こんにちは!
理学療法士で3学会認定呼吸療法士の資格をもつ「PTケイ」です。
心と体の健康科学をプロフェッショナルとして追求しています。
医療現場では、たくさんの専門用語や略語が使われていて、戸惑うこともありますよね。
特に人工呼吸器に関連する言葉は、命に直結するだけに、少しでも理解を深めたいと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、そんな人工呼吸器にまつわる略語の世界を、皆さんにわかりやすく解説していきます。
難しい言葉も、一つ一つ丁寧に見ていけば、きっと医療への理解が深まるはずです。
今回は、医療従事者向けの専門誌に掲載された情報を基に、一般の方にも理解しやすいように、噛み砕いてお伝えします。
医療現場の「?」を解消!人工呼吸器の略語を学ぶ
医療の現場、特に集中治療室(ICU)などで患者さんの呼吸を助けるために不可欠な「人工呼吸器」。
この人工呼吸器の設定や患者さんの状態を示すためには、多くの「略語」が用いられます。
これらの略語を少しでも知っておくことで、医師や看護師からの説明が理解しやすくなったり、ご家族が治療に参加する上での安心感に繋がったりすることがあります。
2025年に日本で発行された「みんなの呼吸器 Respica vol.23 no.1」では、国立病院機構 福岡東医療センター 呼吸器内科部長の山下崇史医師が、人工呼吸器に関するさまざまな略語をまとめて解説しています 。
今回はこの記事で紹介されている略語を中心に、それぞれの意味や使われ方について、詳しく見ていきましょう。
【人工呼吸器の基本モードを理解する】どんな呼吸をサポートするの?
人工呼吸器には、患者さんの状態に合わせて様々な「換気モード」があります。ここでは代表的なモードの略語と、その意味を解説します。
IPPV (invasive positive pressure ventilation; 侵襲的陽圧換気)
口や鼻から気管にチューブを入れたり(気管挿管)、喉に開けた穴からチューブを入れたり(気管切開)して、直接肺に空気を送り込む方法です。意識がない、あるいは呼吸が極めて弱い患者さんに用いられます。
NPPV (non-invasive positive pressure ventilation; 非侵襲的陽圧換気)
顔にマスクを装着するなどして、チューブを体内に入れずに呼吸を助ける方法です。比較的意識がはっきりしていて、自分で呼吸する力がある程度残っている患者さんに使われます。睡眠時無呼吸症候群の治療で使われるCPAPもNPPVの一種です。
TPPV (tracheostomized positive pressure ventilation; 気管切開下陽圧換気)
気管切開を行った上で、陽圧換気を行う方法です。長期間にわたり人工呼吸が必要な場合などに選択されます。
CMV (controlled mechanical ventilation; 調節機械換気)
患者さんの自発的な呼吸が全くない、または非常に弱い場合に、人工呼吸器が全て呼吸のタイミングや量をコントロールして換気を行うモードです。
IMV (intermittent mandatory ventilation; 間欠的強制換気)
人工呼吸器が設定された回数の強制的な呼吸を送り込みつつ、その間は患者さんが自分の力で呼吸することもできるモードです。ただし、患者さんの呼吸のタイミングとは同調しないことがあります。
A/C (assist/control; 補助/調節換気)
患者さんが息を吸おうとする動き(吸気努力)を感知すると、人工呼吸器がその呼吸を助けます。もし患者さんの吸気努力が一定時間ない場合は、設定された回数だけ強制的に換気を行います。CMVに近いですが、患者さんの自発呼吸のきっかけを尊重するモードです。
SIMV (synchronized intermittent mandatory ventilation; 同期式間欠的強制換気)
IMVと似ていますが、人工呼吸器からの強制換気が、患者さんの自発呼吸のタイミングに合わせて(同期して)行われる点が異なります。これにより、患者さんと呼吸器の動きがちぐはぐになる「ファイティング」を防ぎやすくなります。強制換気の間は、患者さんの自発呼吸をサポートすることもできます。
PSV (pressure support ventilation; プレッシャーサポート換気)
患者さんの全ての自発呼吸に対して、息を吸う時に一定の圧力(プレッシャー)をかけて補助するモードです。呼吸のタイミングや回数は患者さん自身に委ねられています。人工呼吸器からの離脱を目指す過程(ウィーニング)でよく使われます。
PEEP (positive end-expiratory pressure; 呼気終末陽圧)
息を吐ききった後も、肺の中に一定の陽圧をかけ続ける設定のことです。これにより、肺の小さな袋である肺胞が完全に潰れてしまうのを防ぎ、酸素の取り込みを助けます。多くの換気モードで併用されます。
PCV (pressure control ventilation; 圧規定換気)
息を吸う際に、設定した圧力になるまで空気を送り込み、設定した時間だけその圧力を維持する換気モードです。肺にかかる圧力を一定に保ちやすいため、肺を保護する目的で使われることがあります。
VCV (volume control ventilation; 量規定換気)
息を吸う際に、設定した量の空気を確実に送り込む換気モードです。一回換気量を正確に管理したい場合に用いられます。
CPAP (continuous positive airway pressure; 持続気道陽圧)
呼吸のどのタイミングでも、常に一定の陽圧を気道にかけるモードです。主にNPPVで、睡眠時無呼吸症候群の治療や、心不全の患者さんの呼吸困難の軽減などに使われます。
BIPAP (bilevel positive airway pressure; 二相性気道陽圧)
息を吸う時(吸気)と息を吐く時(呼気)で、それぞれ異なる二段階の陽圧を設定するモードです。CPAPよりも呼吸の補助効果が高いとされ、NPPVでよく用いられます。
APRV (airway pressure release ventilation; 気道圧開放換気)
高い気道内圧(高圧相)を長時間維持し、ごく短時間だけ気道内圧を低い状態(低圧相、開放相)にするというサイクルを繰り返す換気モードです。重症の呼吸不全で、酸素化の改善が難しい場合などに用いられることがあります。
IRV (inverse ratio ventilation; 逆比換気)
通常の呼吸では吸気時間よりも呼気時間の方が長いですが、このモードでは吸気時間を呼気時間よりも長く設定します。これにより、平均気道内圧を高く保ち、酸素化の改善を狙うことがあります。
PRVC(V) (pressure regulate volume control (ventilation); 圧制御量規定(換気))
VCV(量規定換気)のように設定した一回換気量を確保しつつ、PCV(圧規定換気)のように気道内圧が上がりすぎないように自動で吸気圧を調整する、いわば「いいとこ取り」のモードです。
HFJV (high frequency jet ventilation; 高頻度ジェット換気)
非常に高い頻度(1分間に100回以上)で、細い管からジェット噴流のようにガスを肺に送り込む特殊な換気モードです。喉頭や気管の手術時など、特殊な状況で用いられることがあります。
HFOV (high frequency oscillatory ventilation; 高頻度振動換気)
HFJVよりもさらに高い頻度(1分間に数百回以上)で、ピストンのような仕組みでガスを振動させながら換気するモードです。重症呼吸不全の患者さんに対して、肺をできるだけ優しく保護しながらガス交換を行う目的で使われます。
【人工呼吸器の設定と測定値を読み解く】細かな数値は何を示す?
人工呼吸器の画面には、様々な設定値や測定値がアルファベットと数字で表示されています。これらが何を示しているのか、主なものを解説します。
HMV (home mechanical ventilation therapy; 在宅人工呼吸療法)
病院ではなく、患者さんの自宅で人工呼吸器を使用して療養生活を送ることです。
FiO2 (fraction of inspiratory oxygen; 吸入酸素濃度)
患者さんが吸い込む空気(ガス)に含まれる酸素の割合(濃度)のことです。通常、大気中の酸素濃度は約21%ですが、人工呼吸器では21%から100%の間で調整します。単位は%で示されます。
I:E ratio (inspiratory-expiratory ratio; 吸気時間:呼気時間比)
1回の呼吸における、息を吸っている時間(吸気時間)と息を吐いている時間(呼気時間)の比率です。通常は1:2や1:3など、呼気時間の方が長めに設定されます。
f (frequency; (設定)呼吸回数)
人工呼吸器が1分間に行う呼吸の回数を設定する値です。「Rate」と表示されることもあります。
V~T (tidal volume; 一回換気量)
1回の呼吸で肺に送り込まれる、あるいは患者さんが吸い込む空気の量のことです。単位はmL(ミリリットル)やL(リットル)で示されます。患者さんの体重や肺の状態によって適切な量が設定されます。
MV (minute volume; 分時換気量)
1分間に肺に送り込まれる、あるいは患者さんが呼吸する総空気量です。一回換気量 (V~T) と呼吸回数 (f または RR) を掛け合わせた値 (MV=V~T×f) になります。単位はL/min(リットル/分)で示されます。
RR (respiratory rate; (実測)呼吸数)
患者さんが実際に行っている1分間の呼吸の回数です。人工呼吸器の設定回数 (f) とは異なる場合があります(特に自発呼吸があるモードの場合)。
PIP (peak inspiratory pressure; 最高気道内圧)
息を吸う時に、気道の中の圧力が最も高くなった時の値です。単位は cmH2O (センチメートル水柱) で示されます。この値が高すぎると、肺を傷つけるリスク(圧損傷、バラトラウマ)があります。
Paw (airway pressure; 気道内圧)
気道の中の圧力の総称です。人工呼吸器のモニターには、この気道内圧の波形が表示されることが多いです。
MAP (mean airway pressure; 平均気道内圧)
一呼吸サイクルの間の平均の気道内圧です。酸素化と関連があるとされています。
Raw (airway resistance; 気道抵抗)
空気が気管や気管支を通る際の通りにくさ、つまり抵抗の度合いを示します。気道が狭くなっていたり、痰がたまっていたりすると上昇します。
Cst (static compliance; 静肺コンプライアンス)
肺や胸郭(胸の骨格や筋肉)の「広がりにくさ」を示す指標です。息を止めた状態(静的な状態)で測定されます。この値が低いと、肺が硬く広がりにくいことを意味します。
Cdyn (dynamic compliance; 動肺コンプライアンス)
呼吸をしている最中(動的な状態)での肺や胸郭の「広がりにくさ」を示す指標です。気道抵抗の影響も受けるため、一般的にCstよりも低い値になります。
WOB (work of breathing; 呼吸仕事量)
患者さんが呼吸をするために必要とするエネルギーの量です。人工呼吸器はこのWOBを軽減する目的で使用されます。
ETCO2 ((partial pressure of) endtidal CO2; 呼気終末二酸化炭素分圧)
息を吐ききった時の呼気に含まれる二酸化炭素の圧力(濃度)です。換気が適切に行われているかの指標となります。
PtcCO2 (transcutaneous CO₂ partial pressure; 経皮的二酸化炭素分圧)
皮膚にセンサーを貼り付けて測定する二酸化炭素の分圧です。採血をせずに体内の二酸化炭素量を推定できます。
Pes (esophageal pressure; 食道内圧)
鼻から食道へ細いカテーテルを入れ、食道内の圧力を測定します。胸腔内圧(肺の周りの圧力)を間接的に知ることができ、より詳細な呼吸状態の評価に用いられます。
RSBI (rapid shallow breathing index; 浅速呼吸指数)
人工呼吸器からの離脱(ウィーニング)が可能かどうかを評価する指標の一つです。1分間の呼吸回数 (RR) を一回換気量 (V~T [L]) で割った値 (RSBI = RR / V~T) で計算されます。この値が低いほど、離脱の成功率が高いとされます。
【人工呼吸管理における重要な関連用語】評価や合併症について
人工呼吸器を使用している際には、患者さんの状態を評価したり、注意すべき合併症に関連したりする用語も重要です。
P/F ratio (PaO2/FiO2 ratio; 酸素化の評価法)
動脈血液ガス分析で測定される動脈血酸素分圧 (PaO2) を、吸入酸素濃度 (FiO2) で割った値です。肺がどれだけ効率よく酸素を血液中に取り込めているか(酸素化能力)を示す重要な指標です。例えば、PaO2が100mmHgでFiO2が0.4 (40%) の場合、P/F比は 100 / 0.4 = 250 となります。この値が低いほど、酸素化が悪化していることを示します。
VALI (ventilator-associated lung injury; 人工呼吸器関連肺損傷)
人工呼吸器による陽圧換気が、肺に物理的なダメージを与えてしまうことです。圧が高すぎたり(圧損傷)、換気量が多すぎたり(容量損傷)することが原因となります。
VAP (ventilator-associated pneumonia; 人工呼吸器関連肺炎)
人工呼吸器を装着してから48時間以降に発生する肺炎のことです。気管チューブを介して細菌が肺に入り込むことなどが原因となります。
P-SILI (patient self-inflicted lung injury; 自発呼吸誘発性肺傷害)
患者さん自身の強い、あるいは不規則な吸おうとする努力が、かえって肺に負担をかけ、肺を傷つけてしまう状態です。
SAT (spontaneous awakening trial; 自発覚醒トライアル)
人工呼吸管理中の患者さんに対して、鎮静薬(眠り薬)を一時的に中断または減量し、患者さんの意識状態や神経学的な状態を評価する試みのことです。「鎮静の中断」とも呼ばれます。
SBT (spontaneous breathing trial; 自発呼吸トライアル)
人工呼吸器からの離脱が可能かどうかを評価するために、PSVやCPAPなどのサポートの少ないモードで、あるいは人工呼吸器を一時的に外して、患者さんが自分の力だけで安定して呼吸できるかを試すことです。
ROX index ((SpO2/FiO2)/respiratory rate; 人工呼吸管理や人工呼吸器導入の効果を評価する指標)
経皮的動脈血酸素飽和度 (SpO2) を吸入酸素濃度 (FiO2) で割り、その値をさらに1分間の呼吸回数 (RR) で割ったものです。特に、NPPVを受けている患者さんで、治療がうまくいっているか、あるいは気管挿管が必要になるかを予測するのに役立つ指標とされています。
【これらの知識をどう活かすか?】家族や自身の医療理解のために
ここまで多くの略語を見てきましたが、これらの知識は、医療の専門家でない方々にとって、どのように役立つのでしょうか。
まず、医師や看護師から患者さんの状態や治療方針について説明を受ける際に、話の内容をより深く理解する助けになります。
もちろん、全ての略語を覚える必要はありませんが、代表的なものを知っているだけでも、「今、何についての話をしているのか」が掴みやすくなるでしょう。
また、治療の選択肢が提示された際に、それぞれのメリット・デメリットを理解し、納得して治療に臨むための判断材料にもなり得ます。
例えば、NPPVとIPPVのどちらを選択するかといった場面で、それぞれの特徴を知っていれば、なぜその治療法が提案されているのかを理解しやすくなります。
さらに、患者さんご自身やご家族が、医療チームとのコミュニケーションをより円滑にすることにも繋がります。
疑問点を具体的に質問できたり、医療者側の説明をより正確に受け止められたりすることで、信頼関係の構築にも役立つでしょう。
テレビの医療ドラマやニュースなどで人工呼吸器の場面が出てきたときも、以前より理解が深まるかもしれませんね。
ただし、非常に重要な注意点があります。
これらの略語や知識は、あくまで医療への理解を助けるためのものであり、ご自身やご家族の状態を自己判断したり、治療方針を決めたりするためのものでは決してありません。
診断や治療は、必ず医師や看護師など、専門の医療従事者の指示に従ってください。
まとめ
今回は、人工呼吸器に関連する様々な略語とその意味について解説してきました。
- 人工呼吸器には、患者さんの状態に合わせた多様な「換気モード」が存在します。
- 呼吸器の設定値や測定値は、患者さんの呼吸状態を細かく把握するための重要な情報です。
- 酸素化の評価や合併症の予防・早期発見に関連する用語も、治療を進める上で欠かせません。
これらの知識が、皆さんの医療への理解を少しでも深め、不安を和らげる一助となれば幸いです。わからないことや不安なことがあれば、遠慮なく医療スタッフに質問し、積極的にコミュニケーションを取ることが、より良い医療に繋がる第一歩です。
参考文献
- 山下崇史. Q21 人工呼吸器に関する略語をまとめて知りたい!. みんなの呼吸器 Respica. 2025;23(1):102-103.
健康・医学関連情報の注意喚起
本記事は、人工呼吸器関連用語に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。 呼吸器疾患などの診断や治療については、必ず医療従事者にご相談ください。