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【2024年版】股関節X線読影の要点:臼蓋形成不全の指標と画像解釈のアップデート

【2024年版】股関節X線読影の要点:臼蓋形成不全の指標と画像解釈のアップデート
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股関節疾患の評価において、単純X線(レントゲン)写真は依然として非常に重要な情報源です。特に臼蓋形成不全(寛骨臼形成不全)の評価や、変形性股関節症の進行度把握、さらには治療方針の決定において、適切な画像読影スキルは不可欠です。

この記事では、2017年にまとめた内容を基に、臼蓋形成不全の主要なX線指標や、撮影時の骨盤・股関節のアライメントが画像にどう影響するかについて、最新の知見(基本的な指標は不変ですが、臨床的な意義や解釈のポイントはより洗練されています)を交えながらアップデートし、解説します。

目次

臼蓋形成不全の主要なX線指標

臼蓋形成不全とは、大腿骨頭を覆う臼蓋(寛骨臼)の発育が不十分な状態を指します。これにより、骨頭の被覆が浅くなり、不安定性や将来的な変形性股関節症のリスクが高まります。その程度を評価するために、主に以下の指標が用いられます。

  1. CE角 (Center-Edge Angle)
    • 定義: 大腿骨頭中心を通る垂線と、大腿骨頭中心と臼蓋外側縁を結ぶ線とのなす角度。
    • 測定方法:
      1. 大腿骨頭の中心点を決定する。
      2. 中心点から垂直に上方に線を引く。
      3. 中心点から臼蓋の最も外側の縁(Sourcilの外側端)へ線を引く。
      4. 上記2本の線のなす角度を計測する。
    • 評価基準:
      • 正常: 25度以上(文献により30度以上とする場合もある)
      • 境界域 (Borderline): 20~25度
      • 形成不全 (Dysplasia): 20度未満
      • ※日本の基準(例:中村の基準)では20度以下を異常とする場合もありますが、国際的には25度をカットオフとすることが多いです。
    • 臨床的意義: 骨頭の上方への被覆度を示します。角度が小さいほど、骨頭の上方が十分に覆われていないことを意味し、不安定性や関節症進行のリスクが高まります。(例:CE角15度以下の症例では関節症変化が進行しやすいという報告があります。)
    • CE角の計測図の画像
    • yugami.com(図の説明:股関節X線写真上で、大腿骨頭中心から引いた垂線と臼蓋外側縁への線の間の角度がCE角として示されている)
  2. Sharp角 (Sharp’s Angle)
    • 定義: 左右の涙痕(Teardrop)の下端を結ぶ水平線と、涙痕下端と臼蓋外側縁を結ぶ線とのなす角度。
    • 測定方法:
      1. 左右の涙痕の最も下方を結ぶ水平線を引く。
      2. 評価したい側の涙痕下端から臼蓋外側縁へ線を引く。
      3. 上記2本の線のなす角度を計測する。
    • 評価基準:
      • 正常: 42度以下(文献により39度や40度以下とする場合もある)
      • 形成不全の疑い: 43度以上
      • ※日本の基準(例:中村の基準)では45度以上を異常とする場合があります。
    • 臨床的意義: 臼蓋の全体的な傾斜(臼蓋がどれだけ”立っている”か)を示します。角度が大きいほど臼蓋が浅く、外上方へ傾いていることを意味し、骨頭の被覆が不十分であることを示唆します。
    • Sharp角の計測図の画像
    • ptexamsstudy.com(図の説明:股関節X線写真上で、両側の涙痕下端を結ぶ水平線と、片側の涙痕下端から臼蓋外側縁への線の間の角度がSharp角として示されている)

その他の指標: 上記以外にも、Acetabular Index (AI) / Tonnis Angle(臼蓋荷重部の傾斜角度、小児でよく用いられる)、VCA角 (Vertical-Center-Anterior angle)(前方被覆の評価)、AHA角 (Acetabular Head Index)(骨頭の内外方偏位)など、様々な指標が存在し、目的に応じて使い分けられます。

X線正面像における骨盤・股関節アライメントの評価

X線指標を正確に解釈するためには、撮影時の患者のポジショニングが適切であったか、あるいはどのようなアライメントで撮影されたかを把握することが極めて重要です。特に骨盤の傾きと股関節の回旋は、指標の測定値に影響を与えます。

1. 骨盤の前後傾の評価

骨盤の傾きは、CE角などの臼蓋被覆指標の見え方に影響します。

  • 評価のポイント(AP像):
    • 仙骨・尾骨と恥骨結合の位置関係: 恥骨結合上縁と仙骨先端(または尾骨先端)との距離を見ます。一般的に、この距離が3-5cm程度(男性で約3cm、女性で約5cm)であれば中間位に近いとされます。
      • 距離が短い場合 → 後傾(恥骨結合が上がってみえる)
      • 距離が長い場合 → 前傾(恥骨結合が下がってみえる)
    • 閉鎖孔の形状:
      • 後傾位: 閉鎖孔は円形に近く見える。
      • 前傾位: 閉鎖孔は縦に長く(楕円形に)見える。
    • 腸骨翼の形状:
      • 後傾位: 腸骨翼は広く見える。
      • 前傾位: 腸骨翼は狭く見える。
  • 臨床的意義: 骨盤が後傾すると、見かけ上の臼蓋前方被覆は増加し、上方被覆(CE角)は減少する傾向があります。逆に前傾すると、見かけ上の臼蓋前方被覆は減少し、上方被覆(CE角)は増加する傾向があります。したがって、指標を評価する際は骨盤傾斜を考慮する必要があります。

2. 股関節の内外旋の評価

股関節の回旋角度も、大腿骨頸部の見え方や小転子の形状に影響します。

  • 評価のポイント(AP像):
    • 小転子の見え方:
      • 外旋位: 小転子が明瞭に見える。
      • 内旋位: 小転子が見えにくい、または全く見えない。
    • 大腿骨頸部の形状:
      • 外旋位: 大腿骨頸部は短縮して見える(軸に対して斜めになるため)。
      • 内旋位: 大腿骨頸部は長く、明瞭に見える。
  • 標準的な撮影肢位: 通常、股関節のAP像は、下肢を15~20度程度内旋させて撮影します。これは、大腿骨頸部の前捻を補正し、頸部を真横から見た形(最も長く見える状態)で描出するためです。膝蓋骨が真上を向く肢位が目安とされます。
  • 臨床的意義:
    • 標準的な内旋位で撮影されていない場合(例:小転子がよく見える外旋位)、大腿骨頸部の評価が不正確になる可能性があります。
    • 患者が痛みなどで特定の肢位(例:外旋位)をとっている場合、それが画像に反映されている可能性があります。臨床所見との比較が重要です。

考察:画像と臨床情報の統合

X線画像から得られる情報は非常に多いですが、それだけで全てを判断するのは危険です。

  • 撮影条件の考慮: 患者の認知機能や協力度、疼痛などにより、理想的なポジショニングで撮影できない場合があります。「何かおかしい」と感じたら、撮影時の状況を確認することも重要です。不適切なポジショニングでの測定値は信頼性が低くなります。
  • 臨床情報との統合: 画像所見(臼蓋形成不全の程度、関節裂隙の狭小化、骨棘形成など)と、患者の年齢、性別、症状(疼痛部位、可動域制限)、身体所見、生活背景などを総合的に評価することが不可欠です。例えば、画像上は軽度の形成不全でも強い症状を訴える場合もあれば、高度な変形があっても症状が軽い場合もあります。
  • 姿勢・動作との関連: 画像から推測されるアライメント(例:骨盤後傾、股関節外旋)が、実際の立位姿勢や歩行時のアライメントと関連している可能性も考慮します。腰椎のアライメントも含めて全体像を捉える視点が役立ちます。

まとめ

股関節のX線読影においては、CE角やSharp角といった臼蓋形成不全の指標を正しく理解することに加え、撮影時の骨盤傾斜や股関節回旋といったアライメントを評価し、それらが指標にどう影響するかを考慮することが極めて重要です。

そして最も大切なのは、画像所見を単独で解釈するのではなく、患者の臨床情報と常に照らし合わせ、統合的に評価することです。これにより、より正確な病態把握と、適切な治療方針の立案に繋がります。

この記事が、日々の臨床におけるX線画像読影の一助となれば幸いです。(※本記事は教育的な目的で作成されており、実際の診断や治療は専門医の判断に従ってください。

【2024年版】股関節X線読影の要点:臼蓋形成不全の指標と画像解釈のアップデート

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