MENU
2025年1月23日~ブログを一時的に閉鎖、5月18日より順次記事を更新していきます。ご迷惑をおかけしておりますがよろしくお願いしたします。

【2024年版】股関節が膝を壊す? Coxitis knee(股関節膝関連症候群)の理解と対策

【2024年版】股関節が膝を壊す? Coxitis knee(股関節膝関連症候群)の理解と対策
  • URLをコピーしました!

はじめに:「Coxitis knee」とは?

2017年当時、変形性股関節症の勉強をしていて「Coxitis knee」という言葉に出会いました。読み方から調べた記憶がありますが(コクサイティス・ニーなどが近いようです)、この用語は歴史的に使われてきたものの、現在では少し曖昧さも指摘されています。「Coxitis」は股関節の炎症を指しますが、股関節の問題が膝に影響を及ぼすのは、炎症だけでなく、拘縮や変形、脚長差といったメカニカルな要因が非常に大きいからです。

そこで、この記事では「Coxitis knee」が示す「股関節疾患に続発する膝関節の疼痛や変形」という概念、いわば「股関節膝関連症候群」とも呼べる病態連鎖について、2017年の考察を基に、現在の視点からアップデートして解説します。なぜ股関節の問題が膝に影響するのか、そして私たち理学療法士は何をすべきなのかを掘り下げていきましょう。

なぜ股関節の問題が膝に影響するのか?:メカニカルストレスの連鎖

股関節、特に変形性股関節症などで股関節の内転拘縮(脚が閉じにくくなる、あるいは閉じた位置で固まる)や機能的な脚長差(患側の下肢が短くなる)が生じると、立位や歩行時の下肢アライメントや荷重バランスが崩れ、膝関節に二次的なストレスがかかります。

  1. 患側(同側)膝への影響:
    • 股関節が内転位をとると、体重心に対して大腿骨が内側に寄り、膝関節には外反(X脚方向)ストレスが増加しやすくなります。膝の外側組織への伸張ストレスや、内側関節面への圧迫ストレスが増大し、疼痛や変形(外反変形)を引き起こす可能性があります。
  2. 健側(対側)膝への影響:
    • 患側の機能的短縮を代償するために、健側の膝を曲げて骨盤の高さを調整しようとすることがあります(代償的な膝屈曲)。
    • また、歩行中に患側への荷重を避けようとして健側への荷重時間が増えたり、骨盤の動揺を抑えるために健側下肢で強く踏ん張ったりすることで、健側膝関節、特に内側(内反方向)へのストレスが増加し、内反変形や内側型変形性膝関節症を誘発・助長する可能性があります。
  3. Windswept Deformity(風に吹かれた変形):
    • この両者の影響が組み合わさった典型例が「Windswept Deformity」です。股関節の内転拘縮がある側(患側)の膝は外反し、それを代償する健側の膝は内反する、まるで風に吹かれたような下肢全体の変形パターンを指します。

これらのメカニズムは、変形性股関節症に限らず、股関節周囲骨折後の変形治癒や、その他の原因による股関節拘縮、顕著な脚長差がある場合にも起こり得ます。

臨床での評価ポイント:股関節だけでなく全体を見る

「股関節膝関連症候群」を疑う場合、あるいは予防するためには、股関節だけでなく、骨盤、膝関節、足部を含めた下肢全体の評価が不可欠です。

  • 股関節評価: 可動域(特に内転・外転)、拘縮の有無、筋力(特に外転筋)、疼痛部位と程度。
  • 脚長差の評価: 見かけ上の脚長差(臍や上前腸骨棘から内果まで)と、実際の骨長差(X線など)の両方を評価。立位での骨盤高位差も確認。
  • 膝関節評価: アライメント(立位での内外反)、可動域、疼痛、腫脹、不安定性、変形性膝関節症の徴候。
  • 骨盤アライメント: 立位・歩行時の骨盤の傾斜(前後傾・側方傾斜)と回旋。
  • 歩行分析: 代償動作(体幹側屈、骨盤傾斜、膝の過剰な屈曲・伸展、分回し歩行など)を詳細に観察。患側・健側それぞれの膝へのストレスパターンを推測する。

二次的合併症を防ぐために理学療法士ができること

メカニカルストレスが根本にある以上、その連鎖を断ち切る、あるいは軽減するためのアプローチが重要になります。

  1. 股関節機能の改善:
    • 内転拘縮に対しては、ストレッチングやモビライゼーション。
    • 外転筋力強化により、立脚期での骨盤の安定性を高め、健側への過剰な負担を減らす。
    • 疼痛管理。
  2. 脚長差への対応:
    • 2017年当時に「3cm以上は補高靴」と単純に記憶していたことへの反省がありましたが、まさにその通りで、画一的な基準だけでなく、個々の患者さんの代償パターン、歩行能力、症状、そして補高に対する反応を見て判断することが重要です。
    • 補高(靴の中敷きや靴底の調整)の目的は、骨盤高位を水平に近づけ、健側の代償的な膝屈曲や体幹側屈を軽減することにあります。適切な補高量を決定し、導入後の歩容変化や疼痛の変化を注意深く評価します。少量から開始し、患者さんの適応を見ながら調整することが推奨されます。
  3. 代償動作の修正:
    • 歩行指導や運動療法を通じて、膝関節への負担が大きい代償パターン(例:過剰な膝屈曲、体幹側屈)を、より効率的で負担の少ない動作パターンへと修正を図ります。
  4. 膝関節自体のケア:
    • 膝周囲筋(大腿四頭筋、ハムストリングスなど)の筋力維持・強化。
    • 膝関節への負担を軽減するための生活指導(体重管理、活動量の調整など)。
  5. 患者教育:
    • 股関節の状態が膝に影響を及ぼす可能性があることを患者さん自身に理解してもらい、セルフケアや生活上の注意点を守ってもらう動機付けを行います。

まとめ:運動連鎖の視点を持つことの重要性

「Coxitis knee」という言葉自体は古くても、それが示す「股関節の問題が膝に影響を及ぼす」という運動連鎖の概念は、臨床において非常に重要です。2017年当時にこの概念の重要性を再確認しましたが、その後の経験を経て、さらにその意義を深く感じています。

股関節疾患の患者さんを担当する際には、常に膝関節の状態にも注意を払い、下肢全体のメカニカルストレスを評価する視点を持つことが、二次的な問題の予防と、患者さんの長期的なQOL維持に繋がります。脚長差の評価と適切な対応の重要性も、改めて強調したいと思います。

この記事が、皆さんの臨床における評価・介入の一助となれば幸いです。

【2024年版】股関節が膝を壊す? Coxitis knee(股関節膝関連症候群)の理解と対策

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!