はじめに：「一人の患者さんに、一人の担当」が当たり前？新しいチームアプローチの可能性
多くの理学療法士にとって、「一人の患者さんに対して、一人の担当者がつく」というマンツーマン方式は、長年慣れ親しんだ働き方かもしれません。しかし、医療現場のニーズが多様化し、働き方改革が叫ばれる現代において、より柔軟で質の高いケアを提供するための新しいチームアプローチが注目されています。その一つが「グループ担当制」です。
「グループ担当制って何？」「どんなメリットがあるの？」 この記事では、2021年当時の私の考察を元に、理学療法士の「グループ担当制」がもたらす多くのメリットについて、現在の視点から深掘りし、具体的な効果や導入のヒントを解説します。新人育成から患者ケアの質向上、そして働きやすさまで、グループ担当制の魅力を紐解いていきましょう。
1. 理学療法士の「グループ担当制」とは？基本を解説
理学療法士における「グループ担当制」とは、文字通り、一人の患者さんを、一人の理学療法士が専任で担当するのではなく、複数の理学療法士がチーム（グループ）として連携しながら担当する仕組みのことです。
完全に全ての患者さんをグループ全体で均等に見る体制もあれば、私が以前所属していた病院のように、各患者さんに「主担当」を置きつつ、主担当が不在の日（休日など）は同じグループ内の他のメンバーが代行したり、書類作成や治療方針の相談などをグループ内で行ったりする「主担当制との併用型」も存在します。
この体制は、個々の理学療法士のスキルや経験年数、そして施設の規模や特性に応じて柔軟に設計できるのが特徴です。
2. なぜ今「グループ担当制」？理学療法士と患者双方に嬉しいメリット5選
一見すると「担当者が複数いると、患者さんが混乱するのでは？」といった懸念もあるかもしれませんが、適切に運用されたグループ担当制は、理学療法士側にも患者さん側にも多くのメリットをもたらします。
メリット1：新人・若手理学療法士の育成と安心感を醸成
経験の浅いスタッフにとって、一人で患者さんを担当することは大きなプレッシャーとなり得ます。グループ担当制は、この課題に対する強力なサポートシステムとなります。
- OJT（On-the-Job Training）の質の向上: 新人や若手は、グループ内の先輩療法士と一緒に患者さんを担当することで、実際の臨床場面で直接的な指導やアドバイスを受けやすくなります。手技や評価方法、患者さんとのコミュニケーションの取り方など、教科書だけでは学べない実践的なスキルを間近で学べます。
- 相談しやすい環境の構築: 「これでいいのだろうか？」という不安や疑問を、グループ内で気軽に相談できる環境は、新人の精神的な負担を軽減し、積極的な学びを促します。
- 多様な症例経験と視点の獲得: 様々な疾患や状態の患者さんをグループメンバーと共有することで、間接的にも多くの症例に触れる機会が増え、多様な視点やアプローチ方法を学ぶことができます。
- 段階的なステップアップ: 私が以前所属していた病院では、新人スタッフは最初から主担当を持つのではなく、まずグループのメンバーとして経験を積むというステップが設けられていました。これにより、無理なく臨床能力を高めていくことが可能です。
メリット2：患者ケアの質の向上と継続性の担保
患者さんにとっても、グループ担当制は質の高いケアを受ける上で多くの利点があります。
- 多角的な視点による評価と治療計画: 複数の理学療法士が関わることで、一人の視点だけでは見逃してしまう可能性のある問題点を発見したり、より多角的なアプローチから治療計画を立案したりすることができます。
- 情報共有による治療の一貫性: グループ内で患者情報を密に共有することで、担当者が変わっても治療方針にブレが生じにくく、一貫性のあるリハビリテーションを提供できます。
- 担当者不在時も質の高いケアを継続: 主担当が休暇や研修で不在の場合でも、グループ内の他のメンバーがスムーズに引き継ぎ、質の低下なくリハビリを継続できます。これは患者さんの安心感にも繋がります。
- 患者さんの安心感向上: 「複数の専門家に見てもらえている」という安心感は、患者さんの治療へのモチベーション向上にも貢献します。
メリット3：責任の分散と理学療法士の心理的負担軽減
臨床現場では、予期せぬ出来事や困難なケースに直面することも少なくありません。グループ担当制は、個々の理学療法士が抱える責任と心理的負担を軽減する効果があります。
- 一人に責任が集中するのを防ぐ: リハビリの進捗が思わしくない場合や、患者さんとの関係性で問題が生じた場合など、責任が一人の担当者に過度に集中するのを避けることができます。「グループで担当している」という意識が、個人のプレッシャーを和らげます。
- 困難事例へのチーム対応: 複雑な合併症を持つ患者さんや、難治性の症状を持つ患者さんに対して、グループで知恵を出し合い、協力して対応することで、より良い解決策を見つけ出すことができます。
- 休暇取得のしやすさとワークライフバランスへの貢献: 担当患者さんの情報をグループ内で共有しているため、気兼ねなく休暇を取得しやすくなります。これは、理学療法士の燃え尽きを防ぎ、長期的なキャリア形成を支える上で非常に重要です。
- 組織的なサポート体制の構築: 元の記事でも触れられていたように、グループリーダーが部下の業務を管理し、問題発生時には共に責任を負うという体制は、部下を守り、安心して業務に取り組める環境を作ります。
メリット4：チーム全体の知識・技術の向上と標準化
グループ担当制は、個々のスキルアップだけでなく、チーム全体の能力向上にも貢献します。
- 症例検討やカンファレンスの活性化: 同じ患者さんを複数の視点で見ているため、症例検討やカンファレンスでの議論が深まりやすく、活発な意見交換が期待できます。
- 知識・技術の共有と伝承: 各メンバーが得意とする分野の知識や技術をグループ内で共有したり、勉強会で学んだ新しい知見を伝え合ったりすることで、チーム全体のスキルアップに繋がります。
- 治療の質のばらつきを抑制: 定期的な情報共有や相互チェックを通じて、治療内容の標準化がある程度図られ、理学療法士ごとの質のばらつきを抑える効果も期待できます。
メリット5：組織運営の安定化とリスク管理
病院や施設といった組織運営の観点からも、グループ担当制にはメリットがあります。
- 急な欠勤や退職者が出た場合の影響を最小限に: 担当者が固定されている場合、その担当者が急に休んだり退職したりすると、患者ケアに大きな支障が出かねません。グループ担当制であれば、他のメンバーがカバーしやすく、影響を最小限に抑えられます。
- 業務の属人化を防ぐ: 特定の理学療法士しか対応できないといった業務の属人化を防ぎ、チーム全体で対応できる体制を構築しやすくなります。
3. グループ担当制を成功させるために（導入のヒント）
グループ担当制のメリットを最大限に活かすためには、いくつかのポイントがあります。
- 明確な情報共有ルールの確立: 定期的なミーティング、記録システムの活用など、スムーズな情報共有のための仕組み作りが不可欠です。
- チーム内の良好なコミュニケーション: 相互理解と尊重をベースとした、オープンなコミュニケーションが取れる風通しの良い環境が重要です。
- 適切なリーダーシップとフォロワーシップ: グループリーダーの適切なマネジメントと、メンバー各自の主体的な関与が求められます。
- 役割分担と責任範囲の明確化: 主担当制を併用する場合は特に、主担当とグループメンバーの役割と責任範囲を明確にしておくことが混乱を防ぎます。
まとめ：理学療法士のグループ担当制は、質の高いケアと働きがいを両立する未来へのカギ
今回は、理学療法士の「グループ担当制」がもたらす多くのメリットについて、2025年現在の視点も交えながら解説しました。
グループ担当制の主なメリット
- 新人・若手育成と安心感の醸成
- 患者ケアの質の向上と継続性の担保
- 責任分散と心理的負担の軽減
- チーム全体の知識・技術の向上と標準化
- 組織運営の安定化とリスク管理
手術技術の進歩や医療制度の変化に伴い、理学療法士の働き方も変革が求められています。グループ担当制は、個々の理学療法士の負担を軽減しつつ、チームとして患者さんにより質の高いケアを提供するための有効な手段の一つです。そしてそれは、理学療法士が専門性を発揮し、やりがいを感じながら働き続けられる環境づくりにも繋がるのではないでしょうか。
もちろん、導入には組織ごとの課題や工夫が必要ですが、そのメリットは計り知れません。この記事が、あなたの職場やチームの働き方を見直すきっかけとなり、患者さんと理学療法士双方にとってより良い未来を築く一助となれば幸いです。
