
「PTケイさん、最近しっかり寝てるはずなのに、日中すごく眠くて…疲れも全然取れないんです。」



「わかります!私は看護師で夜勤もあるから、生活リズムがぐちゃぐちゃで…。もう何が正しいのか分からなくなってきました。」



Aさん、Bさん、そのお悩み、本当によく分かります。
私も、Aさん同様以前から睡眠時間をたくさん確保していても日中の眠気が強かったり、朝起きるのがとてもつらい時期がありました。うつ病になってからは、早朝覚醒や睡眠時無呼吸症候群など、睡眠にはいろいろと悩まされました。
「眠れない」「起きられない」という苦しみは、経験した人にしか分からない辛さがありますよね。
でも、安心してください。その終わりのないように思える不調には、実は科学的な理由があるんです。
そして、その理由が分かれば、正しい対策も見えてきます。
この記事を読めば、あなたのその悩みの原因と、明日からできる具体的な対策がわかります。
一緒に、心と体の羅針盤を取り戻していきましょう。
1分でわかる要約


💡 この記事でわかること
- 体内時計の真実: あなたの体内時計は24時間ではなく、実は「約24.2時間」で動いている!
- 光の絶大な力: 睡眠の質を左右する最強の味方「光」。浴びる時間と色で効果が変わる科学的根拠。
- 睡眠の二重奏: 私たちの睡眠を支配する「睡眠圧」と「覚醒システム」という2つの力の不思議な関係。
- 具体的な対策: 科学的根拠に基づいた、今日からできる睡眠改善アクションプラン。
研究紹介
私たちの心身の健康を根底から支える「睡眠」。
その謎を解き明かすため、世界中で研究が続けられています。
今回は、睡眠医学の世界的権威であるハーバード大学医学部の研究者らが発表した、ヒトの睡眠と体内時計(※概日リズム:約24時間周期で繰り返される生命活動のリズム)に関する包括的なレビュー論文を紐解いていきましょう。
この研究は、2007年と少し古いですが、過去の常識を覆す多くの発見をもたらし、現代の睡眠科学の基礎となっています。
【常識が覆る】あなたの体内時計は24時間ではなかった!
「人間の体内時計は24時間周期」と、なんとなく思っていませんか?
実は、近年の非常に精密な研究によって、その常識は覆されています。
本当の周期は「約24.2時間」という事実


過去の研究では、ヒトの体内時計の周期は約25時間だと考えられていました。
しかし、これは被験者が自由に照明を使える環境で測定されていたため、光の刺激によって時計がズレてしまっていたことが後に判明します。
そこで研究者たちは、「強制脱同調プロトコル」という特殊な実験を行いました。
これは、被験者を24時間とは全く異なる周期(例えば28時間周期)の環境で生活させ、光などの外部からの影響を徹底的に排除することで、純粋な体内時計の周期を測る方法です。
その結果、ヒトの生来の体内時計の周期は、平均して「24.2時間」であり、しかも個人差が非常に少ない、極めて精密な時計であることが明らかになったのです。



たった0.2時間、時間にすると約12分のズレ。
でも、このわずかなズレが毎日積み重なっていくと考えると、結構大きな問題だと思いませんか?
私がうつ病で苦しんでいた頃は、睡眠時間が不安定で昼夜逆転気味になってしまうこともありました。
このときは、体が地球の時間と全く合っていない感覚でした。このズレを毎日リセットする作業が、いかに重要かを痛感しましたね。
ズレをリセットする鍵はどこに?
毎日生じる「約12分のズレ」。
これを放置すれば、私たちの生活リズムはどんどん後ろにズレていってしまいます。
そうならないように、私たちの体にはこのズレを毎日リセットするための素晴らしい仕組みが備わっています。
そのリセットボタンの役割を果たすのが、次にお話しする「光」なのです。
睡眠の質は「光」で決まる!ハーバード式・光の活用術
私たちの体内時計をリセットする最も強力な「同調因子(※Zeitgeber:体内時計を外部環境に合わせる手がかり)」、それが光です。
かつては、人間は社会的交流などで体内時計を合わせていると考えられていましたが、今では光が最も重要な役割を担っていることが圧倒的な証拠と共に示されています。
浴びる時間で効果が逆転する「位相応答曲線」


光は、ただ浴びれば良いというものではありません。重要なのは「いつ浴びるか」です。光を浴びるタイミングによって、体内時計の針を進めたり、遅らせたりする効果が真逆になります。この関係性を示したものが「位相応答曲線(PRC)」です。
- 朝(主観的な夜の遅い時間帯)の光:体内時計の針を「進める」効果。夜型になっているリズムを前倒しにし、早寝早起きをサポートする。
- 夜(主観的な夜の早い時間帯)の光:体内時計の針を「遅らせる」効果。リズムを後ろ倒しにし、宵っ張りや夜更かしの原因となる。
つまり、朝に太陽の光を浴びることは、毎日生じる約12分のズレをリセットし、24時間周期に同調させるために不可欠な儀式なのです。
逆に、夜遅くまで煌々とした照明やスマートフォンの光を浴びることは、体内時計を遅らせてしまい、翌朝起きるのを辛くさせる原因となります。



私は割と光に感受性が高いようです。夜トイレに起きて、トイレの電気を浴びただけでも、その後寝付きにくくなります。
あまりおすすめできませんが、私はアイマスクを付けて、それを少しずらして視界を確保してトイレに行きます。光を最小限にするための工夫ですね。
アイマスクは、テレビの電源ランプや室内灯のスイッチの明かりも防いでくれるので重宝しています。
なぜ「ブルーライト」が特に重要なのか?
近年、「ブルーライトは睡眠に悪い」とよく言われますが、その科学的根拠もこの研究で示されています。
私たちの目には、モノを見るための細胞(桿体・錐体)とは別に、光を感知して体内時計に情報を送るための専門の細胞が存在することが分かってきました。
この細胞に含まれる「メラノプシン」という光受容物質が、特に短波長の光、つまりブルーライトに強く反応します。
このメラノプシン細胞がブルーライトを感知すると、脳の親時計である「視交叉上核(SCN)」に強力な信号を送り、「今は昼間だ!」と認識させます。
- 朝に浴びるブルーライト:体内時計を強力にリセットし、覚醒を促す最高の目覚まし。
- 夜に浴びるブルーライト:脳を覚醒させ、自然な眠りを誘うメラトニンの分泌を抑制してしまう最悪の睡眠妨害。
つまり、ブルーライトは「悪者」なのではなく、「浴びるタイミングが全て」なのです。
眠りの謎を解く「2つのシステム」の相互作用


「夜になると自然に眠くなる」というのは、実はそれほど単純な話ではありません。
私たちの睡眠と覚醒は、主に2つのシステムが絶妙なバランスを取り合うことで成り立っています。
システム1:恒常性睡眠ドライブ(睡眠圧)
これは非常にシンプルで、「起きている時間が長ければ長いほど、眠くなる力(睡眠圧)が溜まっていく」というシステムです。
風船に例えると、起きている間、睡眠圧という空気がどんどん溜まっていき、睡眠によってその空気が抜けていくイメージです。
徹夜明けに猛烈に眠くなるのは、この睡眠圧が限界まで高まっているからです。
システム2:概日性覚醒ドライブ(覚醒システム)
こちらは、体内時計(視交叉上核)によって制御されるシステムです。
面白いことに、この覚醒を促す力は、私たちが起きている時間が長くなるにつれて、どんどん強くなっていくのです。
なぜでしょうか?もし睡眠圧しかなかったら、私たちは朝起きた瞬間から徐々に眠くなり始め、夕方には眠気のピークを迎えて活動できなくなってしまいます。
そうならないように、体内時計は高まっていく睡眠圧に対抗するように、覚醒の信号をどんどん強く送り、「まだ寝る時間じゃないぞ!」と体を支えてくれているのです。
そして、この覚醒ドライブは、私たちの習慣的な就寝時刻の少し前にピークを迎え、その後、急速に弱まっていきます。この覚醒ドライブの急降下と溜まりに溜まった睡眠圧が交差するタイミングで、私たちは自然で深い眠りへと入っていくことができるのです。



私はうつ病で休職していたころ、日中眠くなりやすく、午後2時~3時、もしくは4時くらいまで昼寝をしてしまうことがよくありました。
そのせいで、睡眠圧が夜に溜まりにくく、入眠に時間がかかることが多くありました。
また、冒頭のBさんのように夜勤がある方は深夜、一番眠い時間帯(午前3時~5時頃)は、睡眠圧が最大になっているのに、体内時計的には「今は寝る時間」なので覚醒ドライブが一番弱い。
まさにダブルパンチなんです。
逆に、夜勤明けでヘトヘトなのに、いざ家に帰って寝ようとすると目が冴えて眠れない…。これは、睡眠圧は高いのに、外が明るくて体内時計が「起きる時間だ!」と覚醒ドライブが強まってしまうからなんですね。
この体の仕組みを知るだけでも、自分の不調を客観的に捉えられて、少し楽になりますよ。
【PTケイのQ&A】
まとめ
今回は、ハーバード大学の研究に基づき、私たちの睡眠を支配する科学的な仕組みを解説してきました。
- 私たちの体内時計は「約24.2時間」周期であり、毎日リセットが必要。
- その最強のリセットボタンは「朝の光」。逆に「夜の光」は時計を狂わせる。
- 睡眠は、「睡眠圧」と「覚醒システム」の絶妙な綱引きで決まっている。
- 夜勤や不規則な生活の辛さは、この2つのシステムのズレによって科学的に説明できる。



ここまで読んでくださり、ありがとうございます。たくさんの科学的な情報に、少し頭が疲れてしまったかもしれませんね。でも、覚えておいてほしいのはたった一つです。あなたの体は、毎日、あなたを健康に保とうと一生懸命働いてくれているということです。
一度にすべてを完璧にこなす必要はありません。もし今、あなたが暗い部屋でこの文章を読んでいるなら、まずは明日の朝、カーテンを開けてみることだけを約束しませんか?その一筋の光が、あなたの心と体を健やかな場所へと導く、大きな一歩になるはずです。あなたにも、できることは必ずあります。 一緒に、少しずつ始めていきましょう。
参考文献
- Czeisler CA, Gooley JJ. Sleep and circadian rhythms in humans. Cold Spring Harb Symp Quant Biol. 2007;72:579-597.
注意喚起
本記事は、睡眠と概日リズムに関する情報提供を目的としており、医学的アドバイスを提供するものではありません。症状の診断や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。