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【2025年版】理学療法の視点を変える「骨連鎖」の思考法:痛みの根本原因を見抜く力

【2025年版】理学療法の視点を変える「骨連鎖」の思考法:痛みの根本原因を見抜く力
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目次

はじめに:「なぜ足首の硬さが、膝の痛みを引き起こすのか?」その答えは骨連鎖にある

「膝が痛い患者さんの足首を調整したら、痛みが軽減した」

「肩のリハビリで、肩甲骨の動きを改善したら腕が上がるようになった」

理学療法士として、このような経験をしたことはありませんか?

私たちは日々、筋肉や神経に着目してアプローチを行いますが、人体の動きを支配しているのはそれだけではありません。

その背景には、骨と関節が織りなす巧妙な「受動的な動きの連なり」、すなわち「骨連鎖(こつれんさ)」が存在します。

2018年当時、私もこの骨連鎖の概念について学び、その奥深さに感銘を受けました。

この記事では、当時の私の考察を元に、この「骨連鎖」という概念が、いかに理学療法士の臨床推論を深化させ、痛みの根本原因を見抜くための強力な武器となり得るかについて、具体的な例を交えながら、2025年の視点から改めて深掘りしていきます。

1. 「骨連鎖」とは何か? – 筋肉の力に頼らない、体の巧妙なメカニズム

「骨連鎖」と似た言葉に「運動連鎖」や「筋連結」がありますが、これらとは少し視点が異なります。

  • 運動連鎖: 複数の関節と筋肉が協調して動作を行う、能動的な運動の繋がりを指すことが多いです。
  • 骨連鎖: 筋肉の力を介さず、主に関節面の形状靭帯や関節包の張力によって、一つの関節の動きが隣接する関節へ機械的に伝播していく受動的な動きの連鎖を指します。

イメージするなら、精密に組まれた歯車やリンク機構のようなものです。

一つの歯車が回ると、それに噛み合った別の歯車が必然的に回るように、私たちの体でも、ある骨が動くことで、隣の骨が特定の方向に動かされるという現象が常に起きています。

骨連鎖を支配する2大要素:

  1. 関節面の形状(構造的ガイドレール): 関節を構成する骨の形そのものが、動きの方向を決定づけます。凹凸が噛み合うことで、特定の軌道に沿ってしか動けないようになっています。
  2. 靭帯・関節包の張力(受動的テンションシステム): 靭帯や関節包といった軟部組織は、関節が一定以上動かないように制御する「ロープ」のような役割を果たしています。関節がある方向に動かされ、これらの組織がピンと張る(緊張する)と、その張力が次の骨を引っ張り、動きの連鎖を生み出します。

ただし、この骨連鎖は全ての人で同じように起こるわけではありません。関節の弛緩性(関節が緩いかどうか)や、筋肉の過緊張・痙性などによって、その連鎖の強さやパターンは変化します。

2. なぜ「骨連鎖」の視点が理学療法士にとって武器になるのか?

この一見地味な「受動的な動きの連鎖」を理解することは、私たちの臨床に革命的な視点をもたらします。

  • 痛みの根本原因を特定するヒントになる: 患者さんが訴える痛みの部位が、必ずしも問題の根本原因とは限りません。例えば、膝の痛みは、実は足関節の動きの異常によって生じた代償的なストレスの結果かもしれません。「骨連鎖」の知識は、痛みの原因を全身的な繋がりの中から探るための強力な思考ツールとなります。
  • 代償運動のメカニズムが理解できる: なぜ特定の関節に制限があると、別の部位で過剰な動き(代償運動)が生じるのかを、力学的に説明できます。
  • 治療のターゲットが明確になる: 問題の根本原因となっている関節や組織を特定できれば、より効率的で効果的な治療アプローチを選択できます。
  • 予後予測の精度が上がる: 特定の関節の制限が、将来的に他の部位にどのような影響を及ぼすかを予測し、予防的な介入を行うことができます。

3. 臨床で見る「骨連鎖」:3つの具体例から学ぶ

では、実際の臨床場面で「骨連鎖」はどのように現れるのでしょうか。

例1:足関節から膝関節へ – しゃがみ込み動作に隠された脛骨の回旋

しゃがみ込む時、足首は背屈(つま先が上がる方向)します。

この時、足裏が床に固定されている(CKC: 閉鎖性運動連鎖)と、何が起こるでしょうか。

  1. 脛骨の前方傾斜: 足首の背屈に伴い、脛骨(すねの骨)は前方へ傾斜します。
  2. 関節形状による誘導: 距腿関節(足首の主要な関節)は、「ほぞ継ぎ構造」と呼ばれる特殊な形をしており、背屈時にはわずかな外転(外への動き)と外反(足裏が外を向く動き)を伴います。
  3. 内旋の誘発: 足部が床に固定されているため、距骨(足首の土台の骨)は相対的に内転(内側へ向かう動き)します。この動きが「ほぞ継ぎ構造」を介して脛骨に伝わり、脛骨は必然的に内旋(内側へねじれる動き)させられます。

臨床的意義: もし何らかの原因で足関節の背屈や、それに伴う距骨の動きが制限されていると、この脛骨の正常な内旋が起こりません。すると、その代償として膝関節に過剰なねじれのストレスがかかり、痛みの原因となることがあります。

例2:股関節から骨盤へ – 歩行時の靭帯による骨盤コントロール

股関節を伸展(脚を後ろに振り上げる動作)させると、股関節の前方にある強力な靭帯(腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯など)が緊張します。

  1. 靭帯の緊張: これらの靭帯は、股関節の過伸展を防ぐブレーキの役割を果たしています。
  2. 骨盤の前傾: 靭帯がピンと張ると、それ以上股関節だけでは伸展できなくなり、その張力が骨盤を前方へ引っ張ります。その結果、骨盤が前傾するという連鎖運動が起こります。

臨床的意義: この靭帯による強力な骨連鎖は、歩行時の推進力を生み出す重要なメカニズムの一つです。しかし、股関節屈筋群の短縮などで股関節の伸展可動域が制限されていると、代償的に骨盤の前傾や腰椎の過剰な前弯が起こり、腰痛の原因となることがあります。

例3:肩関節から肩甲骨へ – 腕の動きと連動する肩甲骨の役割

肩関節の安定性においても、骨連鎖(この場合は主に関節包靭帯)は重要な役割を果たします。

  1. 水平内転時: 腕を胸の前で交差させるように動かす水平内転では、関節包後方の緩みがあるため、肩甲骨は比較的固定されたまま、上腕骨が大きく動くことができます。
  2. 水平外転時: 逆に、腕を真横に開いていく水平外転では、関節包前方の靭帯(肩甲上腕靭帯)が早期に緊張します。
  3. 肩甲骨への波及: この靭帯の緊張が、上腕骨の動きを肩甲骨へと早期かつ強力に波及させ、肩甲骨の外転・内旋(外に開く動き)を伴わせます。

臨床的意義: 肩関節周囲炎などで関節包が拘縮すると、この正常な骨連鎖が破綻し、腕を動かそうとすると、肩甲骨が異常な動き(例えば、過剰に挙上してしまうなど)を見せることがあります。リハビリでは、この関節包の柔軟性を取り戻し、正常な骨連鎖を再獲得することが重要になります。

まとめ:「骨連鎖」の視点を取り入れ、臨床推論を次のレベルへ

理学療法士の臨床は、複雑な現象を多角的に捉え、問題の根本原因を探る思考の連続です。

2018年当時、私は「ベテランの経験則にどう対抗するか」を考えていましたが、その一つの答えが、このような普遍的なバイオメカニクスの原則に立ち返り、論理的に臨床を組み立てる能力を磨くことにあると今では考えています。

「骨連鎖」の視点を持つことで、

  • 痛みの原因を、より広い視野で捉えられるようになる。
  • 治療のターゲットを、より的確に絞り込めるようになる。
  • 患者さんへの説明に、より説得力を持たせることができる。

筋肉へのアプローチはもちろん重要ですが、その土台となる骨格系の受動的なメカニズムを理解することで、私たちの臨床推論は格段に深まります。

ぜひ、日々の臨床で「この動きは、どの骨連鎖に基づいているのだろう?」と考えてみてください。

その小さな問いかけが、あなたの理学療法を次のレベルへと引き上げてくれるはずです。

【2025年版】理学療法の視点を変える「骨連鎖」の思考法:痛みの根本原因を見抜く力

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