「最近、肌のくすみが気になる…」「なんだか体が疲れやすくなった…」 もしかしたら、それは体の中で静かに進行している「体のコゲ」が原因かもしれません。
この「体のコゲ」の正体こそ、近年、老化や様々な病気の原因として注目されている「AGEs(終末糖化産物)」なのです。
こんにちは!あなたの心と体の健康をサポートする理学療法士のPTケイです。
今回は、このAGEsについて、最新の研究知見をまとめたポーランドのレビュー論文(多数の研究を集めて分析した信頼性の高い論文)を参考に、AGEsとは一体何なのか、なぜ私たちの健康にとって重要なのか、そしてAGEsを増やさないために何ができるのかを、分かりやすく解説していきます。
この記事を読んで、AGEsへの理解を深め、今日からできる対策を始めてみませんか?
研究紹介:AGEs研究の最前線からの報告
まずは、今回参考にした論文の概要です。
2022年にポーランドの研究者アレクサンドラ・トワルダ・クラパらは、終末糖化産物(AGEs)の形成、化学、分類、受容体、およびAGEs関連疾患についてのレビュー論文を発表しました。この論文では、AGEsが体内外で形成される多様な化合物群であり、複数の細胞受容体を介して酸化ストレスや炎症反応を引き起こし、糖尿病、心血管疾患、神経変性疾患、がんなど多くの疾患の発症や進行に関与していることを報告しています。
このレビュー論文は、AGEsに関する膨大な研究成果を整理し、その全体像を示してくれる非常に価値の高いものです。
そもそもAGEs(終末糖化産物)って何?
「AGEs」という言葉を初めて聞いた方もいらっしゃるかもしれませんね。AGEsとは、Advanced Glycation End products の略で、日本語では「終末糖化産物」と呼ばれます。
これは、私たちの体の中にあるタンパク質(筋肉、皮膚のコラーゲン、血管など体の構成成分)や脂質、核酸(DNAなど)が、食事から摂取したり体内で作られたりする糖(ブドウ糖など)と結びついて、体温でゆっくりと化学反応(糖化反応)を起こし、最終的に作られる変性した物質の総称です。
この反応は、ホットケーキがきつね色に焼けるのと同じ「メイラード反応」と呼ばれるもので、体の中で起こる場合は「体のコゲ」とも例えられます。
AGEsは、体の中で自然に、ゆっくりと時間をかけて作られる(内因性AGEs)だけでなく、私たちが口にする食べ物、特に高温で加熱調理された食品(外因性AGEs または 食事性AGEs)からも体内に取り込まれます。
AGEsには非常に多くの種類が存在し、その構造や性質も様々です。代表的なものにCML(カルボキシメチルリジン)やCEL(カルボキシエチルリジン)、ペントシジンなどがありますが、これらは氷山の一角に過ぎません。
- 用語解説:
- 糖化反応: 糖とタンパク質などが非酵素的に結合する反応。メイラード反応もその一部。
- メイラード反応: 還元糖とアミノ化合物(アミノ酸、タンパク質など)の間で起こる非酵素的な化学反応。食品の加熱調理による褐色化や風味の生成に関与する一方で、AGEsを生成する。
なぜAGEsが注目されるの? 体への影響と重要性
では、なぜこのAGEsがこれほどまでに注目されているのでしょうか? それは、AGEsが体内に蓄積すると、私たちの体に様々な悪影響を及ぼし、老化を促進したり、多くの病気を引き起こしたりすると考えられているからです。
AGEsが体に悪影響を与える主なメカニズムは、大きく分けて2つあります。
- タンパク質などを変性させ、本来の機能を損なう:AGEsは、体の構成成分であるタンパク質(特にコラーゲンのような寿命の長いタンパク質)に結合し、架橋(タンパク質同士をくっつけてしまう)を形成します。これにより、タンパク質は硬く、もろくなり、本来の柔軟性や機能を失ってしまいます。例えば、皮膚のコラーゲンが硬くなればシワやたるみの原因に、血管が硬くなれば動脈硬化の原因になります。骨がもろくなれば骨粗鬆症のリスクが高まります。
- 細胞の受容体に結合し、有害なシグナルを送る: 私たちの細胞の表面には、特定の物質をキャッチするための「受容体」があります。AGEsにも専用の受容体が存在し、その代表格が「RAGE(Receptor for AGEs)」です。AGEsがRAGEに結合すると、細胞内に「警報」のようなシグナルが送られ、酸化ストレス(体のサビつき)を引き起こす物質の産生や、炎症を引き起こす物質の放出が促進されてしまいます。この酸化ストレスや慢性的な炎症は、様々な病気の温床となります。
このように、AGEsは組織を直接傷つけるだけでなく、細胞レベルで有害な反応を引き起こすことで、全身の老化や病気の発症・進行に深く関わっている「重要な物質」として、医学・健康分野で非常に重視されているのです。
- 用語解説:
- RAGE (Receptor for AGEs): AGEsに対する主要な細胞表面受容体の一つ。AGEsが結合することで細胞内にシグナルが伝達され、炎症や酸化ストレスなどを引き起こす。
- 酸化ストレス: 体内で発生した活性酸素などの酸化物質が過剰になり、体の抗酸化能力とのバランスが崩れて細胞がダメージを受ける状態。
- 炎症: 本来は体を守るための反応ですが、これが慢性的に続くと様々な病気の原因となる。
AGEsが引き起こす健康リスクとは?
AGEsの蓄積は、具体的にどのような健康リスクにつながるのでしょうか? レビュー論文では、以下のような多くの疾患との関連が指摘されています。
- 糖尿病とその合併症: AGEsは高血糖状態で生成が促進され、糖尿病の発症に関わるだけでなく、網膜症、腎症、神経障害といった深刻な合併症の進行にも深く関与しています。
- 心血管疾患: 血管の壁にAGEsが蓄積すると、血管が硬く、もろくなり(動脈硬化)、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。心不全との関連も指摘されています。
- 神経変性疾患: アルツハイマー病の脳に見られる老人斑(アミロイドβプラーク)や神経原線維変化(タウタンパク質)の形成・蓄積にAGEsが関与している可能性が示唆されています。パーキンソン病との関連も研究されています。
- 腎臓病: 腎臓はAGEsを排泄する重要な臓器ですが、AGEsが蓄積すると腎機能が低下し、慢性腎臓病(CKD)の進行に関与します。
- がん: AGEsが引き起こす慢性的な炎症や酸化ストレスは、がん細胞の発生や増殖、転移を促進する可能性が指摘されています。乳がん、前立腺がん、肝臓がんなどとの関連が報告されています。
- 骨・関節の疾患: 骨のコラーゲンにAGEsが蓄積すると骨がもろくなり、骨粗鬆症や骨折のリスクが高まります。変形性関節症の進行にも関与すると考えられています。
- 皮膚の老化: 皮膚のコラーゲンやエラスチンにAGEsが蓄積すると、弾力性が失われ、シワ、たるみ、くすみの原因となります。
- 不妊症: 卵巣や精子の機能に悪影響を与え、不妊の原因の一つとなる可能性が研究されています。
- その他の疾患: 肝臓病(NAFLD/NASH)、自己免疫疾患、アレルギー、さらにはCOVID-19の重症化にもAGEsが関与している可能性が指摘されています。
このように、AGEsは全身の様々な臓器や組織に影響を及ぼし、非常に多くの健康問題に関わっていることがわかります。
AGEsを増やさないために!今日からできる対策
AGEsの怖さをお伝えしてきましたが、悲観する必要はありません。AGEsは、日々の生活習慣を見直すことで、その生成を抑えたり、体内に溜め込んだりするのを防いだりすることが可能です。レビュー論文で示唆されている内容も踏まえ、具体的な対策を見ていきましょう。
1. 食事からのAGEs摂取(外因性AGEs)を減らす AGEsは食品の調理法によって含有量が大きく変わります。
- 高温での調理(揚げる、焼く、炒める、直火焼き)はAGEsを大量に生成します。こんがりとした焼き色や香ばしさは、AGEsが生成されているサインでもあります。
- 「蒸す」「茹でる」「煮る」といった、低温で水分を使った調理法を選ぶことで、食品中のAGEs生成を大幅に抑えることができます。
- 加工食品(ソーセージ、ベーコン、スナック菓子など)やファストフードは、製造過程で高温処理されていることが多く、AGEs含有量が高い傾向にあります。摂取を控えめにしましょう。
- 肉や脂肪の多い食品は、高温調理で特にAGEsが増えやすいので注意が必要です。
2. 体内でのAGEs生成(内因性AGEs)を抑える
- 血糖値の急上昇を避ける: 高血糖は体内の糖化反応を促進します。
- 糖質の摂りすぎに注意し、精製された炭水化物(白米、白いパン、砂糖など)よりも、全粒穀物や食物繊維の多い食品を選びましょう。
- 食べる順番を工夫する。「野菜(食物繊維)→タンパク質・脂質→炭水化物」の順で食べることで、血糖値の上昇を緩やかにできます。(ベジファースト)
- 早食いを避け、よく噛んで食べることも大切です。
- 抗酸化物質を多く摂る: 体のサビつき(酸化ストレス)はAGEs生成を促進します。緑黄色野菜、果物、ナッツ類などに含まれるビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどの抗酸化物質を積極的に摂取し、体の抗酸化力を高めましょう。
3. その他の生活習慣
- 適度な運動: 運動は血糖コントロールを改善し、抗酸化力や抗炎症作用を高めるなど、AGEs対策にも有効です。
- 禁煙: 喫煙は体内の酸化ストレスを増大させ、AGEsの蓄積を促進します。
- 質の高い睡眠: 睡眠不足はホルモンバランスや代謝に影響し、AGEs蓄積に関与する可能性があります。
- ストレス管理: 過度なストレスも酸化ストレスの原因となります。自分なりのリラックス法を見つけましょう。
これらの対策は、AGEsを減らすだけでなく、生活習慣病の予防やアンチエイジングにも繋がる、健康的な生活の基本とも言えます。レビュー論文でも、食事やライフスタイルの改善がAGEs蓄積抑制に重要であることが示唆されています。
まとめ
今回は、老化や多くの病気の原因物質として注目される「AGEs(終末糖化産物)」について、最新のレビュー論文を基に解説しました。
- AGEsは、糖とタンパク質などが結びついてできる「体のコゲ」であり、体内での生成だけでなく、食品(特に高温加熱したもの)からも摂取されます。
- 体内に蓄積したAGEsは、組織を硬くしたり、酸化ストレスや炎症を引き起こしたりすることで、老化を促進し、糖尿病、心血管疾患、神経変性疾患、がんなど多くの健康リスクに関わっています。
- しかし、食事(調理法、食べる順番、内容)や生活習慣(運動、禁煙など)を見直すことで、AGEsの生成・蓄積を抑えることが可能です。
AGEsについて正しく理解し、日々の生活の中で少し意識を変えることが、将来の健康を守るための大きな一歩となります。「体のコゲ」を溜めない生活を心がけ、いつまでも若々しく、元気に過ごしましょう!
参考文献
Towarda-Kłapa A, Olczak A, Białkowska AM, Koziołkiewicz M. Advanced Glycation End Products (AGEs): Formation, Chemistry, Classification, Receptors, and Diseases Related to AGEs 1 . Cells. 2022;11(8):13 2 12. Published 2022 Apr 12. doi:10.3390/cells11081312
健康・医学関連情報の注意喚起
本記事は、AGEs(終末糖化産物)に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。 糖尿病やその他の疾患の診断や治療、食事療法については、必ず医療従事者にご相談ください。