はじめに:「やらされ仕事」の研修から、「未来への投資」へ
「また研修か…忙しいのに時間が取られるな…」
「必須だから参加するけど、正直、内容が頭に入ってこない…」
理学療法士としてキャリアを重ねる中で、認定資格の取得や知識のアップデートのために、様々な研修会やセミナーへの参加が求められます。
しかし、日々の業務に追われる中で、これらの研修を「やらなければいけないこと」と捉え、受け身の姿勢で参加してしまっている方も少なくないのではないでしょうか。
2018年、私もまた、認定理学療法士試験を前に指定研修に参加し、「とにかく要点を聞いて、試験に受かりたい」という気持ちでいっぱいでした。
しかし、今振り返ると、その考え方は研修会という貴重な機会の価値を半減させていたように思います。
この記事では、当時の私の経験と反省を踏まえ、研修会やセミナーを単なる「インプットの場」から、自身の課題を浮き彫りにし、学習計画を最適化し、未来のキャリアをデザインするための「戦略的な機会」へと変えるための具体的な思考法と実践術を、2025年の視点から提案します。
1. 受講前のマインドセット:「受け身」から「探求者」へ
研修会の価値は、会場に入る前から決まっています。
大切なのは、「何を学びに行くか」ではなく、「何を探しに行くか」という探求者のマインドセットを持つことです。
- 課題の明確化: 研修に臨む前に、「今、自分の臨床で最も悩んでいることは何か?」「自分の知識で最も不足していると感じる分野はどこか?」といった「問い」を自分自身に投げかけ、リストアップしておきます。
- 目的の多層化: 研修の目的を、単に「知識を得る」だけでなく、以下のように多層的に設定します。
- 試験対策: 講師が強調するポイントや、重要だと繰り返されるキーワードを特定する。
- 臨床課題の解決: 自分が抱える「問い」に対するヒントや答えを探す。
- 未来予測: 業界の最新動向(例:診療報酬改定、新しいガイドラインなど)を把握し、今後の自分のキャリアに必要なスキルセットを予測する。
- 人脈構築: 講師や他の参加者との繋がりを作る機会と捉える。
2018年当時の私は、「要点を確認して試験に受かりたい」という一つの目的が主でしたが、このように複数の目的意識を持つことで、研修から得られる情報の質と量は劇的に変わります。
2. 受講中の技術:「聞く」から「対話する」へ – 講師と心の中で対話せよ
ただ漠然と講師の話を聞き、スライドを書き写すだけでは、情報は右から左へ抜けていくだけです。
研修中は、講師と心の中で「対話」するような、能動的なリスニングを心がけましょう。
- 思考を止めないノート術: ノートを左右に分け、左側には「講師が話した客観的な事実(ファクト)」を、右側には「それに対する自分の考えや疑問、臨床での応用アイデア(思考)」を書き込みます。これにより、単なる情報受信者から、主体的な思考者へと変わることができます。
- 自分の「知らないこと」を喜ぶ: 「この話は全く知らなかった…」「自分の考えとは違うな…」と感じた瞬間こそ、最大の成長のチャンスです。2018年当時の私が「画像なども弱いので、再度勉強しなおしですね」と感じたように、研修は自分の弱点を浮き彫りにしてくれる最高の診断ツールです。知らないことに気づけた自分を褒め、それを「学習リスト」の最優先事項に加えましょう。
- 「なぜ?」を5回繰り返す: 講師が「〇〇が重要です」と述べた際、「なぜそれが重要なのか?」「なぜ従来の考え方ではダメなのか?」「その根拠となるエビデンスは何か?」と、心の中で「なぜ?」を繰り返すことで、表面的な知識ではなく、その背景にある本質的な理解に近づくことができます。
3. 受講後のアクション:「感動」を「行動」に変え、未来を具体化する
研修で得た熱意やモチベーションは、残念ながら時間と共に薄れていきます。その熱量を具体的な行動へと転換し、自身の血肉とすることが最も重要です。
3.1. 「ゴールデンタイム」を逃さない – 48時間以内の振り返り
記憶が新しいうち(できれば48時間以内)に、研修で取ったノートを見返し、情報を整理します。
- 要点の再整理: 学んだ内容をマインドマップや自分の言葉でまとめ直す。
- アクションプランの作成: ノートの右側に書き出した「思考」や「疑問」を元に、「次に何をすべきか」という具体的なタスクに落とし込みます。
- 例:「〇〇の評価法について、来週△△さんの臨床で試してみる」
- 例:「ガイドラインver2の情報を、今週末に協会のHPで確認する」
- 例:「リスク管理に関する文献を、今月中に3本読む」
3.2. 学習計画の再構築:羅針盤を手に入れた航海へ
研修で得た最大の収穫は、「今後の学習の方向性」が明確になることです。
2018年当時、私は認定試験、リーダーシップ、リスク管理など、多くの学習課題を抱え、「家で勉強する時間をなかなか確保できない」と悩んでいました。
しかし、研修で自身の弱点(脳の機能解剖など)や、今後の業界の動向が明確になれば、学習の優先順位付けが可能になります。
- やること・やらないことの決定: 研修で得た気づきに基づき、学習計画をより焦点の合った、効率的なものに再構築します。「あれもこれも」ではなく、「まずはこれに集中しよう」と決めることができます。
3.3. アウトプットによる知識の定着
学んだことを最も効果的に定着させる方法は、それをアウトプットすることです。
- 伝達講習を行う: 2018年の私が計画していたように、研修内容を要約し、職場の同僚に伝達講習を行うことは、自身の理解を深める上で非常に効果的です。
- 臨床で実践し、考察する: 学んだ知識や技術を、意識的に日々の臨床で活用し、その結果を考察・記録します。
- ブログやSNSで発信する: 自分の言葉でまとめ、発信するプロセスは、思考を整理し、知識を体系化する絶好の機会です。
まとめ:研修会は自己変革のチャンス – あなたの「学び方」をアップデートしよう
2018年当時、私は日々の業務に追われ、目の前の試験に合格することだけを考えていました。
しかし、今振り返ると、あの研修会は、自分の現在地を知り、未来への道筋を考えるための貴重な機会でした。
研修会やセミナーは、単に知識を受け取りに行くだけの場ではありません。それは、
- 自分の思考の癖や知識の偏りに気づく「鏡」
- 今後の学習計画を最適化するための「羅針盤」
- そして、自身のキャリアを主体的にデザインするための「作戦会議」
なのです。
次に研修会に参加する機会があれば、ぜひ「探求者」のマインドセットで臨んでみてください。
明確な目的意識を持って参加し、能動的に学び、そして得た気づきを具体的な行動へと繋げる。
そのサイクルを回すことで、研修会はあなたの理学療法士としての成長を何倍にも加速させる「ブースター」となるはずです。