金の第1号被保険者への種別変更の届出 | その事実があった日から14日以内 | 市区町村の窓口、年金事務所 |
| 退職後(雇用保険) | 求職の申込み、失業の認定を受ける | 基本手当の条件は、離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上が基本(受給が確約されるわけではない) | ハローワーク(離職票など、勤務先から受け取る書類) |
| 次の職場の入職時 | 年金や雇用保険に関する書類を渡す。健康保険の加入手続きが進んでいるか確認する | 勤務先の指示による | 新しい勤務先の担当者 |
期限のあるものは、退職前に担当窓口で確認しておきましょう。
よくある質問
Q. 任意継続の申出は、いつまでにすればいいですか?
A. 健康保険法の第37条では、被保険者の資格を喪失した日から20日以内と定められています。資格を喪失する日は退職日の翌日です。正当な理由がある場合は、保険者が受理することもありますが、早めに窓口で確認しましょう。
Q. 退職後に年金の手続きは必要ですか?
A. 空白期間があり、加入区分が変わる場合は、市町村への届出が必要になることがあります。国民年金法施行規則の第6条の2では、種別の変更の届出は、その事実があった日から14日以内とされています。状況によって異なるため、窓口で確認してください。
Q. 失業給付は、誰でも受け取れますか?
A. 受け取れるとは限りません。雇用保険法の第13条では、離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あることが、基本の条件とされています。このほかに、労働の意思と能力があり、求職の申込みをして失業の認定を受けることなどが必要です。自分が条件を満たすかは、ハローワークで確認しましょう。
まとめ:期限のあるものから、先に確認する
期限のあるものは、退職前に担当窓口で確認しておきましょう。要点は次のとおりです。
- 次の職場がすぐ始まるかどうかで、必要な手続きが変わる
- 健康保険の任意継続は、資格を喪失した日(退職日の翌日)から20日以内に申出が必要(健康保険法第36条・第37条)
- 年金は、加入区分が変わるとき、市町村への届出が必要で、期限は14日以内(国民年金法第12条、同法施行規則第6条の2)
- 失業給付は、期間の条件を満たしても、失業の認定などの別の要件がある(雇用保険法第4条・第13条・第15条)
退職の準備は、気持ちの面でも大変な時期です。期限のあるものから順に、一つずつ確認していきましょう。
引用文献
[1] 健康保険法(大正11年法律第70号)第36条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070. 2026年10月20日アクセス.
[2] 国民健康保険法施行規則(昭和33年厚生省令第53号)第3条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/333M50000100053. 2026年10月20日アクセス.
[3] 健康保険法(大正11年法律第70号)第37条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/211AC0000000070. 2026年10月20日アクセス.
[4] 国民年金法(昭和34年法律第141号)第7条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000141. 2026年10月20日アクセス.
[5] 国民年金法(昭和34年法律第141号)第12条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000141. 2026年10月20日アクセス.
[6] 国民年金法施行規則(昭和35年厚生省令第12号)第6条の2. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/335M50000100012. 2026年10月20日アクセス.
[7] 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第13条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC0000000116. 2026年10月20日アクセス.
[8] 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第4条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC0000000116. 2026年10月20日アクセス.
[9] 雇用保険法(昭和49年法律第116号)第15条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC0000000116. 2026年10月20日アクセス.
[10] 雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)第7条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/350M50002000003. 2026年10月20日アクセス.





