「今の働き方はつらいけれど、職場そのものを辞めるのは不安」と感じて、転職に踏み切れずにいる方もいるのではないでしょうか。
退職や転職は大きな決断です。その前に、今の職場の中で、働き方を変えられる余地がないかを確かめておくと、選択肢が広がります。ただし、これは選択肢の一つです。相談が難しい環境や、心身への負担が大きい状況では、無理に職場内で解決しようとする必要はありません。
この記事では、理学療法士が、辞めずに働き方を変える方法を考えるときの視点を、3つの法律の条文で確認できる範囲で整理します。職場によって制度の有無や運用は異なるため、実際に使えるかどうかは、勤務先で確認してください。
退職の前に、今の職場でできることを整理する

「辞める」か「このまま続ける」かの二択で考えると、苦しくなりがちです。その間に、「今の職場で、働き方や条件を調整する」という選択肢があります。
まず、何がつらいのかを、次のように分けて書き出してみましょう。
- 時間の問題:勤務時間、残業、休日の取りにくさ
- 業務の問題:担当する業務や人数、役割の負担
- 心身の問題:疲れや不調が続いている
- 生活との両立:育児や介護との関係
分けてみると、制度で調整できそうなものと、そうでないものが見えてきます。
就業規則で、使える制度を確認する
職場の制度を確認する最初の入り口が、就業規則です。
労働基準法の第89条では、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならないと定められています[1]。記載する事項として、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関すること、賃金の決定や計算の方法、退職に関することなどが挙げられています[1]。
そのため、勤務時間や休暇、賃金の決め方などは、就業規則に定められていることが多いと考えられます。働き方を変えられないかを考えるとき、まず自分の職場の就業規則を読み、使える制度があるか、申請の方法がどうなっているかを確認しましょう。
なお、常時使用する労働者が10人未満の職場では、この条文の対象外です。その場合は、労働条件通知書や、上司への確認で調べる形になります。
育児のための、所定労働時間の短縮

育児と仕事を両立するための制度も、法律で定められています。
育児・介護休業法の第23条では、事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者で、育児休業をしていない人について、申出に基づいて所定労働時間を短縮する措置を講じなければならないとされています[2]。
ただし、事業所の労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は、労働者の過半数を代表する者)との書面による協定がある場合は、次のような労働者について、この措置を講じないものとして定めることができるとされています[2]。つまり、これらに当てはまっても、労使協定が結ばれていなければ、自動的に対象外になるわけではありません。
- 事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
- 措置を講じないことに合理的な理由があるとして、厚生労働省令で定められた労働者
- 業務の性質や実施体制から、措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
このうち、3つ目の業務に従事する労働者で、3歳に満たない子を養育する人について短縮の措置を講じない場合は、事業主は、育児休業に関する制度に準ずる措置や、在宅勤務等、始業時刻の変更などの措置のいずれかを講じなければならないとされています[2]。
なお、3歳未満の子を養育する場合の措置以外にも、仕事と育児・介護の両立を支える制度が、法律や勤務先の制度として定められていることがあります。この記事では、第23条の内容のみを確認しています。
対象かどうか、申出の方法や時期は、職場によって異なります。育児と仕事の両立を考えている場合は、早めに、勤務先の担当者に相談してください。
長時間労働や不調があるときの、医師による面接指導
長時間の労働が続いて、心身の不調を感じているときは、法律に基づく仕組みも関わってきます。
労働安全衛生法の第66条の8では、事業者は、労働時間の状況などが、労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に当てはまる労働者に対して、医師による面接指導を行わなければならないとされています[3]。
また、面接指導の結果に基づき、事業者は、医師の意見を聴かなければならず、その意見を踏まえて必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講じなければならないとされています[3]。
面接指導の対象となる具体的な要件は、厚生労働省令で定められており、この記事では内容を確認していません。自分が対象かどうか、どのように申し出るかは、勤務先の担当者や産業医、衛生管理者に確認してください。体調がすぐれないときは、制度とは別に、医療機関への受診も大切です。
部署の異動や担当業務の変更、時短以外の調整
つらさの原因が、勤務時間そのものではなく、担当する業務や人間関係、役割にある場合は、勤務時間を短くする以外の調整を考えることもできます。
- 部署や担当する利用者さん(患者さん)、担当する業務の範囲の変更
- 勤務する曜日や時間帯、休日の取り方の調整
- 業務の分担や、記録・書類などの進め方の見直し
どのような調整ができるかは、職場の人員や運営の状況によって異なります。まず、就業規則や、上司・人事の担当者に、制度や前例がないかを確認してみましょう。
直属の上司に相談しにくいときは、人事・総務の担当者、産業医や衛生管理者、労働組合などに相談する方法があります。職場の外では、厚生労働省が案内している、都道府県労働局・労働基準監督署・総合労働相談コーナーや、平日夜間・土日祝日に無料で電話相談ができる労働条件相談ほっとラインがあります[4]。
相談するときの進め方

制度を使いたいと思ったときは、次のような順番で進めると、話が伝わりやすくなります。
- 就業規則や制度の内容を、先に調べておく
- 何がつらいのか、どう変えたいのかを、具体的に整理する
- 直属の上司や、人事・総務の担当者に、希望を伝える
- 決まった内容を、書面など、記録に残る形で確認する
相談しても、希望どおりに調整できない場合もあります。その場合は、「今の職場では難しい」と分かること自体が、転職を考える材料になります。心身への負担が大きいときは、相談の結果を待たずに、休養や医療機関の受診を優先してください。
辞めずに変えるか、転職するかの考え方
辞めずに変える方法を探しても、状況が変わらないことはあります。次のような場合は、転職も、現実的な選択肢です。
- 制度が使えない、または、申し出ても調整してもらえない
- 心身の不調が続いている
- 自分が大切にしたい働き方と、職場の方向性が合わない
よくある質問

Q. 辞めずに働き方を変えたいと伝えると、評価が下がりませんか?
A. 職場によって異なります。法律で定められた制度は、条件を満たす場合に使うことができます。伝え方や時期に迷う場合は、先に就業規則や担当部署に確認しましょう。
Q. 短時間勤務の制度は、子どもが何歳まで使えますか?
A. 育児・介護休業法の第23条の措置は、3歳に満たない子を養育する労働者が対象とされています。それ以降の制度や、このほかの両立支援の制度は、勤務先の就業規則や、今回確認していない別の規定によるため、勤務先に確認してください。
Q. 長時間労働で疲れているのですが、すぐに面接指導を受けられますか?
A. 面接指導の対象になる要件は、厚生労働省令で定められています。自分が対象かどうかは、勤務先の担当者や産業医に確認しましょう。心身の不調が強いときは、医療機関の受診も考えてください。
まとめ:まず、今の職場の中でできることを確かめる
- 辞める前に、今の職場の中で、働き方を調整できないかを確認する(ただし、相談が難しい環境や心身の負担が大きいときは、無理に職場内で解決しなくてよい)
- 勤務時間や休暇などは、就業規則に定められていることが多い(労働基準法第89条、常時10人以上の職場)
- 3歳未満の子を養育する場合の所定労働時間の短縮措置がある。労使協定による除外などの条件がある(育児・介護休業法第23条)
- 長時間労働の際の医師による面接指導がある(労働安全衛生法第66条の8)
辞めない選択も、転職する選択も、どちらも間違いではありません。自分の状況に合う方法を、焦らずに探していきましょう。
引用文献
[1] 労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049. 2026年10月20日アクセス.
[2] 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)第23条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000076. 2026年10月20日アクセス.
[3] 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の8. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057. 2026年10月20日アクセス.
[4] 厚生労働省. 相談機関のご紹介. 確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト. https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/soudan/index.html. 発行年不明. 2026年10月20日アクセス.





