小脳梗塞の患者さんを初めて担当したとき、片麻痺の評価とは勝手が違って、運動失調や眼球運動障害をどう評価すればいいのか戸惑ってしまうこと、ありますよね。
この記事では、SARA(運動失調評価スケール)をはじめとした協調運動評価から、眼振・バランス・歩行の評価項目、そして急性期に押さえておきたいリスク管理のポイントまでを体系的に整理しています。
読み終えていただければ、小脳梗塞特有の失調症状に対して、自信を持って評価とリハビリ方針を組み立てられるようになるはずです。
理学療法士としての専門知識と、評価スケールに関する公的な資料の両方をもとに、できるだけ実践的な視点でまとめていますので、ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。
小脳梗塞の理学療法評価は失調症状の把握が最優先となる

小脳梗塞のリハビリでは、筋力そのものよりも「協調運動障害」をどう捉えるかが評価の出発点になりますね。
小脳梗塞で生じる運動失調の主な分類
小脳は前庭小脳・脊髄小脳・大脳小脳という3つの機能領域に分けて理解します[1]。障害された部位によって、症状の出方も変わってきます。
- 体幹バランスが崩れる体幹失調
- 手足の動きがガクガクする四肢失調
- 目的の場所に手が届かない測定障害・企図振戦
錐体路症状が軽くても、これだけで動作がガタッと崩れることがあるので油断できません。
(新人の頃は、症状を筋力や体幹機能の問題として捉えてしまい、協調性や失調といった視点を十分に持てていませんでした)
評価前に確認すべき画像所見とカルテ情報
評価に入る前に、画像所見や医師記録から梗塞部位・浮腫の有無を確認しておくことも欠かせませんね。
脊髄性失調や迷路性失調との鑑別も含めて、失調の「首座」がどこにあるのかを見極めることが、その後の介入計画の土台になっていきますね(ここを飛ばすと後で評価がブレてしまうので、地味だけど大事な工程です(笑))。
体幹・四肢の協調運動はSARAで定量的に評価する
体幹・四肢の協調運動障害を数値化するには、SARAが頼りになりますね。
SARAの8項目とスコアリングの実施方法
歩行・立位・座位・言語障害・指追い試験・鼻-指試験・手の回内外・踵-すね試験の全8項目、0〜40点で評価し、点数が高いほど運動失調が重度です[2]。施行時間は、脊髄小脳変性症の患者を対象にした原著で平均約14分と報告されています[3]。同じ原著では、検者間信頼性(級内相関係数0.98)と再テスト信頼性(同0.90)が高く、バーセルインデックスとも強く相関(r=−0.80)したとされています。ただし、対象は脊髄小脳変性症の患者で、脳卒中に限った検討ではありません。
SARAのカットオフ値と臨床的な解釈
後方循環の脳卒中で失調を伴う120例の報告では、発症7日目のSARAが14点だと3か月後の転帰良好(mRS 0〜2)を予測するカットオフ値でした[4]。点数が低いほど転帰が良好という関係です。ただし単施設の報告なので、目安として捉えるのがよさそうです。数値化できていない段階では、まずSARAで現状把握から始めるのがおすすめです。
眼振・眼球運動障害の評価で小脳性か鑑別する

めまいやふらつきが小脳など「中枢性」か内耳などの「末梢性」かの見極めは、リハビリを進める上で大切です。手がかりは眼振・眼球運動の観察です。
眼振の観察方法とチェックポイント
注目は眼振の「向き」と「固視への反応」、そして眼球の位置ずれです。
急性の持続するめまいでは、頭部衝撃試験・眼振・斜偏位を組み合わせた「HINTS」という評価法が知られています。頭部衝撃試験が正常、方向交代性眼振、斜偏位のいずれかがあれば中枢性(脳卒中)を疑い、この3つの所見は脳卒中に対して感度100%・特異度96%と報告されています[5]。ただし、対象は脳卒中の危険因子を持つ急性前庭症候群の患者です。
「固視で治まるか」は、ベッドサイドでも観察しやすい点です。
眼球運動障害が疑われる場合の対応
追従性眼球運動がなめらかか、目標に正確に止まれるかを観察します。気になる所見があれば、医師へ報告して鑑別につなげましょう。
バランス・歩行能力の評価は失調特有の視点で行う
小脳梗塞のバランス・歩行評価は、片麻痺の運動評価とはちょっと違う視点で見ていく必要がありますね。
静的・動的バランス評価の注意点
- 支持基底面を狭めた課題(つぎ足立位、閉脚立位など)への反応をチェックします
- 開眼での動揺に加えて、閉眼で動揺が増すかも確認し、感覚性の要素の関与も念頭に置きます
失調性歩行の観察ポイントと歩行評価尺度
- ワイドベース歩行、歩幅・歩隔の不規則性、酩酊様歩行、方向転換時のふらつきなどを観察します
- SARAの歩行・立位・座位の項目で、経過を追って評価できます
- BBS(バーグバランススケール)やTUG(Timed Up and Goテスト)と併用して経過を見る方法もあります
急性期は浮腫・脳幹圧迫のリスク管理を最優先する

小脳梗塞の急性期で何より優先すべきなのは、浮腫による脳幹圧迫や水頭症のリスク管理ですね。
小脳梗塞は、めまい・嘔気・ふらつき・頭痛といった非特異的な症状で始まることがあり、発症早期の脳CTでは後頭蓋窩の虚血がほとんど映らないとされています[7]。だからこそ、協調運動・歩行・眼球運動を丁寧に診ることが大切です。
後頭蓋窩は容積変化に乏しい空間なので、梗塞巣周囲の浮腫が増悪すると脳幹圧迫や閉塞性水頭症に至ることがあります。小脳梗塞の最大2割で、悪性浮腫による神経学的な悪化がみられると報告されています[6]。ただし、集中治療室に入院した150例を後ろ向きに調べた研究です。早期に診断して脳幹圧迫や閉塞性水頭症を防ぐことが重要とされています[7](総説)。
増悪サインの見極め方とバイタル確認
以下のサインは要チェックです。
- 頭痛の増悪、嘔気・嘔吐
- 徐脈や血圧上昇(クッシング現象)
- 瞳孔不同、傾眠などの意識レベル低下
(こうした徴候は、病院時代にたくさん学び、今の土台となっています)
リハビリ中止基準と医師への報告タイミング
これらのサインが少しでも見られたら、リハビリは即中止し、医師への迅速な報告を優先していただけると嬉しいです。
「軽そうだから大丈夫」という自己判断は禁物ですね。安全管理を最優先する姿勢を、常に持っておきたいところです。
評価結果は病期に応じたリハビリ方針に反映させる
小脳梗塞の失調評価は、それ自体が目的ではなく、病期に応じたリハビリ方針に反映させることが最終的なゴールです。評価で得た情報を急性期・回復期・生活期それぞれの目的に応じて活かしていく視点が欠かせません。
詳しくは脳卒中リハビリプログラムの立て方!病期別の評価と目標設定をご覧ください。
まとめ:小脳梗塞の理学療法評価

小脳梗塞のリハビリ評価では、片麻痺とは違った視点が必要になりますね。
改めて要点を整理すると、以下のようになります。
- 急性期は浮腫や脳幹圧迫による意識レベル低下に要注意。少しでも様子が変なら、迷わず医師へ報告してリハビリ中止を判断すること
- 評価の中心は体幹・四肢の協調運動障害、眼振・眼球運動障害、失調性のバランス・歩行障害
- MMT(徒手筋力検査)やMAS(修正アシュワーススケール)といった片麻痺特有の評価は、今回のテーマの主役ではないという点も押さえておきたいところです
小脳梗塞の失調評価は奥が深く、画像所見や病期を踏まえながら丁寧に見極めていく姿勢が欠かせません。
こうして評価した結果は、病期に応じたリハビリ方針に反映させていくことになります。
引用文献
[1] 小脳性運動失調の評価と理学療法. isho.jp. https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1551203610. 発行年不明. アクセス日: 2026年09月22日.
[2] Roongpiboonsopit D, Laohapiboolrattana W, Wiangkham T, et al. Cross-Cultural Translation and Validation of the Thai Version of the Scale for the Assessment and Rating of Ataxia (SARA-TH). Ann Rehabil Med. 2024;48(5):360-368. doi:10.5535/arm.240061. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39497496/. アクセス日: 2026年09月22日.
[3] Schmitz-Hübsch T, du Montcel ST, Baliko L, et al. Scale for the assessment and rating of ataxia: development of a new clinical scale. Neurology. 2006;66(11):1717-1720. doi:10.1212/01.wnl.0000219042.60538.92. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16769946/. アクセス日: 2026年09月22日.
[4] Yamauchi K, Kumagae K, Goto K, et al. Predictive Validity of the Scale for the Assessment and Rating of Ataxia for Medium-Term Functional Status in Acute Ataxic Stroke. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2021;30(4):105631. doi:10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2021.105631. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33508726/. アクセス日: 2026年09月22日.
[5] Kattah JC, Talkad AV, Wang DZ, et al. HINTS to diagnose stroke in the acute vestibular syndrome: three-step bedside oculomotor examination more sensitive than early MRI diffusion-weighted imaging. Stroke. 2009;40(11):3504-3510. doi:10.1161/STROKEAHA.109.551234. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19762709/. アクセス日: 2026年09月22日.
[6] Wang Y, Binkley MM, Qiao M, et al. Rate of Infarct-Edema Growth on CT Predicts Need for Surgical Intervention and Clinical Outcome in Patients with Cerebellar Infarction. Neurocrit Care. 2022;36(3):1011-1021. doi:10.1007/s12028-021-01414-x. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34966956/. アクセス日: 2026年09月22日.
[7] Edlow JA, Newman-Toker DE, Savitz SI. Diagnosis and initial management of cerebellar infarction. Lancet Neurol. 2008;7(10):951-964. doi:10.1016/S1474-4422(08)70216-3. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18848314/. アクセス日: 2026年09月22日.





