はじめに:「指示待ち部下」にため息…その原因、あなたの「聴き方」にあるかも?
「部下がなかなか自主的に動いてくれない…」
「こちらの指示がうまく伝わっていない気がする…」
「フィードバックをしても、どうも響いていないようだ…」
リーダーや指導者として、このような悩みを抱えることはありませんか?
もしかしたら、その原因の一つは、あなたの「話の聴き方」にあるのかもしれません。
2020年当時、私自身も部下とのコミュニケーションに課題を感じ、その解決策として「アクティブリスニング(積極的傾聴)」の重要性に気づきました。
この記事は、当時の私の学びを元に、
- アクティブリスニングとは何か、その本質を理解したい方
- 部下の主体性やモチベーションを高めるコミュニケーションスキルを身につけたい方
- 日々のコミュニケーションを通じて、より良い人間関係を築き、チームの成果を向上させたいと考えている方
に向けて、アクティブリスニングの具体的な実践方法とその効果、そして臨床や職場での応用例について、2025年の視点から情報をアップデートし、詳しく解説していきます。
1. アクティブリスニングとは? – ただ「聞く」のではなく「聴く」技術
アクティブリスニング(Active Listening)、日本語では「積極的傾聴」と訳されます。これは、米国の臨床心理学者カール・ロジャーズが提唱したカウンセリングにおけるコミュニケーション技法の一つで、単に相手の言葉を耳に入れる「聞く(hearing)」のではなく、相手の言葉の背景にある感情や真意を深く理解しようと、能動的かつ共感的に耳を傾ける「聴く(listening)」姿勢・技術を指します。
アクティブリスニングにおいて、聴き手は、
- 受容の精神: 相手の考えや感情を、良い悪いと判断せずにありのまま受け止める。
- 共感的理解: 相手の立場に立って、その感情や思考を理解しようと努める。
といった態度で臨みます。そして、話し手が自分自身で問題の本質に気づき、自ら解決策を見出せるようにサポートするプロセスを共有します。
2020年の記事で「とにかく聞き手の話を徹底的に聞くこと。聞くことに徹し、口を挟まないで相手のことに興味を持ちを真剣に聞くことが重要」と書きましたが、まさにこれがアクティブリスニングの出発点です。
2. なぜアクティブリスニングが重要なのか? – 人が本来持つ「自己実現力」を引き出す
人間には、目標を設定し、それに向かって努力し、達成する力、他者に貢献しようとする力など、本能的に自己実現を目指す力が備わっていると言われています(カール・ロジャーズの人間性心理学など)。
アクティブリスニングは、この人間が本来持っている力に気づかせ、それを最大限に引き出すためのコミュニケーションです。聴き手が自分の意見や判断を差し挟まず、相手の話に深く耳を傾けることで、話し手は安心して自分の内面を探求し、自分自身では気づかなかった真実や解決の糸口にたどり着くことができます。
アクティブリスニングの主な効果:
- 信頼関係の構築: 「この人は自分の話を真剣に聴いてくれる」という安心感が、強固な信頼関係を築きます。
- 相手の自己理解の深化: 自分の考えや感情を言葉にして話す中で、話し手自身が問題の本質や自分の本当の気持ちに気づくことができます。
- 主体性と自律性の促進: 指示やアドバイスではなく、相手自身の気づきから行動が生まれるため、より主体的で自律的な行動変容を促します。
- モチベーションの向上: 自分の考えや感情が受け止められたと感じることで、自己肯定感が高まり、物事に取り組む意欲が向上します。
- コミュニケーションの円滑化: 誤解やすれ違いが減り、よりオープンで建設的な対話が可能になります。
- ハラスメント防止効果: 相手の意見を尊重し、真摯に耳を傾ける姿勢は、パワーハラスメントなどの防止にも繋がります。
私が過去に読んだ多くの文献でも、「相手に集中して聞く」「相手の心の基準で言葉を理解する」「相手の価値観を尊重する」といったキーワードが共通して挙げられていました。
これらは全て、相手の「自己実現力」を信じ、それを引き出すためのアクティブリスニングの核となる要素です。
3. アクティブリスニング実践のポイント:今日からできる具体的なテクニック
アクティブリスニングは、単なる心構えだけでなく、具体的なスキルも伴います。
ここでは、バーバル(言語的)コミュニケーションとノンバーバル(非言語的)コミュニケーションの両面から、実践のポイントを紹介します。
3.1. バーバルコミュニケーション(言葉による技術)
- 共感的な相槌(あいづち): 「はい」「ええ」「そうなんですね」「なるほど」といった適切な相槌は、相手に「話を聴いていますよ」というサインを送り、話しやすい雰囲気を作ります。
- 繰り返し(リフレクション): 相手の言った言葉の一部や要点を繰り返すことで、「あなたの話をこのように理解しました」と伝え、認識のズレを防ぎます。例:「〇〇という点が不安なのですね」「つまり、△△を優先したいということですね」
- 感情の反射: 相手の言葉の背後にある感情を汲み取り、言葉にして伝えることで、より深い共感を示します。例:「それはお辛かったでしょうね」「とても嬉しい気持ちが伝わってきます」
- 明確化のための質問: 相手の話が曖昧な場合や、より深く理解したい場合に、オープンクエスチョン(「どのように?」「どうして?」「例えば?」など)を用いて、相手の思考を促します。ただし、詰問調にならないよう注意が必要です。
- 要約: 話が一区切りついたところで、内容を要約して伝えることで、相手は自分の話が理解されたと感じ、思考を整理する助けにもなります。
3.2. ノンバーバルコミュニケーション(言葉以外の技術)
言葉以上に相手に影響を与えるのが、非言語的なメッセージです。
- 姿勢: 少し前傾姿勢で、相手に体を向けることで、関心と傾聴の意欲を示します。腕を組んだり、足を組んだりする姿勢は、拒絶的な印象を与える可能性があるため避けましょう。
- 視線(アイコンタクト): 適度に相手の目を見て話を聞くことで、真剣さや誠実さを伝えます。ただし、凝視しすぎると威圧感を与えるため、自然な範囲で。
- 表情: 相手の話の内容や感情に合わせて、穏やかな表情や共感的な表情を心がけます。無表情や不機嫌な表情は、相手を話しにくくさせます。
- うなずき: 相槌と合わせて、適度にうなずくことで、理解と受容の意思を示します。
- 声のトーンやスピード: 相手の話すペースや声の調子に合わせることで、安心感を与え、リラックスして話せる雰囲気を作ります。早口になったり、声が大きすぎたりしないように注意しましょう。
3.3. アクティブリスニングを支える3つの基本的態度(ロジャーズの三原則)
カール・ロジャーズは、効果的なカウンセリング(アクティブリスニングが用いられる場面)の基盤として、以下の3つの態度が重要であると述べています。
- 自己一致 (Congruence): 聴き手が自分自身の感情や考えに正直であり、ありのままの自分で相手と接すること。
- 無条件の肯定的配慮 (Unconditional Positive Regard): 相手を評価したり、条件をつけたりすることなく、一人の人間として尊重し、肯定的に関心を持つこと。
- 共感的理解 (Empathic Understanding): 相手の内的世界を、あたかも自分自身のものであるかのように、しかしその「あたかも」という性質を失うことなく理解しようと努めること。
これらの専門用語を全て覚える必要はありませんが、「相手を尊重し、真摯に理解しようと努める」という根本的な姿勢が、アクティブリスニングを実践する上で最も大切であると言えるでしょう。
4. アクティブリスニングの実践:いつ、どのように取り組むか?
では、具体的にどのような場面で、どのようにアクティブリスニングを実践していけば良いのでしょうか。
4.1. 実践のコンセプト:「聴く」に徹し、相手のペースを尊重する
2020年当時の私が情報収集の中で意識しようとしていたポイントは、今も変わらず重要です。
- 基本は相手の話をとにかく真剣に聞く: 自分の意見やアドバイスは一旦脇に置き、まずは相手が話し終えるまで、あるいは一区切りつくまで、集中して耳を傾けます。
- 疑問点は丁寧に質問する: 理解できない点や、もっと詳しく知りたい点があれば、相手の話を遮らないように注意しながら、適切なタイミングで丁寧に質問します。
- 沈黙を恐れない: 相手が話し始めるまで、あるいは考えをまとめるための沈黙を、焦らずに待つことも重要です。
- 自分の意見は言わない(最初は): アクティブリスニングの初期段階では、聴き手の意見や価値観を表明することは控えます。まずは相手の世界を理解することに徹します。
- 無理に聞き出そうとしない: 相手が話したくないことや、まだ話す準備ができていないことを、無理に詮索するようなことは避けます。
4.2. アクティブリスニングを実践するタイミング
理想的には、日常のあらゆるコミュニケーションにおいて、アクティブリスニングをベースとした関わり方を意識することが望ましいです。特に、上司や指導者といった立場にある人が、一方的に自分の意見を押し付けてしまうと、部下や後輩は萎縮し、本音を言いにくくなってしまいます。
- 普段の何気ない会話から: ちょっとした雑談や相談事にも、アクティブリスニングの姿勢で耳を傾けることで、相手は「この人には話しやすい」と感じ、信頼関係が深まります。
- 1on1ミーティングや面談の際: 部下の目標設定、キャリア相談、悩み事のヒアリングなど、個別に対応する際には、特にアクティブリスニングが効果を発揮します。
- チームミーティングや会議のファシリテーション: 参加者全員の意見を引き出し、建設的な議論を促すためにも、アクティブリスニングのスキルは役立ちます。
2020年当時の私は、「コミュニケーションにおけるほぼ100%」でアクティブリスニングを実践しようと考えていましたが、これは非常に高い目標です。まずは、意識しやすい場面から少しずつ取り入れていくのが現実的でしょう。
5. アクティブリスニングだけでは対応できない場面と、その対処法
アクティブリスニングは非常に強力なコミュニケーション手法ですが、万能ではありません。指導者として、あるいは組織の一員として、自分の意見を明確に伝えたり、具体的な指示を出したり、時には厳しいフィードバックをしたりする必要がある場面も存在します。
2020年の記事で考察したように、以下のような場面では、アクティブリスニングだけでは対応が難しい、あるいは不適切な場合があります。
- 部下が初めて取り組む業務の指導: 全く知識や経験がない相手に対しては、まず必要な情報や手順を明確に伝える「ティーチング」が不可欠です。その上で、理解度を確認したり、疑問点を引き出したりする際にアクティブリスニングを活用できます。
- 明確なルール違反や、改善が必要な行動が見られる場合: この場合は、まず事実を伝え、なぜそれが問題なのか、どう改善すべきかを具体的に指示する必要があります。ただし、その背景にある理由や本人の考えを聴く際には、アクティブリスニングの姿勢が役立ちます。
- 相手に著しくやる気が見られない、あるいは対話を拒否している場合: アクティブリスニングは相手の協力があって初めて成立します。まずは、なぜそのような状態なのか、その背景にある要因を探ることから始める必要があるかもしれません。場合によっては、専門家の介入が必要なこともあります。
- 緊急性の高い指示や危機管理: 迅速な判断と明確な指示が求められる場面では、じっくりと話を聴く時間的余裕がないこともあります。
- フィードバック(特にネガティブな内容を含む場合): フィードバックは、相手の成長を促すための重要なコミュニケーションですが、伝え方には細心の注意が必要です。アクティブリスニングで相手の受け止め方を確認しつつも、伝えるべきことは明確に、しかし相手への配慮を忘れずに伝える必要があります。紙面でのフィードバックや、サンドイッチ法(ポジティブ→ネガティブ→ポジティブ)なども、状況に応じて有効な場合があります。
重要なのは、アクティブリスニングを絶対的なものと捉えず、状況や目的に応じて、ティーチングや指示、フィードバックといった他のコミュニケーション手法と柔軟に組み合わせることです。赤羽雄二さんが推奨する「アウトプットイメージ作成アプローチ」なども、明確な指示を出す際に有効な手法の一つと言えるでしょう。
まとめ:アクティブリスニングは、人と組織を育む「聴く力」の再発見
アクティブリスニングは、単なるコミュニケーション技法ではなく、相手の可能性を信じ、その成長を心から願うという、指導者としての基本的な姿勢そのものです。
その効果は、部下のモチベーション向上や主体性の育成に留まらず、チーム内の信頼関係の構築、コミュニケーションの活性化、そして最終的には組織全体のパフォーマンス向上にも繋がると言われています。
2020年当時、私は「アクティブリスニングの導入はいままでのコミュニケーションのとり方の根本から変えるような大きな内容」だと感じていました。そして、「部下の成長を加速するためには自分で考えて問題を解決する能力をあげることが非常に重要になる」という思いから、アクティブリスニングがコーチング的なアプローチとして有効だと結論づけていました。
その考えは今も変わりません。これからアクティブリスニングを実践し、その効果を実感していく中で、あなた自身のコミュニケーションスタイルも、より豊かで深みのあるものへと変化していくことでしょう。まずは、相手の話に真摯に耳を傾けることから始めてみませんか?