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化学療法を受けているがん患者さんの『抑うつ』に運動は効果的? 最新研究でわかったこと

化学療法を受けているがん患者さんの『抑うつ』に運動は効果的? 最新研究でわかったこと
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こんにちは!PTケイです。

化学療法を受けると、吐き気や脱毛、倦怠感など、様々なつらい症状が現れることがあります。 これらの症状に加えて、精神的に落ち込んでしまったり、不安を感じやすくなったりすることもあります。

「化学療法中は、ただでさえ辛いのに、気分まで落ち込んでしまって…」

そう感じている方もいるかもしれません。

実は、運動をすることで、化学療法中の抑うつ症状を軽減できるという研究結果が出ているんです。

今回は、化学療法と運動の関係について、詳しく解説していきます。

化学療法: 薬物を使ってがん細胞を殺したり、増殖を抑えたりする治療法のこと。抗がん剤を服用したり、点滴したりする方法が一般的です。

デンマークの研究グループによる報告

2011年、デンマークのミットガード ジュリーらの研究グループは、化学療法を受けているがん患者の不安と抑うつに対する運動介入の効果を検証した研究を実施しました。

この研究では、209人の患者さんを対象に、運動介入群と待機リスト対照群に分け、運動介入群には6週間、週に9時間の運動プログラムを実施しました。 プログラムの内容は、高強度の有酸素トレーニングおよび抵抗運動、リラクゼーションおよび身体意識トレーニング(瞑想など)、そしてマッサージなど、盛りだくさんだったようです。

その結果、運動介入群では、HADS-Dの抑うつスコアが平均-0.7ポイント改善したのです!

ここで、抑うつスコアについて少し説明しますね。

HADSとは?

この研究では、抑うつ症状の評価にHADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)という尺度が使われています。HADSは、病院で入院患者さんの不安やうつ病を評価するために開発された質問紙です。
(※以下はHADSの検査用紙です。通常は点数は記載されていませんが今回は、記載しています。)

スクロールできます
質問番号質問内容選択肢1選択肢2選択肢3選択肢4
1緊張したり気持ちが張りつめたりする事が:3: しょっちゅうあった2: たびたびあった1: 時々あった0: 全く無かった
2むかし楽しんだ事を今でも楽しいと思う事が:0: めったに無かった1: 少しだけあった2: かなりあった3: まったく同じだけあった
3何か恐ろしい事が起ころうとしているという恐怖感を持つ事が:3: しょっちゅうあって、非常に気になった2: たびたびあるが、あまり気にならなかった1: 少しあるが、気にならなかった0: 全く無かった
4物事の面白い面を笑ったり、理解したりする事が:0: 全く出来なかった1: 少しだけ出来た2: かなり出来た3: いつもと同じだけ出来た
5心配事が心に浮かぶ事が:3: しょっちゅうあった2: たびたびあった1: それほど多くは無いが、時々あった0: ごくたまにあった
6機嫌の良いことが:0: 全く無かった1: たまにあった2: 時々あった3: しょっちゅうあった
7楽に座って、くつろぐ事が:0: 全く出来なかった1: たまに出来た2: たいてい出来た3: 必ず出来た
8仕事をさけているように感じることが:3: ほとんどいつもあった2: たびたびあった1: 時々あった0: 全く無かった
9不安で落ち着かないような恐怖感を持つことが:3: しょっちゅうあった2: たびたびあった1: 時々あった0: 全く無かった
10自分の顔、髪型、服装に関して:0: 関心が無くなった1: 以前よりも気を配っていなかった2: 以前ほどは気を配っていなかったかもしれない3: いつもと同じように気を配っていた
11じっとしていられないほど落ち着かない事が:3: しょっちゅうあった2: たびたびあった1: 少しだけあった0: 全く無かった
12物事を楽しみにして待つことが:0: めったに無かった1: 以前よりも明らかに少なかった2: 以前ほどは無かった。3: いつもと同じだけあった
13突然、理由の無い恐怖感(パニック)に襲われることが:3: しょっちゅうあった2: たびたびあった1: 少しだけあった0: 全く無かった
14面白い本や、ラジオ又はテレビ番組を楽しむことが:0: ほとんどめったに出来なかった1: たまに出来た2: 時々出来た3: たびたび出来た

HADSは、不安を測るためのHADS-Aと、抑うつを測るためのHADS-Dの2つのパートに分かれています。(評価用紙ではわからないようになっています。)

  • HADS-A: 精神的な緊張や心配、落ち着きのなさ、パニックなどを評価します。
  • HADS-D: 憂鬱な気分や興味の喪失、意欲の低下などを評価します。

それぞれ7つの質問があり、各質問への回答を点数化することで、不安と抑うつの程度を数値で表すことができます。点数はそれぞれ0点から21点までで、点数が低いほど症状が軽いことを示します。

今回の研究では、運動介入群のHADS-Dの点数が平均で0.7ポイント改善したということですね。

この0.7ポイントの改善、一見少ないように思えるかもしれません。

しかし、詳しく見てみると、ベースラインでHADS-Dスコアが8点以上の患者群(抑うつの疑いがある方~抑うつありの方)では、2.53ポイントの改善を認めています。

HADSにおいては、2ポイントの変化で軽度から中等度の変化、5ポイント以上の変化で中等度から大きな変化を示すとされていますので、この結果は運動介入が抑うつ症状の強い患者さんに対して効果があったことを示唆しています。

臨床的に意味のある変化とは、数値的な変化だけでなく、患者さん本人が実感できる程度の変化を指します。

HADSでは、2ポイント以上の変化があれば、患者さん自身も症状の変化を実感できる可能性が高いと考えられています。

研究の強み

この研究は、監督された高強度と低強度の運動介入の組み合わせの心理的効果を評価し、細胞増殖抑制治療を受けているがん患者のための心血管トレーニングと併せて激しい抵抗運動とリラクゼーションのトレーニングを組み込んだ最初のランダム化比較試験です。

ランダム化比較試験は、治療の効果を評価するための最も信頼性の高い研究デザインです。

そのため、この研究の結果は、運動が化学療法中のうつ病に効果的であるという強い証拠を提供しています。

解釈の注意点

この研究には、いくつかの限界があります。

まず、研究期間が6週間と短いため、長期的な効果は不明です。また、すべての患者が運動介入を完了したわけではありません。

さらに、自発的に参加した患者を対象(ある程度運動に前向きである可能性がある)としているため、結果を一般化できるかどうかは不明です。

運動は抑うつ症状の緩和に効果がある

この研究の結果は、化学療法を受けているがん患者さんにとって、運動がどれほど重要かを示しています。運動は、うつ的な症状を軽減するだけでなく、体力や生活の質を向上させる可能性もあります。

化学療法中は、体力が低下し、疲労感を感じやすくなります。しかし、だからといって運動を避けてしまうのは逆効果になる場合もあります。無理のない範囲で、軽い運動を続けることで、心身の健康を維持し、化学療法の副作用を軽減できる可能性があります。

運動を始める前に、医師や理学療法士に相談することをおすすめします。

参考文献

  • Midtgaard J, et al. Antidepressant effect of exercise in patients with cancer undergoing chemotherapy: a post hoc analysis of data from the “Body & Cancer” trial. Psychooncology. 2011;20(6):660-669.

健康・医学関連情報の注意喚起:

本記事は、化学療法中の運動に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。 がんなどの診断や治療については、必ず医療従事者にご相談ください。個別的な要素があるため、運動療法が適応にならない可能性もあります。

化学療法を受けているがん患者さんの『抑うつ』に運動は効果的? 最新研究でわかったこと

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