「ストレス社会」という言葉が生まれて久しい現代において、誰もが多かれ少なかれ心に悩みを抱えながら生きていると言えるかもしれません。
特に、日本では働き方改革が叫ばれて久しいものの、仕事に忙殺される毎日を送るビジネスパーソンを中心に、うつ病や不安神経症といった精神疾患に悩まされる人が増えています。
また、女性は男性に比べて、更年期障害や出産などライフステージの変化に伴うホルモンバランスの乱れから、男性よりも精神的に不安定になりやすいという傾向も報告されています。
さらに、共働き夫婦の増加や核家族化が進んだことによる「孤独」を感じやすい社会構造も、うつ病や不安神経症といった精神疾患の増加に拍車をかけている要因の一つとして考えられるでしょう。
ストレス社会の対処法として『運動』が注目されている
このような状況に対し、医療現場では薬物療法やカウンセリング療法といった治療法に加えて、近年では「運動療法」が注目されています。
中でも、特別な道具や訓練を必要とせず、誰でも手軽に始められるウォーキングは、その高い有効性から多くの人に推奨されています。

しかし、様々な効果が期待できる一方で、「本当に効果があるの?」「どんな運動をすればいいの?」といった疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、最新の研究論文に基づきながら、ウォーキングがもたらす精神的な効果について解説するとともに、より効果的なウォーキング方法についてご紹介していきます。
成人を対象とした抑うつ、不安に対する歩行の効果に関する論文
2024年5月15日、アメリカの研究グループは、抑うつ症状と不安症状に対する歩行の効果を評価した75件ものランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタアナリシスについて、「JMIR Public Health Surveill」に掲載しました。
この研究は、過去に行われた歩行とメンタルヘルスに関する研究を網羅的に分析したものであり、様々な歩行方法(頻度、時間、場所、形式など)が抑うつ症状や不安症状に与える影響を詳細に評価したものです。
この研究により、様々な形態のウォーキングが、うつ病や不安の症状を軽減するのに効果的であり、その効果は他の運動療法とも同程度であることが示されました。
特に注目すべき点として、研究グループは様々な切り口で参加者を分析しており、
- 異なる歩行頻度、時間、場所(屋内または屋外)、および形式(グループまたは個人)を含む、ほとんどのサブグループで抑うつ症状または不安症状を大幅に軽減できる可能性
- うつ病の成人参加者およびうつ病ではなかった患者は、抑うつ症状に対する歩行効果の恩恵を受けることができ、抑うつ状態の参加者はより多くの利益を得られたこと
といった点が挙げられます。
ウォーキングは誰でも手軽に始められ、かつ高い有効性も期待できる運動療法
この結果から、ウォーキングがメンタルヘルスにもたらす効果は、年齢や性別、人種、元々の性格などに関わらず、全ての人に等しく恩恵をもたらすものであると考えられます。
また、研究結果の信頼性を高めるために、研究デザインにも工夫が凝らされています。

通常、こういった研究を行う場合、研究に参加していただく被験者を2つのグループに分け、一方のグループには実際にウォーキングを行ってもらい、もう一方のグループには特に何も行わない、もしくはウォーキング以外の活動を行ってもらいます。
そして、ウォーキングを行ったグループとそうでないグループを比較することで、ウォーキングの効果を検証するという方法が取られます。
しかし、今回ご紹介した論文では、ウォーキングを行わないグループに加えて、他の運動療法を行っているグループとも比較することで、より厳密にウォーキングの効果を検証しています。
その結果、ウォーキングは他の運動療法と比較しても、同程度の効果が得られることが明らかになりました。
以上のことから、ウォーキングは誰でも手軽に始められ、かつ高い有効性も期待できる運動療法であると言えるでしょう。
より効果的なウォーキングを行う方法‐3つのポイント‐
研究結果によると、以下のポイントを抑えることで、より効率的にメンタルヘルスを改善できる可能性が示唆されています。
しかし、より効率的にウォーキングの効果を得るためには、いくつか注意しておきたいポイントがあります。
- 少なくとも中程度の強度で歩くこと
- ウォーキング中に何かしらの指示(アドバイス)を与えること
- 他の人と一緒に歩くこと
特に、3つ目の他の人と一緒に歩くことは、研究結果としても興味深いものでした。

この研究では、「グループでウォーキングを行う場合」と「1人でウォーキングを行う場合」を比較したところ、グループでウォーキングを行った方が、抑うつ症状と不安症状の両方に対して、より高い改善効果が見られたという結果が出ています。
もちろん、1人で黙々と歩くことにも、瞑想に近い効果があり、ストレス解消効果も期待できます。
しかし、最近ではウォーキングサークルといった地域コミュニティも発達してきています。
地域の人たちと交流しながらウォーキングを行うことで、心身ともにリフレッシュできるかもしれません。
まとめ
今回は、抑うつ症状と不安症状に対する歩行の効果について、最新の研究論文をもとに解説しました。
この記事の要点をまとめると、以下のようになります。
- 様々な形態のウォーキングは、うつ病や不安の症状を軽減するのに効果的である
- ウォーキングの効果は他の運動療法に匹敵する
- ウォーキングは年齢や性別に関わらず、誰でも効果が期待できる
- 中程度の強度で、他の人と交流しながら歩くと、より高い効果が期待できる
この記事を読んだあなたが、今日から近くの公園をウォーキングする傍らで、この記事の内容を思い出して下されば嬉しいです。
参考文献
Xu J, Zheng X, Ding H, Zhang D, Chan P-MH, Yang Z, et al. Effect of walking on depressive and anxiety symptoms: a systematic review and meta-analysis. JMIR Public Health Surveill. (2024)
重要な注意事項
本記事は、うつ病や不安障害に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。
これらの疾患の診断や治療については、必ず専門の医療従事者にご相談ください。