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2025年1月23日~ブログを一時的に閉鎖、5月18日より順次記事を更新していきます。ご迷惑をおかけしておりますがよろしくお願いしたします。

訪問リハビリの今とこれから:知っておきたい課題と可能性

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こんにちは!理学療法士のPTケイです。

理学療法士としての経験と心理学の知識を活かし、皆さんの健康に役立つ情報をお届けしています。

さて、高齢化が進む現代社会において、「訪問リハビリテーション」(以下、訪問リハビリ)の役割はますます大きくなっています。ご自宅で専門的なリハビリを受けられるこのサービスは、多くの方の在宅生活を支える力となっています。

しかし、その一方で、利用者数が増え続ける中で、質の高いサービスを維持・向上させていくためには、いくつかの課題も明らかになってきました。

今回は、訪問リハビリが今どのような状況にあり、これからどんな未来を目指していくのか、最新の研究報告を基に、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

目次

最新研究が示す訪問リハビリのリアル

2024年8月、日本のホンダ ケンジロウ氏らは、「訪問リハビリテーションの現状と課題」と題する総説を発表しました。この研究は、これまでの訪問リハビリに関する多くのデータや報告をまとめ、分析したものです。その結果、訪問リハビリの利用者数は年々増加しており、そのニーズが拡大している一方で、リハビリの質をどう管理していくか(リハビリテーションマネジメント)、医師がどのように関わっていくべきか、そして病院から在宅へとスムーズに移行するための連携体制(医療・介護連携)の構築などが、重要な課題であると指摘されています。

概要

その訪問リハビリですが、提供する事業所の種類や利用する保険制度によって、内容やルールに違いがあることをご存知でしょうか。

まずは、以下の表でその概要を見てみましょう。

表:訪問リハビリテーションの種類とそれぞれの特徴

提供元区分提供者保険制度算定制度算定上限数診療・指示指示期間
訪問リハビリテーション
事業所
病院、診療所医療保険在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料1単位(20分) 週6単位(※1)事業所の医師の訪問診療(※3)1ヵ月
病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院介護保険(介護予防)訪問リハビリテーション費1回(20分) 週6回(※1)事業所の専任常勤医師(※3)3ヵ月
訪問看護
事業所
訪問看護ステーション医療保険訪問看護基本療養費1日30~90分 週3回(※1)かかりつけ医6ヵ月
介護保険訪問看護I 51回(20分) 週6回(※2)かかりつけ医6ヵ月

(出典: 本田、他,2024, 下記参考文献を参考に改変)

注釈

  • ※1: 条件を満たす場合はこれを上回る利用が可能。
  • ※2: リハ職の訪問が看護師の訪問を上回るまたは特定の加算を算定していない場合減算あり。要支援者に12月を超えて行う場合にも減算あり。
  • ※3: 条件付きで他医療機関の医師による診察でも可能、減算あり。

この表からわかるように、訪問リハビリは大きく「訪問リハビリテーション事業所」から提供される場合と、「訪問看護事業所」から提供される場合に大別され、それぞれで利用する保険制度(医療保険または介護保険)によっても内容が異なります。

提供元と保険制度による主な違い

  • 訪問リハビリテーション事業所
    • 医療保険を利用する場合: 提供者は病院や診療所に限られます。事業所の医師による訪問診療のもと、リハビリが行われ、指示期間は1ヶ月となります。
    • 介護保険を利用する場合: 病院、診療所に加え、介護老人保健施設や介護医療院からも提供されます。事業所の専任常勤医師(条件付きで他医療機関の医師も可)が3ヶ月ごとにリハビリ計画を見直し、指示を出します。 こちらが、いわゆる医師による「リハビリテーションマネジメント」が比較的しっかりと行われる体制と言えます。
  • 訪問看護事業所(訪問看護ステーションから提供)
    • 医療保険・介護保険いずれを利用する場合も: かかりつけ医からの指示(指示期間6ヶ月)に基づいて、訪問看護ステーションの療法士がリハビリを行います。 訪問リハビリテーション事業所からの介護保険サービスと比較すると、リハビリ計画に対する事業所医師の直接的かつ定期的な関与の度合いが異なります。

このように、どの事業所から、どの保険制度を利用して訪問リハビリを受けるかによって、医師の関わり方、リハビリ計画の立て方、利用できる期間や頻度などが変わってきます。

ご自身やご家族が利用を検討される際には、これらの違いを理解し、ケアマネジャーや医療機関の相談員によく確認することが大切です。

訪問リハビリの利用者はどれくらい?どんな人が利用しているの?

まず、訪問リハビリの現状をもう少し詳しく見ていきましょう。

  • 利用者数は増加傾向: 訪問リハビリの利用者数は年々増えており、2022年には約13.6万人に達しています。これは、在宅での療養生活を望む方や、その支援の必要性が高まっていることを示しています。
  • 利用者の変化: 以前に比べて、比較的介護度が軽い「要支援」の方の利用が増加し、一方で「要介護3~5」といった重度の方の割合は減少傾向にあります。これは、早期からの介入による重度化予防への意識の高まりや、サービスの対象者が広がっていることを反映しているのかもしれません。

提供されるリハビリ内容には偏りも

訪問リハビリで実際にどのようなリハビリが行われているかというと、関節の動きを良くしたり、筋力を高めたりといった「身体機能の向上」を目指す練習が95.4%と非常に高い割合を占めています。また、日常生活動作(ADL)の中でも、寝返りや起き上がり、移動といった基本的な動作の練習も多く行われています。

もちろんこれらは非常に重要な訓練ですが、一方で、食事の準備や買い物、掃除といった「手段的日常生活動作(IADL)」の練習は27.0%と比較的低い数値に留まっています。つまり、実際の生活場面での応用や社会参加に繋がるような「活動」や「参加」へのアプローチが、まだ十分ではない可能性が示唆されています。

用語解説

  • ADL (Activities of Daily Living;日常生活動作): 食事、入浴、排泄、着替え、移動など、日常生活を送る上で基本的な動作のこと。
  • IADL (Instrumental Activities of Daily Living;手段的日常生活動作): 電話、買い物、食事の準備、家事、洗濯、服薬管理、金銭管理など、ADLより複雑で高次な生活機能のこと。

カギを握る「医師の関与」の実態

訪問リハビリの質を担保する上で、医師の関与は非常に重要です。特に、リハビリを提供する事業所の医師が定期的に利用者を診察し、リハビリ計画を立て、多職種と連携しながら進めていく「リハビリテーションマネジメント」が求められています。

しかし、調査によると、事業所の医師が診察していない利用者がいる事業所が27.4%も存在することが明らかになっています。事業所の医師が関与する場合、リハビリ会議(利用者さんやご家族、担当スタッフが集まってリハビリの計画や目標について話し合う会議)での説明内容が、生活機能の今後の見通しや目標達成までの期間など、より具体的で多岐にわたる傾向があることも報告されています。

用語解説

  • リハビリテーションマネジメント: 医師を中心とした多職種(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、ケアマネジャーなど)が連携し、利用者さんの状態を評価し(Survey)、リハビリ計画を立て(Plan)、実行し(Do)、その効果を評価し(Check)、必要に応じて計画を改善していく(Action)という一連のサイクル(SPDCAサイクル)を通じて、リハビリの質を管理すること。

「いつまで続ける?」効果と期間のジレンマ

訪問リハビリの効果について、特に要支援の方の場合、利用開始から12ヶ月を過ぎると、ADLの改善が乏しくなる傾向が報告されています。このため、一定期間を過ぎても漫然とサービスが継続されることを防ぐ目的で、長期利用の場合には介護報酬が減算される仕組みも導入されました。

しかし、利用者さんやご家族の希望によって長期間継続されているケースが多いという実態もあります。もちろん、進行性の病気の方や、加齢によって徐々に機能が低下していく方など、継続的な支援が必要な場合も多くあります。個々の状態やニーズに合わせた、適切な期間と目標設定が重要になります。

退院後のスムーズな連携こそが成功の秘訣

病院を退院してから、できるだけ早く在宅での生活に慣れ、安定した生活を送るためには、切れ目のないリハビリテーションが不可欠です。研究によれば、退院後14日未満という早期に訪問リハビリを開始した方が、それ以降に開始した場合よりもADLの改善が大きいことが示されています。

しかし、現状では、ケアプランの作成や事業所医師の診察までに時間がかかってしまう、入院中のリハビリ情報が十分に共有されない、といった課題がありました。 また、退院前に病院スタッフと在宅サービススタッフが情報共有を行う「退院前カンファレンス」への訪問リハビリ事業所の参加率も21.1%と低い状況でした。

こうした課題を解決するために、最近の制度改正では、以下のような改善策が講じられています。

  • 入院中の医療機関の医師が、退院後の初回訪問リハビリ指示を出せるようになりました。
  • 退院後1ヶ月間に限り、事業所医師の診察がなくても訪問リハビリを開始できるようになりました。
  • 介護保険事業所が、入院中のリハビリ計画書を入手することが義務化されました。
  • 訪問リハビリ事業所のスタッフが退院前カンファレンスに参加し、共同指導を行った場合の報酬が認められるようになりました。

これらの取り組みにより、よりスムーズで質の高い連携が期待されています。

質の高い訪問リハビリを上手に活用するために私たちができること

今回の研究結果を踏まえ、利用者さんやご家族、そして私たち医療・介護専門職が、質の高い訪問リハビリを効果的に活用していくために何ができるでしょうか。

利用者さん・ご家族ができること

  1. 「こうなりたい」を具体的に伝えよう: 「歩けるようになりたい」だけでなく、「また近所のスーパーへ買い物に行きたい」「趣味の集まりに顔を出したい」など、リハビリを通して実現したい具体的な目標を、担当の療法士やケアマネジャーに遠慮なく伝えてみましょう。目標が明確になることで、リハビリの計画もより個別的で効果的なものになります。
  2. リハビリ会議には積極的に参加を: 定期的に開催されるリハビリ会議は、ご自身の状態やリハビリの進捗、今後の目標などを多職種と共有する大切な機会です。積極的に参加し、疑問や希望を伝えましょう。
  3. 退院前から早めに相談を開始: 入院中から、退院後の生活や訪問リハビリの利用について、病院のソーシャルワーカーや地域連携室、ケアマネジャーに相談を始めることが、スムーズな移行に繋がります。
  4. 小さな変化や疑問も共有: リハビリを進める中で感じた体の変化や、生活の中での困りごと、リハビリ内容に関する疑問などは、どんな小さなことでも担当者に伝えるようにしましょう。それが、より良いリハビリに繋がるヒントになることがあります。

医療・介護従事者に求められること

  1. 多職種連携の深化と情報共有の徹底: 医師、看護師、療法士、ケアマネジャーなど、関わる全ての職種が密に連携し、利用者さんの情報をタイムリーに共有することが不可欠です。特に、ICF(国際生活機能分類)のような共通言語を用いて、心身機能だけでなく、活動や参加、環境因子といった多角的な視点から利用者さんを理解し、支援していくことが重要です。
  2. 利用者主体の目標設定と個別性重視のアプローチ: 身体機能の回復訓練だけでなく、利用者さんの価値観や生活背景、そして「こうありたい」という希望を尊重し、活動・参加レベルの目標をバランス良く設定することが求められます。
  3. 制度改正へのアンテナと柔軟な対応: 介護保険制度は定期的に見直されます。最新の情報を常に把握し、利用者さんにとって最善のサービスが提供できるよう、柔軟に対応していく姿勢が大切です。
  4. 効果的なリハビリテーションマネジメントの実践: 医師の積極的な関与のもと、SPDCAサイクルを確実に回し、リハビリの質を継続的に高めていく努力が必要です。

まとめ

訪問リハビリテーションは、住み慣れた地域でその人らしい生活を続けるための、強力なサポーターです。利用者数の増加というニーズの高まりに応えつつ、質の高いサービスを提供し続けるためには、医師のリーダーシップのもと、多職種がしっかりと連携し、一人ひとりの利用者さんに合ったきめ細やかなリハビリテーションマネジメントを実践していくことが何よりも大切です。

特に、病院から在宅への移行期においては、情報共有を密にし、早期から関わることで、利用者さんが安心して新しい生活をスタートできるよう支援することが重要となります。

今回の情報が、訪問リハビリをより深く理解し、上手に活用するための一助となれば幸いです。

参考文献

  • 本田賢次郎, 岡本隆嗣, 沖田啓子, 岡光孝. 訪問リハビリテーションの現状と課題. MB Med Reha. 2024;33(9):857-864.
  • 厚生労働省の各種報告書・統計資料

健康・医学関連情報の注意喚起

本記事は、訪問リハビリテーションに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。 病状の診断や治療については、必ず医療従事者にご相談ください。

訪問リハビリの今とこれから:知っておきたい課題と可能性

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