ご家族に脳トレ体操を勧めてみたいけれど、具体的にどんなことをすればいいのか、本当に効果があるのか、無理なく安全にできるのか…と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
実はこの脳トレ体操、座ったままできるものやリズムに合わせた体操など、ちょっとした工夫を取り入れるだけで、ご高齢の方でも無理なく始められるものなんですね。
この記事では、理学療法士としての専門知識と公的な資料の両面から、基本的な考え方から具体的なやり方、そして安全に行うための注意点までを分かりやすくまとめてみました。
読み終える頃には、今日からご家族と一緒に取り組めるイメージが持てるようになっているはずです。
脳トレ体操は運動と認知課題を同時に行う認知症予防法

脳トレ体操が認知症予防に効果的とされる理由
脳トレ体操は、専門的には「二重課題(デュアルタスク)トレーニング」と呼ばれるものですね。
代表的なプログラムに、国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」があります[1]。
足踏みやウォーキングなど、少し息がはずむくらいの運動をしながら、同時に計算やしりとりなどの頭を使う課題をこなす、という仕組みです。
運動は、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病や脳梗塞などを予防し、認知症になるリスクを低下させると言われています[1]。
そこに「たまに間違えてしまう程度」の頭の課題を組み合わせて、楽しく脳を鍛えようというのがコグニサイズの考え方ですね[1]。
なお、コグニサイズは本来、全身を使って軽く息がはずむ程度の運動と組み合わせるものとされています[1]。
この記事で紹介する座ったままの体操は、その入り口として取り組みやすい形にしたもの、と考えていただけると分かりやすいかなと思います。
座位でもできる脳トレ体操のやり方
転倒リスクが気になる方には、座ったままできる脳トレ体操がおすすめですね。
椅子に腰かけて行えるので、バランスに不安がある方でも安心して取り組んでいただけます。
指体操と数え歌を組み合わせた体操
まずは、指体操と数え歌を組み合わせたデュアルタスクから試してみましょう。
- 片手でグー・パーを繰り返しながら「1、2、3…」と数える
- 慣れてきたら、左右の手で違う動き(片方はグー・パー、もう片方はチョキ・パー)を同時に行う
- 数を数える代わりに「うさぎとかめ」などの数え歌にしても大丈夫です
頭と指が「あれ、こんがらがる…!」という瞬間こそ、ちょうどよい難しさのサインだと考えています。
椅子に座ったままできる全身体操
次に、全身を使った座位体操です。
- 両腕を上げ下げしながら、足踏みをする
- 足踏みの回数に合わせて「3の倍数で手を叩く」といった条件を加える
- 肩甲骨を寄せる動きと深呼吸を組み合わせる
これらは体力や持病に応じて無理のない範囲で行っていただきたいですし、めまいや体調不良を感じたらすぐに中止してくださいね。
あくまで予防的な取り組みであり、効果には個人差があるという前提を忘れずに進めていただけると嬉しいです。
リズム体操を取り入れた認知症予防体操

指体操や全身体操などの座位体操に慣れてきたら、次のステップとして音楽やリズムの要素を取り入れてみるのもおすすめです。
歌いながら手足を動かすリズム体操の例
リズム体操は、音楽に合わせて身体を動かすことで楽しみながら続けられるのが大きな魅力ですね。
難しく考えなくても大丈夫で、例えばこんな組み合わせから始めてみるのがおすすめです。
- 童謡を歌いながら手拍子と足踏みを同時に行う
- 歌詞の中に出てくる数字や動物の名前で、特定の動作を入れる(例:「3」が出たら手を叩く)
- テンポの良い曲に合わせて、座ったまま腕を大きく回す
(最初はテンポに全然合わなくてバラバラになってしまうこともありますが、それもまた笑いのタネになって、場が和むんですよね)
ポイントは、正確さよりも「続けること」「楽しむこと」を優先する視点を持ってみることです。
完璧にできなくても、頭と身体を同時に使っている時点で十分に意味のある取り組みだと私は感じています。
ふらつきや疲労感が出た場合は、無理せずすぐに中止していただけると安心ですね。
私は、できるだけ声を出してもらったり、笑顔を引き出せたりするように声かけをしています。参加者の方が少し笑顔になったり声を出したりすると、その場全体に良い影響があって、盛り上がりやすいと感じています。
デュアルタスクで脳トレ体操の効果を高めるコツ
ここまで紹介した座位体操やリズム体操に慣れてきたら、次は少しずつ難易度を上げていく工夫を取り入れてみましょう。
難易度を少しずつ上げる工夫
脳トレ体操の効果をしっかり引き出すには、「ちょっと簡単だな」と感じるレベルから始めて、少しずつ難易度を上げていくことがポイントになりますね。
最初から難しい課題だと、頭を使うことに精一杯になってしまって、肝心の身体の動きがおろそかになりがちです。
(これはリハビリ全般に言えることで、欲張って一気に負荷を上げると、かえって続かなくなってしまうんですよね…笑)
具体的には、こんな順番で進めていくのがおすすめです。
- ステップ1:足踏みしながら、1から10まで数える
- ステップ2:足踏みしながら、しりとりをする
- ステップ3:足踏みしながら、3の倍数で手を叩く
このように運動も認知課題も段階的にレベルアップさせていくことで、脳にも身体にも適度な刺激が入り続けます。
ただし、焦って難易度を上げすぎるとつまずきや転倒のリスクにもつながりますので、体調やバランス能力に合わせて、無理のない範囲で調整していただけると嬉しいです。
高齢者が安全に脳トレ体操を行うための注意点

体調不良時は無理せず中止する
脳トレ体操は、頭を使いながら体を動かすぶん、ついつい足元への注意がおろそかになりがちですよね。
理学療法士の立場から、安全に行うために押さえておきたい点を挙げておきますね。
- 転倒予防:ふらつきがあるときは椅子に座って行う、壁や手すりにつかまる、周囲に物を置かないなど環境を整える
- 準備運動と強度調整:開始前にストレッチを行い、強度は「ややきつい」程度から無理なく段階的に上げる
- 水分補給と中断基準:喉が渇く前にこまめに水分を取り、関節痛・息切れ・強い疲労感があれば迷わず中止する
- 持病がある場合:心疾患や高血圧などがあれば、始める前に主治医へ相談しておく
「頑張って続けること」よりも、「異変があればすぐ止める」という姿勢のほうがずっと大切ですね。
ご本人の体力やバランス能力に合わせて、無理のない範囲で続けていただけると嬉しいです。
安全確認としては、周りの人やものにぶつからないか、安定した椅子かどうか、車椅子の場合はブレーキをかけてフットレストから足をおろしているか、を最低限確認するようにしています。
施設・自宅で使える脳トレ体操の実践例
ここまでお伝えしてきた安全への配慮を踏まえたうえで、ここからは実際にどんな場面で脳トレ体操を取り入れられるか、具体的に見ていきましょう。
脳トレ体操は、特別な器具がなくても取り入れやすいのが良いところですね。
自宅でできる例 – 足踏みしながら「しりとり」や「計算」をする – 椅子に座ってボールを使い、投げる・数えるを同時に行う – 歩きながら季節の花の名前を挙げる
無理のない範囲で、1日数分から始めていただければ十分かなと思います。
施設のデイサービスなどでは、集団で行うレクリエーション形式の脳トレも盛んに取り入れられています。
(とはいえ、集団でのプログラム内容は施設ごとに工夫が凝らされているので、ここでは詳しく触れきれません…)
まとめ:脳トレ体操で身体と脳を同時に鍛える

ここまで、脳トレ体操についてお伝えしてきました。
改めてお伝えしておきたいのは、脳トレ体操はあくまで認知症の予防的な取り組みであって、治療や治癒を保証するものではないという点ですね。
効果の現れ方には、
- 体力や持病の有無
- バランス能力
- 本人の意欲や生活環境
など、個人差があるのが実際のところです(この辺りは、誰にでも同じ効果が出るわけではないので、焦らなくて大丈夫です)。
大切なのは、無理のない範囲でコツコツ続けていただくことかなと思います。
もし実施中にふらつきやめまい、体調の変化を感じた場合は、すぐに中止するという安全配慮だけは、どうか忘れないでいただけると嬉しいです。
身体と頭を同時に使うデュアルタスクは、ちょっとした空き時間でも取り入れやすい取り組みです。
まずはできる範囲から、ご本人のペースで楽しみながら試していただければと思います。
引用文献
[1] 長寿科学振興財団. コグニサイズ. 健康長寿ネット. https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/cognicise.html. 2016年公開、2024年更新. 2026年10月08日アクセス.





