オリンピックや世界選手権で活躍する水泳選手たち。
彼らは、日々の厳しいトレーニングやプレッシャーの中、記録更新や勝利を目指して努力しています。
しかし、輝かしい成績の裏側では、 心の健康 に課題を抱える選手も少なくありません。
今回は、ハイパフォーマンススイミングにおける ウェルビーイング(Well-being) について、最新の研究を交えながら解説するとともに、水泳選手だけでなく、 私たち自身の生活にも役立つヒント をお伝えします。
ウェルビーイングってどういうこと?
ウェルビーイングとは、 身体的、精神的、社会的に良好な状態 であることを指します。
簡単に言うと、「心身ともに健康で、幸せを感じながら生活している状態」のことです。
スポーツの世界では、これまで 「勝つこと」 が最も重要視されてきました。
しかし近年、アスリートの メンタルヘルス 問題が注目されるようになり、 ウェルビーイング の重要性が認識され始めています。
ハイパフォーマンススイミングにおけるウェルビーイング
ハイパフォーマンススイミングの分野では、 厳しいトレーニング や 結果へのプレッシャー など、 ウェルビーイング に影響を与える可能性のある要因が多く存在します。
Uzzellら(2023)は、ハイパフォーマンススイマーのウェルビーイングの変化について、 インタビュー や 観察 をもとに、 「なぜそのような変化が起こるのか」 というメカニズムを明らかにする研究を行いました。
その結果、以下の点が明らかになりました。
- 水泳中心のアイデンティティ: 幼い頃から水泳中心の生活を送る中で、 「スイマー」 としてのアイデンティティが非常に強くなり、自己認識や価値観、人間関係が水泳に偏ってしまう傾向がある。
- 変化の時期における心の揺らぎ: ジュニアからシニア、大学、引退など、スイマーはキャリアの中で様々な 変化の時期 を経験する。変化や将来への不安に伴うストレスにより、 ウェルビーイング が低下しやすくなる。
- 前向きな行動とサポートの重要性: 変化を予測し、 計画を立てる こと、そして コーチや家族、友人などから適切なサポートを得る ことで、 ウェルビーイング への悪影響を軽減できる。
水泳一色の生活で起こる心の偏り
水泳中心のアイデンティティとは、 「スイマー」 としてのアイデンティティが強すぎるあまり、 自分自身を水泳だけで定義してしまう 状態を指します。
例えば、
- 常に水泳のことばかり考えている
- 水泳以外のことに興味を持てない
- 水泳以外の友人や活動が少ない
- パフォーマンスが低下すると、自分の価値がないように感じてしまう
このような状態に陥ると、 パフォーマンス が アイデンティティ や ウェルビーイング と強く結びついてしまい、 パフォーマンス が 低下した時 に 大きな精神的ダメージ を受けてしまう可能性があります。
これは、 仕事人間 の人が 仕事 で 失敗 した時に 深く落ち込んでしまう のと似ています。
変化の波を乗り越えるために
水泳選手は、 ジュニアからシニア、 大学、 引退 など、キャリアの中で様々な 変化の時期 を経験します。
変化の時期には、 環境 や 人間関係 の変化、 将来 への不安など、様々なストレス要因に直面します。
これらのストレスにうまく対処し、 ウェルビーイング を維持するためには、 前向きな行動 が重要になります。
前向きな行動 とは、 「問題が起こってから対処する」 のではなく、 「問題が起こる前から、 積極的に行動を起こす」 ことです。
例えば、
- 将来 のことを考え、 目標 や 計画 を立てる
- 新しい環境 に 慣れる ための努力をする
- 周囲の人 と コミュニケーション を取り、 サポート を得る
- 気分転換 の方法を見つける
あなたも私も、”私”らしく
今回ご紹介した 水泳中心のアイデンティティ や 変化の時期 の問題は、 水泳選手 だけでなく、 私たち にも当てはまるのではないでしょうか。
例えば、
- 仕事が忙しすぎて、 仕事中心 の生活になっていませんか?
- 趣味 や 友人 と過ごす時間など、 仕事以外 の楽しみはありますか?
- 転職 や 結婚、 出産 など、 人生の転機 にうまく対応できていますか?
もし、これらの質問に 「Yes」 と答えた方は、 自分自身 を 多角的に見つめ直し、 様々なことに興味 を持ち、 変化 に 柔軟に対応できる よう 準備 をしておくことが大切です。

私自身こういった変化に対応がうまくできず、大きなストレスを感じてしまった経験があります。柔軟に対応できるように計画や目標を立てることも重要ですが、いざというときに、その計画通り、行動できるかどうかも大切なのではないかと考えています。
まとめ
ハイパフォーマンススイミングにおける ウェルビーイング について、最新の研究を交えながら解説しました。
「勝つこと」 だけではなく、 「心身の健康」 も大切にすることで、水泳選手は より充実した競技生活 を送ることができるでしょう。
そして、 私たち自身 も、 前向きな行動 を心がけ、 変化 を恐れずに 自分らしく生きていく ことが大切なのではないでしょうか。
参考文献
- Uzzell, K. S., Knight, C. J., Pankow, C., & Hill, D. M. (2023). Well-being in high performance swimming: A grounded theory study. Psychology of Sport and Exercise, 85, 102557.
- Schwarzer, R., & Taubert, S. (2002). Tenacious goal pursuits and striving toward personal growth: Proactive coping. In E. Frydenberg (Ed.), Beyond coping: Meeting goals, visions, and challenges (pp. 19-36). Oxford University Press.
- 坪井康次 (2010). ストレスコーピング ─自分でできるストレスマネジメント─. 心身健康科学, 6(2), 59-64