はじめに:「報連相しろ!」だけでは動かない部下 – コミュニケーションの壁、どう乗り越える?
「何度言っても、部下からなかなか報告・連絡・相談がない…」
「もっと風通しの良い職場にしたいけれど、どうすればいいのだろう…」
多くの管理職やリーダーが、部下とのコミュニケーション、特に「報連相(ほうれんそう)」の徹底に頭を悩ませているのではないでしょうか。
2019年当時、私もこの「報連相」のあり方について考え、それが形骸化している現状に問題意識を持っていました。
「報連相」は、かつて組織の潤滑油として重視されてきましたが、その言葉だけが先行し、「部下が上司に一方的に行うべきもの」という誤った認識が広まってしまっている側面もあります。
しかし、本来の「報連相」は、上司と部下の垣根なく、風通しの良い職場環境を作るための双方向のコミュニケーションを目指すものでした。
この記事では、2019年の私の考察を元に、なぜ従来の「報連相」だけではうまくいかないのか、そして部下の主体性を引き出し、より建設的なコミュニケーションを築くための新しいキーワード「お・ひ・た・し」について、2025年の視点から情報をアップデートし、その具体的な実践方法と効果を深掘りしていきます。
1. 「報連相」の理想と現実:なぜ「やれ」と言われるほど形骸化するのか?
報連相とは、ご存知の通り以下の頭文字を取ったものです。
- 報(ほう):報告 – 業務の進捗や結果、問題点などを上司に伝えること。
- 連(れん):連絡 – 関係者間で情報を共有し、意思疎通を図ること。
- 相(そう):相談 – 判断に迷うことや困っていることについて、上司や同僚にアドバイスを求めること。
これらは、組織で仕事を進める上で非常に重要な要素です。
しかし、なぜ「報連相を徹底しろ」と指導されるほど、現場では形骸化し、部下からの自発的な報連相が減ってしまうのでしょうか?
その背景には、以下のような要因が考えられます。
- 「やらされ感」の蔓延: 「報連相は部下の義務」という一方的な押し付けは、部下の主体性を奪い、「言われたからやる」という受け身の姿勢を生み出します。
- 心理的安全性の欠如: 報告や相談をした際に、上司から頭ごなしに否定されたり、叱責されたりする経験が重なると、部下は萎縮し、「報連相すると損をする」と感じてしまいます。
- 上司の「聞く姿勢」の不足: 上司が忙しそうにしていたり、部下の話に真剣に耳を傾けなかったりすると、部下は「話しても無駄だ」「迷惑かもしれない」と感じ、報連相をためらうようになります。
- 目的・意義の不明確さ: 何のために報連相をするのか、それが自分やチームにとってどのようなメリットがあるのかが理解できていないと、単なる「面倒な作業」と捉えられてしまいます。
つまり、「報連相」を部下だけの責任にするのではなく、まずは上司側が「報連相しやすい環境」を能動的に作り出す必要があるのです。
2. 報連相を活性化させる魔法の言葉:「お・ひ・た・し」とは?
そこで注目したいのが、近年、新しいコミュニケーションの指針として提唱されている「お・ひ・た・し」という考え方です。これは、上司が部下に対して心がけるべき4つの姿勢の頭文字を取ったものです。
- お:怒らない (Okoranai) 部下が報告や相談をしてきた際に、感情的に怒ったり、高圧的な態度を取ったりしない。
- ひ:否定しない (Hitei shinai) まずは部下の意見や考えを最後まで聞き、頭ごなしに否定したり、途中で遮ったりしない。
- た:助ける (Tasukeau) 部下が困っていることや、一人では解決できない問題に対して、適切なサポートやアドバイスを提供する。丸投げにしない。
- し:指示する (Shiji suru) / 承認する (Shounin suru) 必要な指示は明確に伝え、部下の良い行動や成果はきちんと承認し、褒める。(文脈によっては「指示する」の他に「承認する(認める)」と解釈されることもあります。)
この「お・ひ・た・し」を上司が意識して実践することで、部下は安心して報連相ができるようになり、結果として自発的な報告・連絡・相談が増えるという好循環が期待できます。
私自身も、この「お・ひ・た・し」を意識し始めてから、部下からのコミュニケーションが明らかに円滑になったという実感があります。
3. 「お・ひ・た・し」を実践する具体的なステップとポイント
では、具体的にどのように「お・ひ・た・し」を日々のコミュニケーションに取り入れていけば良いのでしょうか。
3.1. 「お:怒らない」 – 心理的安全性の土台を築く
- アンガーマネジメントの実践: 自分の感情を客観的に把握し、怒りの感情が湧き上がった時に、それをコントロールする方法を身につける。
- 「事実」と「解釈」を分ける: 部下の報告内容に対して、まずは客観的な事実を確認し、自分の主観的な解釈や憶測で判断しない。
- 失敗を成長の機会と捉える: ミスや失敗を頭ごなしに責めるのではなく、なぜそれが起きたのかを共に考え、再発防止策を検討する姿勢を示す。
NG例: 「なんでこんな簡単なこともできないんだ!」
OK例: 「この点については、もう少し慎重に進める必要があったかもしれないね。どうすれば次はうまくいくか、一緒に考えてみようか。」
3.2. 「ひ:否定しない」 – 相手の意見を尊重し、傾聴する
- アクティブリスニングの実践: 相手の話に真剣に耳を傾け、相槌を打ち、共感の姿勢を示す。
- まずは最後まで聞く: 途中で口を挟んだり、自分の意見を被せたりせず、相手が言いたいことを全て話し終えるまで待つ。
- 「Iメッセージ」で伝える: 自分の意見を言う際も、「あなたは間違っている」ではなく、「私はこう思うのだけど、あなたはどう考える?」といった形で、相手の意見を尊重しつつ伝える。
NG例: 「いや、それは違うと思うよ。普通はこうでしょ?」
OK例: 「なるほど、そういう考え方もあるんだね。ちなみに、私はこういう視点も持っているんだけど、それについてはどう思うかな?」
3.3. 「た:助ける」 – 必要なサポートを惜しまない
- 困っているサインを見逃さない: 部下の様子を日頃から観察し、困っている様子があれば積極的に声をかける。
- 具体的なサポートを提供する: 「何か手伝えることはある?」「この部分は一緒にやってみようか」など、具体的な支援を申し出る。
- 「教える」ことと「丸投げ」を区別する: 必要な知識やスキルは丁寧に教えつつ、部下自身が考え、行動する機会を奪わないようにバランスを取る。
NG例: 「それは君の仕事だから、自分で何とかして。」
OK例: 「その件で困っているようだね。具体的にどこでつまずいているか教えてくれる?一緒に解決策を探そう。」
3.4. 「し:指示する/承認する」 – 明確な方向性とポジティブなフィードバック
- 明確な指示: 曖昧な指示は混乱を招きます。5W1Hを意識し、具体的で分かりやすい指示を出す。期待する成果物や期限も明確に伝える。
- 成果や努力の承認: 部下の良い行動や成果、努力のプロセスを具体的に褒め、承認することで、モチベーションを高め、望ましい行動を強化します。「よく頑張ったね」「その視点は素晴らしい」など。
- 期待を伝える: 「君ならできると信じているよ」「この経験が次に繋がるはずだ」といった前向きな期待を伝えることで、部下の自己効力感を高めます。
NG例: (良い成果に対して)無反応、あるいは「もっとできたはずだ」とネガティブな指摘から入る。
OK例: 「〇〇の件、素晴らしい成果だね!特に△△の工夫が良かったと思う。君の努力のおかげだよ、ありがとう。」
4. 「報連相」と「お・ひ・た・し」の理想的な関係:上司が土壌を作り、部下が種をまく
「報連相」と「お・ひ・た・し」は、どちらか一方だけでは成り立ちません。
- 上司は「お・ひ・た・し」を実践し、部下が安心して報連相できる「心理的に安全な土壌」を作る。
- 部下は、その土壌の上で、自ら「報連相」という「成長の種」をまき、主体的に業務に取り組む。
この双方向の努力があってこそ、真に風通しの良い、生産性の高い職場環境が実現します。上司が部下に一方的に「報連相をしろ」と指示するのではなく、まずは上司自身が「お・ひ・た・し」の姿勢を率先して示すことが、コミュニケーション改善の最も重要な第一歩です。
部下側も、上司が「お・ひ・た・し」を実践してくれていると感じれば、より積極的に情報共有や相談をしやすくなるでしょう。報連相の重要性を理解し、タイミングや内容を工夫して行うことも大切です。
まとめ:「お・ひ・た・し」で育む、信頼と成長のコミュニケーション
「報連相」は、組織における情報共有と意思決定の基本ですが、その効果を最大限に引き出すためには、上司の「お・ひ・た・し」という姿勢が不可欠です。
- 怒らずに耳を傾け、
- 否定せずに受け止め、
- 必要な時には助け、
- 良い行動や成果はしっかりと指示・承認する。
このシンプルな4つの心構えを日々のコミュニケーションに取り入れることで、部下は安心して本音を話せるようになり、主体的に行動するようになります。
そしてそれは、個人の成長だけでなく、チーム全体のパフォーマンス向上、ひいては組織全体の活性化へと繋がっていくはずです。
2019年当時、私は「報連相」の形骸化に問題意識を持ち、「お・ひ・た・し」の重要性を感じていました。
その考えは今も変わりません。
ぜひ、皆さんの職場でも「お・ひ・た・し」を意識したコミュニケーションを実践し、より良いチームワークを築いていってください。