Aさんあいたたた…。また首が痛い。1日中パソコン作業してると、首も肩もガチガチで…



わかります。僕も仕事柄、どうしても前かがみになることが多くて。最近はもう、この痛みが当たり前になっちゃってます…



Aさん、Bさん、その辛さ、本当によくわかります。
多くの方が「姿勢が悪いから首が痛くなる」と漠然と考えていますが、「それって本当?」「特に“頭が前に出る姿勢”って、どれくらい悪いの?」と疑問に思ったことはありませんか?
実は、この疑問に真正面から切り込んだ非常に興味深い研究報告があるんです。
この記事を最後まで読めば、あなたのそのしつこい首の痛みの原因が「頭の前傾姿勢」とどれくらい関係があるのか、そして、明日から何を意識すべきなのか、その具体的な答えが科学的根拠(エビデンス)に基づいて明確になります。
1分でわかる要約(この記事でわかること)


この記事でわかること
- POINT 1 「頭の前傾姿勢(スマホ首)」と首の痛みの関係は、年齢によって全く異なることが信頼性の高い研究で明らかになりました。
- POINT 2 大人(18~50歳)は、姿勢が悪いほど首の痛みが強く、生活への支障も大きいという「強い関連あり」と示されました。
- POINT 3 一方で青少年(18歳未満)は、姿勢の悪さと首の痛みの間に「明確な関連なし」という意外な結果でした。
- POINT 4 この違いを生む鍵は、悪い姿勢の「蓄積期間」と、加齢による「筋機能の低下」にある可能性が高いことを解説します。
研究紹介
今回ご紹介するのは、2019年にネスリーン・ファウジー・マフムード氏ら(エジプトやポルトガルの研究者チーム)が発表した「頭の前傾姿勢と首の痛みの関係:系統的レビューとメタ分析」という研究です。
これは、過去に行われた15件もの研究データを集めて統合し、より信頼性の高い結論を導き出そうという「系統的レビュー(※1)」および「メタ分析(※2)」と呼ばれる、非常に信頼性の高い研究手法です。
※1 系統的レビュー:特定の問いについて、関連する全ての研究を網羅的に収集・評価し、要約する研究手法)
※2 メタ分析:複数の研究データを統計的に統合し、一つの結論を導き出す手法)
今回は、この非常に興味深い研究を紐解いていきましょう。
【論文解説】大人の首の痛みは「姿勢」と強く関連していた


今回の研究で最も衝撃的だったのは、「年齢」によって結果が全く異なったことです。
まずは、この記事を読んでいる多くの方に該当する「成人」の結果から見ていきましょう。
結論:大人の頭のFHPは首の痛み・障害と強く相関する
この研究では、18歳から50歳の「成人」を対象にした複数の研究データを分析しました。
その結果、首の痛みのない成人と比較して、首の痛みを持つ成人は、統計的に有意に「頭の前傾姿勢(以下、FHP)」が強かった(=頭がより前に出ていた)ことが示されました。
ここで使われた指標の一つに「CVA(頭蓋椎角)」というものがあります。
これは、横から見たときの首の角度を示すもので、この角度が小さいほど「頭が前に出ている」ことを意味します。
今回の分析では、首の痛みがあるグループの方が、ないグループよりもCVAが有意に小さかった(平均差4.84°)のです。
さらに重要な発見があります。
姿勢が悪い「だけ」ではなく、その姿勢が「痛みの強さ」や「生活の支障」とどれくらい関連しているかも調査されました。
結果は明らかでした。
- 痛みの強さとの相関
FHPが強いほど、首の痛みの強さも有意に強くなるという「中程度の負の相関(r = -0.55)」が示されました。 - 障害との相関
FHPが強いほど、首の痛みによる日常生活の支障(障害)も有意に大きくなるという「中程度の負の相関(r = -0.42)」が示されました。
(※相関係数(r):-1から+1の間の数値で、0に近いほど無関係、-1または+1に近いほど強い関連があることを示します。-0.4や-0.5という数値は、この分野の研究において明確な関連性を示すものです。)



これは、理学療法士としての臨床経験とも、私自身の当事者としての経験とも、強く一致します。
私自身、うつ病で苦しんでいた時期は、本当に姿勢が悪かった。常に下を向き、胸を閉じ、頭だけが前にダラんと垂れ下がっていました。そして、その時の慢性的な首の痛みと頭痛は、今思い出しても辛いものです。
まさに、「姿勢の悪化」と「心身の不調」が、互いを悪化させ合う負のループに陥っていました。
デスクワークで長時間同じ姿勢を強いられる皆さんにも、思い当たる節があるのではないでしょうか。
【驚きの発見】10代の首の痛みと「姿勢」は関連しなかった


さて、ここからがこの論文の非常に面白いところです。
「じゃあ、子どもや10代の“スマホ首”も、やっぱり首の痛みの原因なんだね?」 そう思いますよね。
しかし、研究結果は私たちの直感とは異なるものでした。
青少年ではFHPと首の痛みに有意差なし
研究チームは、18歳未満の「青少年」を対象にした研究データも同様に分析しました。
その結果、首の痛みがある青少年と、痛みのない青少年の間で、頭の前傾姿勢(FHP)の程度に統計的な差は認められなかったのです。(平均差 MD = -0.05)
さらに、FHPの程度と、首の痛みの強さ、期間、頻度といった測定値との間にも、有意な相関関係はほとんど見つかりませんでした。



これには驚きました。私たちはつい「最近の子はスマホばかり見て姿勢が悪い!だから首が痛くなるんだ!」と、単純に結びつけてしまいがちです。
もちろん、「姿勢が悪くても良い」という話では断じてありません。しかし、少なくとも10代においては、「姿勢の悪さ」が「首の痛み」の直接的な主犯ではない可能性が示されたのです。
なぜ大人と子供で「姿勢と痛みの関係」が異なるのか?


では、なぜこれほど明確な差が「年齢」によって生じたのでしょうか? 論文では、この違いを生む可能性のあるいくつかの要因について考察しています。
考察1:曝露(悪い姿勢でいる)期間の「蓄積」
これが最も大きな理由かもしれません。
青少年は、たとえ勉強やスマホで悪い姿勢をとっていたとしても、その「蓄積期間」はまだ短いと言えます。
一方で「成人」、特にデスクワーカーや特定の専門職(看護師、介護職、歯科医など)は、何年も、何十年もの期間、首に負担のかかる姿勢を維持し続けます。
この「持続的な負荷の蓄積」が、青少年の組織(筋肉、靭帯、椎間板)がまだ耐えられる範囲を超え、大人の身体において初めて「痛み」や「障害」として表面化するのではないか、と考えられます。



まさに「負債の蓄積」ですね。
1日や2日の「借金(=悪い姿勢)」なら、若いうちは体力(=組織の柔軟性)でカバーできる。でも、20年間毎日借金を重ねたら…いつか破綻しますよね。
大人の首の痛みは、その「破綻」のサインの一つなのかもしれません。
不適切な姿勢がすぐに痛みにつながるのではなく、その姿勢を持続的に行い、その傾向がより強くなり、そして、いずれ痛みの発症につながるのかもしれませんね。
理学療法士としては、その不適切な姿勢の改善はとても大切なことだと認識しています。
考察2:加齢による「筋機能」と「可動域」の低下
大人は、青少年と比較して、首の深層にある筋肉(※特に深部頸部屈筋群)の持久力が低下していることが多くの研究で示されています。また、加齢とともに首の可動域(ROM)も徐々に減少していきます。
つまり、青少年はまだ筋力や柔軟性で悪い姿勢を「カバー」できているのに対し、大人はそのカバーする能力自体が低下しているため、FHPが直接的に痛みにつながりやすいのではないか、という考察です。
考察3:高齢者(50歳以上)のデータについて
ちなみに、「高齢者(50歳以上)」についても、首の痛みの有無とFHPの間に有意な差は見られませんでした。
これについて論文は、加齢による姿勢の変化(例:背中が丸くなる、円背)は誰にでも(痛みがなくても)起こるため、FHPだけが痛みの原因として際立たなくなるのではないか、と推測しています。
つまり、この論文が示すのは、
「18歳~50歳の働き盛りの“成人”が、最もFHPと首の痛みの関連性が強い要注意な世代である」
ということです。これは非常に重要なメッセージだと感じます。
【PTケイのQ&A】よくある質問に答えます
記事の内容に基づき、皆さんが抱きそうな疑問に、専門家と当事者の両方の視点からお答えします。
まとめ
今回は、「頭の前傾姿勢(FHP)」と「首の痛み」に関する系統的レビューを解説しました。
- 18歳~50歳の成人では、FHPが強いほど首の痛みが強く、生活への支障も大きいという明確な関連が認められた。
- 18歳未満の青少年では、FHPと首の痛みの間に明確な関連は認められなかった。
- この差は、悪い姿勢の「蓄積期間」や、加齢による「筋機能の低下」が影響している可能性が考えられる。
この研究は、私たち働き盛りの大人にとって、「姿勢」がいかに健康と密接に関わっているかを、改めて科学的に示してくれました。
あなたのその痛みは、あなたのせいではありません。長年、仕事や生活を頑張ってきた「蓄積」の結果かもしれません。
でも、気づいた今日が、一番若い日です。 「どうせ治らない」と諦めるのではなく、「自分の身体は変えられる」と希望を持ってください。 まずは、デスクのモニターを少し高くしてみる。スマホを目の高さで持ってみる。 その小さな一歩が、必ずあなたの心と体を健やかな場所へと導いてくれます。
参考文献 (References)
Mahmoud NF, Hassan KA, Abdelmajeed SF, Moustafa IM, Silva AG. The Relationship Between Forward Head Posture and Neck Pain: A Systematic Review and Meta-Analysis. Curr Rev Musculoskelet Med. 2019;12(4):562-577. doi:10.1007/s12178-019-09574-z
注意喚起 (Disclaimer)
本記事は、頭の前傾姿勢と首の痛みの関係に関する情報提供を目的としており、医学的アドバイスを提供するものではありません。症状の診断や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。


