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変形性股関節症の評価・治療・リハビリ完全ガイド:理学療法士が押さえるべき全知識

変形性股関節症の評価・治療・リハビリ完全ガイド:理学療法士が押さえるべき全知識
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はじめに:変形性股関節症、「何をどう配慮すれば?」という疑問から始めよう

「変形性股関節症の患者さんって、正直あまり担当経験がないんだけど、リハビリで特別に配慮することって何だろう…?」 多くの理学療法士が、キャリアのどこかで一度は抱くかもしれないこの素朴な疑問。変形性股関節症は、その病態の多様性、進行度、そして何よりも患者さん一人ひとりの生活背景によって、きめ細やかな対応が求められる疾患です。

この記事では、2018年当時の私の学びと考察を原点とし、そこから現在の知見(2025年時点)を加えて大幅にアップデートしました。変形性股関節症の評価の基本から、進行度に応じた治療法の選択、そして理学療法士が臨床現場で直面する具体的なケーススタディまで、あなたが自信を持って患者さんと向き合うための一助となるよう、網羅的に解説していきます。

1. 変形性股関節症の評価:多角的な視点から「なぜ?」を深掘りする

適切なリハビリテーションは、正確な評価から始まります。変形性股関節症の評価では、標準的なスケールだけでなく、患者さんの生活の質(QOL)や、個別性の高い情報収集が不可欠です。

1.1. 標準的な評価スケールとその臨床的意義

  • JOA Hip Score (日本整形外科学会股関節疾患治療成績判定基準):
    • 日本国内で最も普及。「疼痛」「可動域」「歩行能力」「ADL動作」の4項目(計100点)で評価。
    • なぜ重要か?: 治療効果の客観的指標となり、患者説明や他職種との情報共有に役立ちます。スコアの変動は、介入の方向性を見直すきっかけにもなります。
  • Harris Hip Score (HHS):
    • 国際的に広く使用。「疼痛」「機能(歩行・ADL)」「変形の有無」「可動域」の4項目(計100点)で評価。
    • なぜ重要か?: 国際的な研究との比較や、エビデンスに基づいたアプローチを検討する際に参照しやすい指標です。
  • その他の評価スケール:
    • 運動器の認定理学療法士試験の資料などでも言及されるものとして、AAOS Hip and Knee QuestionnaireCharnley Score なども存在し、研究や特定の目的で使用されます。

評価スケール活用の核心:「痛み」と「生活機能」への着目 これらの評価法に共通するのは、「疼痛」を最重要視し、それが「関節の動き(可動域)」、「歩く能力」、「日常生活の遂行能力」にどう影響しているかを捉えようとしている点です。つまり、変形性股関節症のリハビリでは常にこれらの要素を念頭に置き、疼痛やROM(関節可動域)、関節機能、ADL動作分析といった評価をしっかりと行うことが基本となります。

1.2. 健康関連QOL (HRQOL) の評価:患者さんの「生きがい」に寄り添う

疾患が患者さんの「生活の質」にどれほど影響しているかを把握することも、理学療法士の重要な役割です。HRQOLの評価は、大きく「包括的評価」と「疾患特異的評価」に分けられます。

  • 包括的評価 (Generic Measures):
    • 特定の疾患に限定されず、幅広い健康状態を評価できるため、異なる疾患群との比較も可能です。
    • SF-36 (MOS Short-Form 36-Item Health Survey): 最も代表的な包括的HRQOL評価尺度の一つです。以下の8つの下位尺度(概念)から構成され、それぞれを単独で用いることもあります。
      1. 身体機能 (Physical Functioning)
      2. 日常役割機能(身体) (Role-Physical)
      3. 体の痛み (Bodily Pain)
      4. 全体的健康感 (General Health)
      5. 活力 (Vitality)
      6. 社会生活機能 (Social Functioning)
      7. 日常役割機能(精神) (Role-Emotional)
      8. 心の健康 (Mental Health)
    • なぜ重要か?: 疾患特異的ではないため、幅広い健康状態を捉えられ、他の疾患を持つ患者さんとの比較や、心理社会的な側面も含めた全人的な影響を把握するのに役立ちます。
  • 疾患特異的評価 (Disease-Specific Measures):
    • 特定の疾患(この場合は変形性股関節症や変形性膝関節症など)に特化した質問項目で構成され、その疾患特有の問題をより詳細に評価できます。
    • WOMAC (Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index): 変形性股関節症および変形性膝関節症の患者さんに対して国際的に広く用いられる疾患特異的QOL評価です。「疼痛」「こわばり」「日常生活の困難度」の3つの領域で評価します。変形性膝関節症でも用いられるため、股関節専門でなくても目にする機会があるかもしれません。
    • その他、HOOS (Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score)、JHEQ (Japanese Hip Osteoarthritis Measure) なども用いられます。

これらのQOL評価は、治療が単に身体機能だけでなく、患者さんの幸福感や社会参加にどう貢献したかを測る上で欠かせません。

1.3. 問診・身体所見:根本原因を探るための徹底的な情報収集

標準化された評価に加え、個々の患者さんから得られる情報は、治療方針を決定する上で極めて重要です。

  • 疼痛の徹底分析:
    • 何を聴くか?: 発症時期、期間、強さ(VAS等)、部位(鼠径部、殿部、大腿部など)、性質(ズキズキ、ジンジン、重だるい等)、増悪・寛解因子(特定の動作、安静時、夜間、天候など)、過去の疼痛歴、現在の疼痛コントロール状況(薬剤使用など)。
    • なぜ重要か?: 痛みのパターンから、炎症の活動性、侵害されている可能性のある組織(関節包、筋・筋膜、神経など)、痛みが日常生活に与える影響の大きさを具体的に把握し、介入の優先順位付けに役立てます。
  • リスク因子の探索:
    • 肥満 (BMI): 体重増加は股関節への力学的負荷を増大させます。
    • 過度なスポーツ歴・職業歴: 特に高負荷なスポーツ(アスリートレベル)や長時間の立ち仕事、重量物運搬作業はリスクを高める可能性があります。日本では、特に農作業や重量物運搬系の仕事が関連すると言われることもありますが、個々の作業内容や負荷の程度を具体的に聴取することが重要です。海外では、アスリートレベルのスポーツはレクリエーションレベルのスポーツよりも一次性変形性股関節症のリスクが高いことが示されています。
    • 性別・年齢: 一般的に女性に多く、加齢とともに有病率は上昇します。
    • なぜ重要か?: これらは股関節へのメカニカルストレスを増大させたり、生物学的な変性プロセスを促進したりする可能性があります。生活習慣の改善指導(体重管理、活動量の調整、作業環境の工夫など)に繋げることができます。
  • 既往歴の戦略的確認:
    • 臼蓋形成不全(最重要): 日本人に多く、二次性変形性股関節症の最大の原因とされています。幼少期の股関節検診の結果、治療歴(ギプス、装具、手術など)の確認は必須です。カルテ情報だけでなく、患者さん本人や家族からの情報も重要となります。
    • その他: ペルテス病、大腿骨頭すべり症、化膿性股関節炎、外傷歴(股関節周囲の骨折や脱臼など)などもリスク因子となります。
    • なぜ重要か?: 臼蓋形成不全の有無は、関節の安定性や荷重分散に大きく影響し、変形性股関節症の進行様式や治療選択(特に手術術式)に直結します。他の既往歴も、現在の股関節の状態や治療法の選択に影響を与える可能性があります。
  • 遺伝的背景の理解(聴取は慎重に):
    • 家族歴(特に親・兄弟姉妹の股関節疾患、特に変形性股関節症や臼蓋形成不全)。親の骨盤形状に似る場合があると言われています。
    • なぜ重要か?: 患者さんが元々変形性股関節症になりやすい素因を持っていた可能性を考察する一助となります。ただし、非常にデリケートな情報であるため、患者さんとの信頼関係を構築した上で、無理強いせず、患者さん自身が情報を持っていれば聞き出すというスタンスが望ましいでしょう。これらの情報は、なぜ変形性股関節症が発症したのかを考察する上で重要な手がかりとなり得ます。
  • 身体所見のポイント:
    • 視診: 立位・歩行時の姿勢(骨盤傾斜、体幹側屈、跛行の種類など)、患部の腫脹・変形・筋萎縮の有無、皮膚の状態。
    • 触診: 圧痛部位(鼠径部、大転子部、殿部など)、熱感、筋緊張。
    • 関節可動域測定: 自動・他動運動での可動域(特に屈曲・伸展・内旋・外旋・外転・内転)、エンドフィール、疼痛の有無。
    • 筋力測定: MMTや徒手筋力計を用いた股関節周囲筋(特に外転筋、伸展筋、屈筋、内転筋、回旋筋群)の筋力評価。
    • 特殊テスト: パトリックテスト、トーマステスト、トレンドレンブルグ徴候、インピンジメントテスト(FADIR testなど)を実施し、疼痛の原因や不安定性を評価。
    • 動作分析: 起立・着座、階段昇降、靴下履きなど、患者が困難を感じるADL動作を観察し、問題点を抽出。
    • なぜ重要か?: これらの所見を組み合わせることで、機能障害の具体的な内容、制限因子(関節性、筋性、神経性など)、代償パターンなどを特定し、治療のターゲットを明確にできます。

これらの情報を統合し、「なぜこの患者さんは変形性股関節症を発症し、現在このような問題を抱えているのか?」という根本原因を多角的に考察することが、個別性の高い効果的なリハビリテーション計画の基盤となります。

2. 変形性股関節症の治療法:進行度と患者ニーズに応じた最適な選択

変形性股関節症の治療は、保存療法と手術療法に大別されます。どちらを選択するかは、画像所見(X線、MRIなど)をよく見ることが重要であり、それに加えて症状の程度、年齢、活動レベル、そして何よりも患者さんの希望を総合的に判断して決定されます。

2.1. 保存療法

初期から進行期の一部で選択されます。疼痛の軽減、関節機能の維持・改善、ADLの改善、進行予防を目的とします。

  • 薬物療法: 消炎鎮痛剤(NSAIDs、アセトアミノフェンなど:内服、外用)、関節内注射(ヒアルロン酸、ステロイドなど)。近年では、神経障害性疼痛治療薬が用いられることもあります。
  • 運動療法:
    • 筋力強化: 特に股関節外転筋(中殿筋など)、伸展筋(大殿筋など)、体幹筋群。等尺性運動から始め、徐々に等張性運動、抵抗運動へと進めます。
    • 関節可動域訓練: 疼痛のない範囲での自動・他動運動、ストレッチング。
    • 水中運動: 浮力により関節への負荷を軽減しながら運動が可能。
    • バランストレーニング: 立位・歩行時の安定性向上。
  • 物理療法: 温熱療法(ホットパック、超音波など)、寒冷療法(アイシング)、電気刺激療法(TENSなど)。
  • 装具療法: 杖(T字杖、ロフストランドクラッチなど)の使用による免荷、足底挿板によるアライメント調整。
  • 生活指導・患者教育:
    • 体重コントロール: 肥満は股関節への負荷を増大させるため、適切な体重管理を指導。
    • 動作指導: 股関節に負担の少ない動作方法(例:床からの立ち上がり、和式トイレの使用回避、重いものを持つ際の注意点など)の指導。
    • 活動量の調整: 過度な安静は筋力低下や関節拘縮を招くため、痛みの程度に応じて適度な活動を推奨。
    • セルフマネジメント: 疾患の理解、自己効力感の向上、疼痛対処法の習得などを支援。

2.2. 手術療法

保存療法で十分な効果が得られない場合や、関節破壊が進行し日常生活に著しい支障をきたしている場合に検討されます。手術の種類は、病期や患者さんの年齢、活動性、骨の状態によって異なります。

進行時期主な手術療法説明理学療法士が知っておくべきこと
前・初期臼蓋形成術(棚形成術など)骨盤の骨(腸骨など)を臼蓋辺縁に移植し、大腿骨頭の被覆を改善する。比較的若年者で臼蓋形成不全が主な原因の場合に選択されることが多い。術後は移植骨の安定性を考慮した荷重・可動域管理が必要。
大腿骨内反骨切り術大腿骨転子部で骨を楔状に切り、大腿骨頭を内反させることで臼蓋との適合性を改善し、荷重面積を変化させる。骨頭の軟骨が比較的保たれている場合に適応。骨癒合までの期間は免荷または部分荷重となることが多い。
寛骨臼回転骨切り術 (RAO: Rotational Acetabular Osteotomy)寛骨臼を球状に骨切りし、臼蓋を回転させて大腿骨頭の被覆を改善する。臼蓋形成不全が著明な若年~中年層が主な対象。広範囲な骨切りを行うため、術後のリハビリは慎重に進める必要がある。
Chiari骨盤骨切り術 (キアリー骨盤骨切り術)腸骨を臼蓋の上方で骨切りし、骨盤を内方へ移動させることで臼蓋の屋根を形成する。RAOと同様に臼蓋形成不全が対象だが、より重度な場合やRAOが困難な場合に選択されることがある。
進行期寛骨臼回転骨切り術 (RAO)(同上)(同上)
Chiari骨盤骨切り術(同上)(同上)
大腿骨外反骨切り術大腿骨転子部で骨を楔状に切り、大腿骨頭を外反させることで関節の適合性を変化させる。内反骨切り術と同様に関節の荷重部位を変える目的だが、適応は限られる。
関節鏡視下手術(デブリドマン、滑膜切除など)関節鏡を用いて関節内の遊離体除去、損傷した関節唇や軟骨の処置、炎症を起こした滑膜の切除などを行う。主に疼痛軽減や関節内環境の改善が目的。根本的な関節変形の改善ではないため、効果は一時的な場合もある。侵襲は比較的少ない。
末期関節鏡視下手術(デブリドマンなど)(同上)(同上) 進行度によっては適応外となることも。
人工股関節全置換術 (THA: Total Hip Arthroplasty)損傷した大腿骨頭と臼蓋の両方を人工のインプラントに置き換える。変形性股関節症の末期における最も一般的な手術。術後の疼痛軽減効果が高く、早期からのADL改善が期待できる。脱臼予防のための禁忌肢位の指導や、筋力回復が重要。インプラントの種類や手術アプローチによってリハビリの注意点が異なる場合がある。
関節固定術股関節を動かないように固定する手術。現在では適応は非常に限られ、重労働を行う若年男性で、THAが困難な場合などに稀に選択されることがある。隣接関節(腰椎、膝)への負担増大が懸念される。

理学療法士は、担当する患者さんがどの病期にあり、どのような治療(特に手術療法)を受けたのか、あるいはこれから受けるのかを正確に把握し、それぞれの治療法の特徴や術後の注意点を理解した上でリハビリテーション計画を立案・実行する必要があります。

3. 変形性股関節症患者のリハビリテーションの実際:2つのケースから考える

実際に理学療法士が関わるケースとして、大きく分けて以下の2つのパターンが考えられます。

ケース1:疼痛とともに長く生活 → 疼痛増悪 → 受診 → 保存療法で通院リハビリ開始

  • 理学療法の対応とポイント:
    • 画像所見と症状の照合: まずは医師の診断と画像所見(X線、MRIなど)を確認し、現在の疼痛や機能障害がどの程度関節変形と関連しているのか、あるいは他の要因(筋・筋膜性疼痛、神経症状など)が関与していないかを評価します。
    • 手術適応の可能性の念頭: 保存療法が第一選択であっても、症状の進行や患者さんの希望によっては将来的に手術療法へ移行する可能性も視野に入れ、医師と連携を取りながら進めます。
    • 疼痛管理と機能改善:
      • 疼痛の原因分析(動作分析、アライメント評価、筋機能評価など)に基づき、運動療法(筋力強化、ストレッチ、バランストレーニングなど)、物理療法、徒手療法などを組み合わせます。
      • 股関節周囲だけでなく、体幹や膝関節、足部など、隣接関節との関連性も考慮します。
    • セルフエクササイズ指導と生活指導: 患者さん自身が痛みをコントロールし、良好な状態を維持できるよう、自宅でできる運動や日常生活での注意点(体重管理、負担の少ない動作方法など)を具体的に指導します。
    • 目標設定: 患者さんと共に、現実的で具体的な目標(例:〇〇まで痛みが軽減する、杖なしで△分歩けるようになる)を設定し、モチベーションを維持しながらリハビリを進めます。最終的には外来リハビリテーションからの卒業を目指します。

ケース2:術後急性期病院から回復期病院へ転院 → 入院リハビリ開始

  • 理学療法の対応とポイント:
    • 早期退院を視野に入れた計画: THAなどの術後リハビリテーションは、クリニカルパスが整備され、比較的短期間で退院可能となるケースが増えています。入院初期から退院後の生活を見据えた目標設定とプログラム立案が重要です。
    • 術式・医師の指示の確認: どのような手術が行われたのか(例:THAかBHAか、アプローチ方法、使用インプラントなど)、術後の禁忌事項や注意点、荷重開始時期などを医師に確認し、リハビリ計画に反映させます。「なぜ医師はこの手術を選択したのか?」という背景を理解することも、より深い考察に繋がります。
    • リスク管理と合併症予防: 術後早期は、脱臼、感染、深部静脈血栓症などのリスクがあるため、バイタルサインの確認、創部の状態観察、適切な体位管理、離床の促しなどを慎重に行います。
    • 疼痛コントロールとADL自立支援: 疼痛を管理しながら、基本的なADL(寝返り、起き上がり、移乗、トイレ動作、更衣、整容など)の自立を目指します。
    • セルフケア・自主練習指導の徹底: 退院後も患者さんが安全かつ効果的にリハビリを継続できるよう、具体的な自主練習メニューの指導、正しいフォームの確認、生活指導(禁忌肢位の徹底、環境調整のアドバイスなど)を優先的に行います。
    • 歩行能力の再獲得と質の向上: 杖や歩行器を用いた安全な歩行練習から開始し、徐々に耐久性やバランス能力を高め、より自然で効率的な歩行パターンを目指します。疼痛が長期間あった患者さんでは、跛行が残存しやすいため、動作パターンの修正にも注意を払います。
    • 社会資源の活用支援: 必要に応じて、退院後の生活をサポートするための社会資源(介護保険サービス、福祉用具など)の情報提供や連携を行います。

4. 理学療法士が特に配慮すべきポイント:より質の高いケアのために

変形性股関節症の患者さんへのリハビリテーションにおいて、理学療法士が特に意識し、配慮すべき点を以下にまとめます。

  • 疼痛管理の徹底と個別化: 疼痛はQOLを著しく低下させ、リハビリテーションへの意欲も削ぎます。薬物療法との連携、物理療法、徒手療法、運動療法を組み合わせ、患者さん一人ひとりの痛みの性質や程度に合わせたアプローチが必要です。
  • 臼蓋形成不全の有無の確認と対応戦略: 日本人に多い臼蓋形成不全を合併している場合、関節の不安定性や特定の方向へのストレスに特に注意が必要です。運動療法の選択や負荷設定において、この点を十分に考慮し、関節保護を念頭に置いた指導を行います。
  • 心理社会的側面への深い理解と支援: 慢性の痛みや活動制限は、抑うつ、不安、恐怖回避思考、社会的孤立などを引き起こすことがあります。患者さんの心理状態にも配慮し、共感的なコミュニケーションを心がけ、必要に応じて臨床心理士や精神科医との連携も検討します。
  • 患者中心の目標設定と共同意思決定 (Shared Decision Making): 患者さんの価値観、希望、ライフスタイルを尊重し、理学療法士と患者さんが共に治療目標を設定し、治療計画について十分に話し合い、納得の上で進めていくことが、治療効果とアドヒアランス(治療継続の意思)を高めます。
  • 生活指導の個別化と具体性: 患者さんの生活環境(住居形態、家族構成など)、職業、趣味などを具体的に把握し、それぞれに合わせた無理のない動作指導(例:和式生活への対応、趣味活動の再開に向けた工夫)や環境調整のアドバイスを行います。
  • 長期的な視点での関わりとセルフマネジメント能力の育成: 変形性股関節症は進行性の疾患であり、手術を受けたとしても、その後のメンテナンスや再発予防、反対側への影響の考慮が重要です。長期的な視点で患者さんをサポートし、自己管理能力(セルフエクササイズの継続、体重管理、活動量の調整など)を高める支援が求められます。
  • 多職種連携によるチームアプローチ: 医師、看護師、作業療法士、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカーなど、多職種と密に情報共有し、連携することで、患者さんに対して包括的で質の高いケアを提供できます。

まとめ:知識と技術を駆使し、患者さんの「より良い生活」に貢献する

変形性股関節症は、患者さんの生活の質に大きな影響を与える疾患です。理学療法士は、正確な評価に基づき、保存療法から手術療法、そして術後のリハビリテーションに至るまで、患者さんの状態やニーズに合わせた適切な介入を行うことが求められます。

私自身、2018年当時はまだ経験が浅いと感じていましたが、その後も学びを続け、多くの患者さんと関わる中で、知識と経験を結びつけることの重要性を日々実感しています。この記事で整理したような知識を常にアップデートし、臨床での経験と照らし合わせながら、担当する患者さん一人ひとりに対して、より質の高い理学療法を提供できるよう努めていきたいと考えています。また、他のスタッフと情報を共有し、チームとして患者さんをサポートしていく体制づくりも、質の高い医療を提供する上で不可欠です。

この記事が、変形性股関節症の患者さんに関わる理学療法士の皆さんにとって、少しでも日々の臨床のヒントとなり、患者さんの「より良い生活」への貢献に繋がることを願っています

変形性股関節症の評価・治療・リハビリ完全ガイド:理学療法士が押さえるべき全知識

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