リハビリ中に患者さんの様子が急変したとき、「この方はDNARだから」「ナチュラルコースの方針だから」といった申し送りを聞いて、その意味を正確に説明できるでしょうか。
この記事を読めば、急変時対応でよく使われる「DNAR」「ナチュラルコース」「フルコース」という3つの用語の違いと、それぞれの場面で何が行われ、何が行われないのかが整理できます。
鍵となるのは、DNARが日本集中治療医学会による正式な定義を持つ医学用語である一方、ナチュラルコースやフルコースは臨床現場で使われている通称にすぎないという違いを理解することです。
リハビリ専門職として急変時対応の方針を正しく理解しておくことは、日々の臨床判断や患者さん・ご家族への向き合い方に直結します。
「急変時DNAR」とは何か
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)とは、日本集中治療医学会が2017年に示した「DNAR指示のあり方についての勧告」で定義されている、心停止時の心肺蘇生に関する医学用語です。
この勧告では、DNAR指示は心停止時にのみ有効であり、心肺蘇生を行わないこと以外の、集中治療室への入室を含む通常の医療・看護についてはこの指示とは別に判断すべきであると明確に示されています。
つまりDNARは、「心停止時に心肺蘇生を試みない」という意思表示であり、それ以外の治療(酸素投与、気管挿管、人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室など)を自動的に不開始・差し控え・中止してよいという意味ではありません。急変時に何も対応をしないという意味ではない点は、特に誤解しやすいので注意が必要です。
以前は「DNR」という表現が使われていましたが、蘇生の可能性が高いにもかかわらず心肺蘇生を行わないという誤解を招きやすいという指摘から、「試みる」を意味する”Attempt”を加えたDNAR(蘇生の可能性が低いため心肺蘇生を試みない)という表現に置き換えられた経緯があります。
急変してもおかしくない状態でリハビリを継続している患者さんの中には、ご本人・ご家族の意向でDNARが選択されているケースもあります。DNARはあくまで心停止時の対応に限定された取り決めであり、日常のリハビリや看護を制限するものではないことを、現場では正しく理解しておく必要があります。
現場で使われる「ナチュラルコース」「フルコース」という通称
DNARが学会の公式な定義を持つ医学用語であるのに対し、「ナチュラルコース」「フルコース」という言葉は、法令や学会のガイドラインで定義された正式な医学用語ではなく、臨床現場で慣習的に使われている通称です。そのため、施設によって細部のニュアンスが異なる場合がある点には注意してください。
一般的にナチュラルコースとは、急変時や状態が徐々に悪化していく場面で、薬剤や心臓マッサージなどの積極的な処置を行わず、自然な経過を見守りながらお見送りする方針を指します。苦痛を和らげるためのケアや最低限の点滴などは、行われることがあります。
一方フルコースとは、心拍数や血圧が低下した際に昇圧剤などの薬剤を積極的に使用し、心停止時には心臓マッサージや気管挿管、人工呼吸器の装着などの救命処置を行う方針を指します。ご本人にとっては、浮腫や褥瘡、気管切開などによる身体的な負担が大きくなる場合もあり、鎮静下で人工呼吸管理が行われることもあります。
ご家族が「できるだけ長く生きてほしい」という思いからフルコースを希望されるケースは少なくありません。しかしその選択が、ご本人にとって本当に望ましいものかどうかは、事前の話し合いなしには判断が難しい問題でもあります。
3つの対応方針を比較する
それぞれの方針で何が行われ、何が行われないのかを表で整理します。
| 項目 | DNAR | ナチュラルコース | フルコース |
|---|---|---|---|
| 位置づけ | 学会が定義する正式な医学用語 | 臨床現場での通称 | 臨床現場での通称 |
| 適用される場面 | 心停止時のみ | 終末期の見守り全般 | 急変時全般 |
| 心臓マッサージ・除細動 | 行わない | 行わない | 行う |
| 気管挿管・人工呼吸器 | 心停止時以外は指示の対象外 | 行わない | 必要に応じて行う |
| 昇圧薬などの薬物治療 | 心停止時以外は指示の対象外 | 行わない | 積極的に使用 |
| 苦痛緩和・最低限の点滴 | 継続する | 行うことがある | 継続する |
DNARは「心停止時に心肺蘇生を試みない」という一点に限定された取り決めであるのに対し、ナチュラルコース・フルコースはそれぞれ「急変時全体にどこまで積極的な処置を行うか」という、より広い範囲の方針を指す通称である、という違いを押さえておくと整理しやすくなります。
繰り返しになりますが、ナチュラルコースとフルコースは正式に定義された用語ではないので、施設によって細部のニュアンスが異なる場合がある点には注意してください。
リハビリ専門職として知っておきたいこと
これらの方針は基本的に、心拍数や呼吸状態が徐々に低下してきた際に昇圧剤などの薬剤を使用するかどうか、心停止に至った際にどう対応するかという選択の場面で、事前にご家族へ説明し、方針を共有しておくために用いられます。
リハビリの現場でも急変が起こり得る以上、担当している患者さんがどの方針を選択しているのかを事前に把握し、その方針が実際に何を意味するのかを正確に理解しておくことは、日々の臨床判断において重要です。用語の意味を誤解したまま急変対応にあたることのないよう、日頃から多職種間で認識をすり合わせておきましょう。
まとめ
急変時対応には、DNAR・ナチュラルコース・フルコースという3つの言葉が使われますが、DNARだけが学会による正式な定義を持つ医学用語であり、ナチュラルコース・フルコースは臨床現場での通称であるという違いをまず押さえておきましょう。
それぞれの方針が何を行い、何を行わないのかを正確に理解することは、患者さんやご家族の意思を尊重した対応につながります。
参考文献
日本集中治療医学会. Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告. 日本集中治療医学会雑誌. 2017;24(2):208-209.





