Aさんはぁ…。健康診断で『運動不足』って書かれちゃいました。
でも、毎日忙しくてジムに行く時間なんてないし、そもそも運動って辛いイメージしかなくて…。



その気持ち、すごくわかります。
私も以前、体調を崩したときは『運動しなきゃ』というプレッシャーだけで押しつぶされそうでした。
でも、もし『わざわざ運動しなくてもいい』としたら、どうですか?



えっ?どういうことですか?
WHOとかは『週150分運動しろ』って言いますよね。
あれ、シフト勤務の私には絶対無理なんですけど…。



実は最新の科学では、そのWHOの基準は『ゴール』ではなく、単なる『出発点』に過ぎないことがわかってきたんです。
そして、ジムで汗を流すことだけが運動ではありません。
掃除も、通勤も、すべての『動き』があなたの体を守る薬になります。
今日は、これまでの常識を覆す、もっと自由で効果的な『最適解』についてお話ししますね。


1分でわかる要約 (1-Minute Summary)


🌱 この記事の結論:エリートアスリートになる必要はない
- ✅ 【出発点】WHO基準は「最低ライン」 WHOが推奨する週150分の運動(600 METs分)は、あくまで健康への旅の始まりです。リスクは下がり始めますが、最大の恩恵を受けるにはまだ足りません。
- ✅ 【最適解】「週3000 METs分」を目指せ 糖尿病リスクが25%も低下するなど、健康効果が最大化される「最適ゾーン」は、週3000〜4000 METs分です。ここが最も効率よく病気のリスクを下げられるスイートスポットです。
- ✅ 【実践法】ジムより「日常」を変える 達成のためにジムは必須ではありません。掃除機がけ、庭仕事、階段利用など、日常のあらゆる「動き」を積み重ねることで、最適ゾーンには到達可能です。
- 🕊 PTケイのひとこと: 「運動の時間」を作るのではなく、今の生活の動きを少し「濃く」するだけでいいんです。掃除機をかけるその手も、立派なエクササイズなんですよ。
研究紹介 (Research Introduction)


2016年、アメリカとオーストラリアの研究チームであるKyuらによって医学雑誌『BMJ』で発表された研究によると、5つの主要な慢性疾患(乳がん、大腸がん、糖尿病、虚血性心疾患、虚血性脳卒中)のリスクを最も効果的に下げる運動量が示唆されています。
この研究は、174件の前向きコホート研究を統合し、延べ約1億5000万人年分という膨大なデータを解析した、非常に信頼性の高いものです。
今回は、この巨大な研究が導き出した「運動の最適解」を紐解いていきましょう。
1. 「常識」の罠:WHO基準はあくまで出発点
多くの人が誤解している「運動のゴール」
私たちはこれまで、「健康のためには週に150分の早歩き、または75分のランニングが必要」と教えられてきました。
これはWHO(世界保健機関)が推奨する基準であり、運動強度を示す単位「METs(メッツ)」で換算すると、週600 MET分に相当します。
多くの人はこれを「達成すべきゴール」だと思っています。
しかし、今回のBMJの研究が明らかにしたのは、これはゴールではなく、リスクが下がり始める「出発点」に過ぎないという事実でした。
600 METs分では「守り」きれない?


研究データを見ると、週600 MET分(WHO推奨ライン)の活動を行っている人は、全く活動しない人に比べて確かに疾患リスクは下がります。
しかし、その低下幅は私たちが期待するほど劇的ではない場合があるのです。
例えば糖尿病のリスクを見てみると、活動ゼロの人と比べて、週600 MET分の活動ではわずか2%の低下にとどまるというデータも示されています。
これは、「とりあえず基準はクリアしたから安心」とは言い切れない現実を突きつけています。



仕事をしていると、週に150分の早歩きは案外達成されている人も多いかもしれませんね。
1日全体で見れば、案外達成されており、それで終わりにしてしまうと、やはり、効果はそれほどないのかもしれませんね。残念ながら。
2. 健康効果が爆上がりする「最適ゾーン」とは
リスクが劇的に下がる「3000〜4000 MET分」


では、どれくらい動けばいいのでしょうか?
研究チームは、運動量が増えるにつれてリスクがどう変化するかを詳細に分析しました。その結果、リスクの低下カーブは一定ではないことがわかりました。
最も効率よくリスクが下がる「最適ゾーン」が存在したのです。それが、週3000〜4000 METs分というレベルです。
データによると、週600 MET分からさらに活動量を増やし、3600 MET分に達すると、糖尿病リスクはさらに19%も低下します。
活動不足の人と比較した場合、この「最適ゾーン(中等度の活動)」にいる人のリスク低下率は以下の通りです。


- 糖尿病:25% 低下
- 虚血性心疾患:23% 低下
- 大腸がん:17% 低下
- 虚血性脳卒中:19% 低下
- 乳がん:6% 低下
頑張りすぎもまた「非効率」


ここで面白いのが「収穫逓減(しゅうかくていげん)」という法則です。
週3000〜4000 MET分を超えて、さらに週9000〜12000 MET分まで猛烈に運動したとしても、そこからのリスク低下はごくわずか(糖尿病で0.6%程度)です。
つまり、私たちはエリートアスリート並みに体を酷使する必要はないのです。
「3000〜4000 MET分」こそが、私たちが目指すべきコストパフォーマンス最高の投資先なのです。



「3000METs」と聞いて、『600METsの6倍!「そんな数字ムリ!」』と身構えないでくださいね(笑)。
この研究の素晴らしいところは、青天井に運動を求めていない点です。
「ここまでやれば十分だよ」というゴールテープが見えていると、人は安心して走れます。
私の経験上、このゾーンに入ると、体の痛みが減り、睡眠の質がガラッと変わるのを実感できるはずです。
健康な方は出来るだけこのゾーンを目指すことをおすすめします。そうすれば最大の予防効果が得られるというわけです。
3. ジム解約OK?「日常の動き」で3000を稼ぐ方法
すべての動きを「資産」に変える


「週3000 MET分」と聞くと、毎日何時間もジムに通わなければならないように感じるかもしれません。しかし、この研究で評価されたのは「総身体活動量」です。つまり、余暇の運動だけでなく、仕事、家事、移動など、生活全体の活動が含まれています。
ジムでのトレーニングも、掃除機がけも、体にとっては同じ「エネルギー消費」であり、健康への貢献になります。
週3000 MET分を達成するルーティン例


論文では、以下のような活動を組み合わせることで、週3000 MET分は達成可能だと示されています。
- 階段の上り下り: 1日10分
- 掃除機がけ: 1日15分
- 庭仕事・ベランダの手入れ: 1日20分
- 徒歩や自転車での移動: 1日25分
- (余裕があれば)ランニングなど: 1日20分
これらを全てやる必要はありませんが、意識すべきは「座っている時間を、動く時間に変える」ことです。
わざわざウェアに着替えなくても、通勤で一駅歩く、エスカレーターではなく階段を使う、これだけで十分な「医療費削減の投資」になるのです。



実は私、ジムには行っていません。(たまに、公的機関の1日300円のジムに行きます)
その代わり、家事、育児、こまめな運動に意識を注いでいます(笑)。
お風呂掃除をスクワットのつもりでやったり、買い物を早歩きで行ったり。
「これは家事じゃない、トレーニングだ」と意識を変えるだけで、面倒な掃除が「自分のための時間」に変わります。
心も部屋もキレイになって一石二鳥ですよ!
PTケイのQ&A (Q&A Section)
まとめ (Conclusion)


- 🔍 WHO基準を超えていく 週600 MET分は通過点。本気で病気を遠ざけたいなら、その先の景色を見に行きましょう。
- 🎯 「3000」が最強の盾になる 週3000〜4000 MET分の活動で、5大疾患のリスクは最大25%も激減します。ここが努力が最も報われるゾーンです。
- 🧹 家事こそが最高の運動 ジムの会員権より、日々の掃除や階段があなたを救います。特別な時間を作る必要はありません。
「運動不足」という言葉に、もう罪悪感を感じる必要はありません。 今日、あなたがかけた掃除機、登った階段、歩いた通勤路。 そのすべてが、確実にあなたの未来を守る「盾」になっています。 大切なのは、完璧なアスリートを目指すことではなく、「昨日の自分より少し多く動く」こと。 まずは今日、エレベーターのボタンを押す前に、階段の方をちらっと見てみませんか?その一瞬の選択が、健康への大きな一歩です。
参考文献 & 注意喚起
参考文献:
- Kyu HH, Bachman VF, Alexander LT, et al. Physical activity and risk of breast cancer, colon cancer, diabetes, ischemic heart disease, and ischemic stroke events: systematic review and dose-response meta-analysis for the Global Burden of Disease Study 2013. BMJ. 2016;354:i3857.
注意喚起:
本記事は、身体活動と疾患リスクに関する情報提供を目的としており、医学的アドバイスを提供するものではありません。症状の診断や治療、運動の開始については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

