マインドフルネスの構成要素として、近年特に注目されているのが「平静さ(Equanimity)」です。 「平静さ」とは一体何なのでしょうか?
今回は、平静さに焦点を当てて、その意味や重要性について解説します。
平静さとは?
平静さは、伝統的な仏教に由来する概念で、
「経験や知覚対象がどのような感情価(快・不快・中性)であっても、どのような原因で生じたものであったとしても、それらと分け隔てなく接する傾向や落ち着いた心の状態」
と定義されます。

つまり、 嬉しいことがあっても、嫌なことがあっても、心が大きく揺れ動くことなく、穏やかでいられる状態 のことです。
なぜ「平静さ」が重要? 2つの理由
1:心の動きをコントロールするカギ
マインドフルネス瞑想の研究は、「注意制御」から「情動調整(感情のコントロール)」へと対象が広がってきました。 平静さは、感情に振り回されず、穏やかな心を保つための重要な要素だと考えられています。
2:「思いやり」を育む
近年、マインドフルネスだけでなく、「コンパッション(慈悲、思いやり)」の研究も進んでいます。 仏教では、コンパッションは「慈悲喜捨」の4つの心から成り立っていると考えられており、そのうちの「捨」が平静さを指します。 つまり、平静さは、自分だけでなく他者への思いやりを育む上でも、大切な役割を果たすと考えられているのです。

マインドフルネス瞑想による情動調整は、 「今この瞬間に生じている感覚や感情、思考に対して、開かれた受容的な態度でありのままに気づいている」 という方略です。 この、 開かれた受容的な態度を維持するために、平静さが関わっている と考えられています。
また、仏教においてコンパッションは、 「慈(mettā)」「悲(karuṇā)」「喜(muditā)」「捨(upekkhā)」 の4つの徳目(四無量心)から構成されています。 この「捨」が平静さを意味し、 マインドフルネスだけでなくコンパッションにとっても重要な概念 となっているのです。
平静さを育むには?
平静さは、
- 特定の対象に注意を集中するサマタ瞑想(集中瞑想)
- 今この瞬間に生じている経験に気づき続けるヴィパッサナー瞑想(洞察瞑想)
- 慈悲喜捨の4つの徳目を育む慈悲瞑想
のいずれの方法でも育むことができると言われています。
以下にそれぞれの瞑想の特徴について整理しました。
瞑想法 | 別名 | 主な目的 | 具体的な方法(例) | ポイント | 効果(論文での言及) |
---|---|---|---|---|---|
サマタ瞑想 | 集中瞑想 | 注意を一点に集中させ、心を静める | 呼吸、マントラ、ロウソクの炎など、特定の対象に意識を集中する。 | 注意がそれても、優しく対象に戻す。集中力を養う。 | 思考や苦楽がなくなり、不苦不楽の感覚としての平静さが生じる。 |
ヴィパッサナー瞑想 | 洞察瞑想 | 「今、この瞬間」の経験に気づき、洞察を得る | 身体の感覚、感情、思考など、生じては消えていく様々な経験を、判断せずに観察する。 | 特定の対象を選ばない。「気づき」を維持する。判断しない。 | 無常・無我・苦の智慧が身につき、経験と分け隔てなく接する態度や落ち着いた心の状態(平静さ)が備わる。 |
慈悲瞑想 | 四無量心瞑想 | 自分自身や他者への慈悲の心を育む | 自分自身、大切な人、全ての人々、生きとし生けるものに対して、慈悲の言葉(例:「私が幸せでありますように」)を心の中で繰り返し唱える。 | 言葉だけでなく、気持ちを込める。イメージを活用する。段階的に対象を広げる。慈・悲・喜・捨の4つの心を育む。 | 全ての生きとし生けるものに対して分け隔てなく接することのできる平静さが育まれる。他者への解釈を変化させる能力や視点取得の能力が育まれる。 |
まとめ
平静さは、 心が安定し、感情に振り回されず、穏やかに過ごすための鍵 となる概念です。
マインドフルネス瞑想を通じて平静さを育むことで、より豊かな人生を送ることができるかもしれません。
参考文献
Fujino, M. (2021). The psychological construct and neural mechanism of equanimity in meditation. Japanese Psychological Review, 64(3), 274–294.
重要な注意事項
本記事は、マインドフルネスに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。
精神疾患の診断や治療については、必ず専門の医療従事者にご相談ください