皆さん、こんにちは!理学療法士のPTケイです。
うつ病は、現代社会において深刻な問題となっており、多くの方がその症状に苦しんでいます。従来の治療法としては、薬物療法や心理療法が一般的ですが、副作用や効果の個人差など、課題も少なくありません。
今回は、そんなうつ病の新たな治療法として注目されている「MAPトレーニング」について、研究結果を交えながら詳しく解説していきます!
「MAPトレーニング」って何?
MAPトレーニングとは、Mental and Physical Trainingの略で、日本語にすると「精神と肉体のトレーニング」という意味です。

具体的には、
- 瞑想(Mental Training):
- 20分間の「集中注意瞑想」
- 10分間の「歩行瞑想」
- 有酸素運動(Physical Training):
- 30分間の中強度の有酸素運動(トレッドミルまたはサイクルエルゴメーターを使用)
この2つを組み合わせた、新しいタイプのトレーニングプログラムです。
なぜ「瞑想」と「有酸素運動」なの?
MAPトレーニングが、なぜこの2つの要素を組み合わせているのか、疑問に思う方もいるかもしれません。
実は、これまでの研究で、
- 有酸素運動:脳の神経可塑性を高める効果がある
- 神経可塑性:神経細胞が新しく生まれたり(神経新生)、神経細胞同士のつながりが変化したりする、脳の柔軟性や適応力のこと。
- 瞑想:注意力を高め、ストレスを軽減し、心の状態を安定させる効果がある
ということがわかっています。
つまり、MAPトレーニングは、脳と心の両方に働きかけることで、うつ病の症状を改善しようという、画期的なアプローチなのです!しかも、相乗効果がある可能性が期待されています。
えっ、本当に効果があるの? 研究結果をチェック!
2016年に発表された研究では、MAPトレーニングの効果を検証するため、
- うつ病と診断された患者さん(22人)
- 健康な成人(30人)
の合計52人を対象に、8週間のMAPトレーニングプログラム(週2回)を実施しました。
その結果、
- うつ病の症状が大幅に改善!(特に、うつ病患者さんで効果が顕著)
- 過去の嫌なことや心配事を繰り返し考えてしまう「反芻思考」が減少!
- 集中力や注意力など、脳の「認知機能」が向上!(特に、相反する情報から正しい情報を選び取る能力が向上)
- 認知機能:ここでは、注意を向けたり、計画を立てたり、問題を解決したりする、脳の働きのこと。
- 脳波の測定では、特にN2成分とP3成分という、認知機能に関わる部分に変化が見られました。
- N2成分:葛藤を検知したり、反応を抑制したりする働きに関係。
- P3成分:注意を向けたり、情報を更新したりする働きに関係。
という、驚くべき効果が確認されました。
MAPトレーニングは、なぜ効果があるの?
MAPトレーニングが、なぜうつ病の症状を改善するのか、そのメカニズムはまだ完全には解明されていません。

しかし、研究グループは、
- 海馬の神経新生促進: 有酸素運動によって、脳の海馬で新しい神経細胞が生まれる(神経新生)ことが、うつ病の改善に関わっている可能性がある。
- 海馬:記憶や学習、感情などに関わる脳の部位。
- BDNF(脳由来神経栄養因子):神経細胞の成長や生存を助ける、脳内で作られるタンパク質。運動によって増えることが知られています。
- 認知制御機能の強化: 瞑想によって注意力が鍛えられ、反芻思考を抑制しやすくなることで、認知機能が改善する可能性がある。
- HPA軸(視床下部-下垂体-副腎皮質系):ストレス反応に関わる体のシステム。運動によって、このシステムの働きが整えられると考えられています。
と考えています。
今日からできる!MAPトレーニングのエッセンスを取り入れよう!
MAPトレーニングは、専門的な施設や器具が必要となるため、すぐに実践するのは難しいかもしれません。
しかし、そのエッセンスを日常生活に取り入れることは可能です!
今回は、MAPトレーニングの重要な要素である「集中注意瞑想(FA瞑想)」と「歩行瞑想」のやり方をご紹介します。
【FA瞑想のやり方】
- 静かな場所で、楽な姿勢で座る:
- あぐらをかいたり、椅子に座ったり、自分がリラックスできる姿勢でOKです。
- 背筋は伸ばし、目は軽く閉じるか、半眼にします。
- 呼吸に意識を集中する:
- 鼻から息を吸って、口からゆっくりと吐き出す、自然な呼吸を意識します。
- 呼吸の感覚(空気の流れ、お腹や胸の動きなど)に注意を向けます。
- 雑念が浮かんできたら、そっと呼吸に意識を戻す:
- 考え事や感情が浮かんできても、無理に打ち消そうとせず、「雑念が浮かんだな」と気づき、再び呼吸に意識を戻します。
- これを繰り返すことで、注意力を鍛え、集中力を高めることができます。
【歩行瞑想のやり方】
- ゆっくりと歩きながら、足の裏の感覚に意識を集中する:
- かかと、足の裏全体、つま先…と、足の裏が地面に触れる感覚を丁寧に感じ取ります。
- 歩くスピードは、普段よりもゆっくりと、一歩一歩を意識しながら歩きます。
- 呼吸と歩行を合わせる:
- 息を吸いながら一歩、吐きながら一歩…と、呼吸のリズムに合わせて歩きます。
【ポイント】
- 最初は5分程度の短い時間から始め、徐々に時間を延ばしていきましょう。
- 毎日続けることが大切です。
- 瞑想中に雑念が浮かんできても、自分を責めないでください。誰でも最初は雑念が浮かぶものです。大切なのは、雑念に気づき、そっと意識を呼吸に戻すことです。
まとめ:MAPトレーニングで、心と体の健康を取り戻そう!
MAPトレーニングは、うつ病の新たな治療法として、大きな可能性を秘めています。
「最近、気分が落ち込みやすい…」
「運動不足が気になる…」
「集中力が続かない…」
そんな方は、ぜひMAPトレーニングのエッセンスを日常生活に取り入れて、心と体の健康を取り戻しましょう!
参考文献
Alderman BL, Olson RL, Brush CJ, Shors TJ. MAP training: combining meditation and aerobic exercise reduces depression and rumination while enhancing synchronized brain activity. Transl Psychiatry. 2016 Feb 2;6(2):e726. doi: 10.1038/tp.2015.225. PMID: 26836414; PMCID: PMC4872427.
健康・医学関連情報の注意喚起:
本記事は、うつ病とMAPトレーニングに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。 うつ病の診断や治療については、必ず医療従事者にご相談ください。