気分が落ち込んだり、やる気が出ない日が続くと、つらいですよね。もしかしたら、それはうつ病のサインかもしれません。
近年、うつ病は世界中で増加しており、日本でも深刻な社会問題となっています。厚生労働省の調査によると、日本のうつ病患者数は100万人を超えていると言われています。
うつ病の治療法としては、薬物療法や精神療法などがありますが、近年注目されているのが運動療法です。運動には、ストレスを軽減したり、脳内の神経伝達物質の分泌を促進したりする効果があることが知られています。

今回は、運動がうつ病に与える影響について、最新の研究結果を交えながら詳しく解説していきます。
研究紹介
2010年6月1日、ドイツのラスケ・クリストフらの研究グループは、うつ病が寛解した高齢女性において、1回の運動が脳由来神経栄養因子(BDNF)の血清濃度に与える影響について、症例対照研究を行いました。
- 脳由来神経栄養因子(BDNF): 神経細胞の生存、成長、分化を促進するタンパク質で、うつ病の改善に重要な役割を果たしていると考えられています。
- 血清濃度: 血液中の特定の物質の濃度のこと。
- 症例対照研究: 既に病気になっている人(症例群)と病気になっていない人(対照群)を比較することで、病気の原因やリスク因子を調べる研究方法。
その結果、1回の運動セッションは、うつ病が寛解した高齢女性のBDNF血清レベルの大幅なアップレギュレーションと一時的な正常化につながると報告しました。
- アップレギュレーション: 細胞内の特定の物質の産生量が増加すること。

この研究では、うつ病が寛解した高齢女性35人と健康な高齢女性20人を対象に、1回の運動セッションの前後におけるBDNF血清濃度を測定しました。
研究の結果、運動セッション後、うつ病患者のBDNF血清レベルは、健康な対照群と同等の値まで有意に増加しました。この結果は、運動がうつ病患者の脳機能を改善する可能性を示唆しています。
- 寛解: 病気の症状が一時的に消失または軽減している状態。
この研究のポイント
- 運動がBDNFに与える影響を直接的に調べた研究 これまでの研究の多くは、運動の効果を間接的に測定していましたが、この研究では、運動がBDNFに与える影響を直接的に測定しています。
- 高齢者を対象とした研究 高齢者は、うつ病のリスクが高い集団であるため、高齢者を対象とした研究は重要です。
- 厳密な研究デザイン この研究では、対照群を設定することで、運動の効果をより明確に示しています。
この研究からわかったこと
- うつ病が寛解した高齢女性では、BDNFの血清濃度が低下している これは、うつ病とBDNFの関連性を示唆する先行研究と一致する結果です。BDNFは、神経細胞の生存、成長、そして神経可塑性(脳が変化する能力)に重要な役割を果たしています。うつ病では、このBDNFが減少し、神経細胞の機能が低下していると考えられています。
- 1回の運動セッションでも、BDNFの血清濃度が上昇し、一時的に正常化する 驚くべきことに、たった1回の運動でも、BDNFの血清濃度が上昇し、健康な人と同レベルになることがわかりました。運動は、脳を活性化させ、BDNFの産生を促す効果があると考えられます。
- 運動は、うつ病の再発予防に役立つ可能性がある BDNFの増加は、神経細胞の機能回復を促し、うつ病の再発を予防する可能性があります。運動を継続することで、BDNFのレベルを維持し、うつ病の再発リスクを減らせるかもしれません。
研究の限界
- 症例対照研究であるため、因果関係を証明できない 症例対照研究は、既に病気になっている人と健康な人を比較する研究方法なので、運動がBDNFを増やしたと断言することはできません。他の要因が影響している可能性も考えられます。
- サンプルサイズが比較的小さい この研究の対象者は55名と比較的小規模です。より多くの被験者を対象とした研究で、同様の結果が得られるか確認する必要があります。
- 高齢女性に限定されているため、結果を他の集団に一般化できない可能性がある この研究は高齢女性のみを対象としているため、男性や若い世代にも同じことが言えるかどうかは、さらなる研究が必要です。
- サンプルサイズ: 研究の対象となる人数。
- 因果関係: ある事象が別の事象の原因となっているという関係。
運動の効果を高めるには?

- 自分に合った運動を見つけ、継続することが重要です。 ウォーキング、ジョギング、水泳、ヨガなど、様々な運動があります。自分が楽しめる運動を見つけ、無理なく続けられるようにしましょう。
- 運動の強度や頻度、時間などは、個人の体力や健康状態に合わせて調整しましょう。 最初は軽い運動から始め、徐々に強度や時間を増やしていくようにしましょう。
- 運動を始める前に、医師に相談するなどして、安全に運動を行うようにしましょう。 特に持病がある方や高齢の方は、運動を始める前に医師に相談することをおすすめします。
まとめ:
今回は、運動がうつ病に与える影響について、最新の研究結果を交えながら解説しました。運動は、うつ病の予防や治療に効果的な方法である可能性があります。
運動の効果には個人差があります。運動を始める前に、医師に相談するなどして、自分の体調に合った運動を行うようにしましょう。
参考文献:
- Laske C, Banschbach S, Stranksy E, Bosch S, Straten G, Makan J, et al. Exercise-induced normalization of decreased BDNF serum concentration in elderly women with remitted major depression. Int J Neuropsychopharmacol. 2010 Jun;13(5):595-60 1 2. doi: 10.1017/S1461145709991234. Epub 2010 Jan 27. PMID: 20067661. 1. www.dolphinblog.com www.dolphinblog.com
重要なお知らせ:
本記事は、うつ病に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。うつ病などの診断や治療については、必ず医療従事者にご相談ください。