こんばんは。
今日も一日、近々開催予定の院内勉強会(疼痛テーマ)の準備に没頭していました。調べれば調べるほど、痛みの世界は奥が深いですね…。今回は、勉強会準備の中で特に「なるほど!」と思った、急性炎症時の痛みのメカニズムについて、特に「TRPV1(トリップブイワン)」という受容体に着目して、学んだことを整理してみたいと思います。
なぜ炎症部位は痛むのか?「炎症性スープ」と「感作」
捻挫や打撲など、急性のケガをした時、その部位がズキズキと痛んだり、少し触れただけでも激痛が走ったりしますよね。これは、炎症が起きている場所で何が起こっているかを知ると、少し理解が深まります。
- 炎症性スープの出現: 炎症が起きると、その部位には様々な炎症を引き起こす物質(ブラジキニン、プロスタグランジン、サイトカインなど)が集まってきます。これらが混ざり合った状態は、さながら「炎症性スープ」と呼ばれます。
- 侵害受容器の「感作」: この炎症性スープが、痛みを感じ取るセンサーである「侵害受容器」に作用すると、「感作(かんさ)」という現象が起こります。感作とは、簡単に言うと、侵害受容器が通常よりも敏感になり、わずかな刺激でも痛み信号を発生しやすくなる状態のことです。閾値(いきち:反応を起こす最低ラインの刺激強さ)が低下する、とも言えます。
- pHの低下(酸性化): さらに、炎症部位では多くの組織で水素イオン(H+)が放出され、局所的にpHが低下(酸性に傾く)します。通常、私たちの体はpH7.4程度の中性に保たれていますが、炎症部位では酸性状態(アシドーシス)になるのです。このpHの低下自体も、侵害受容器を刺激し、感作を引き起こす要因の一つとなります。
ここまでは、比較的よく知られている炎症と痛みの基本的なメカニズムかと思います。
痛みの新常識? 鍵を握る「TRPV1受容体」
今回、痛みの最新知見として特に興味深かったのが、「TRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid 1)」という受容体の役割です。
- TRPV1とは?:
- いわゆる「カプサイシン受容体」としても知られています。唐辛子の辛味成分であるカプサイシンに反応するセンサーです。
- 主に痛みを感じる神経線維(C線維など)に存在し、通常は43℃以上の高温や、酸(pH低下)によって活性化され、痛みや熱さの感覚を引き起こします。
ここまでは、「ふむふむ、熱さや辛さ、酸っぱさ(酸)で痛みを感じるセンサーなんだな」という理解でした。しかし、重要なのはここからです。
驚きの事実:炎症でTRPV1の「スイッチ」が入りやすくなる!
今回学んだ最も重要なポイントは、急性炎症が起こると、このTRPV1受容体の性質が劇的に変化するという点です。
なんと、炎症によって感作されたTRPV1は、活性化する温度の閾値が、通常の43℃以上から、35℃以下にまで低下するというのです!
これは何を意味するでしょうか?
私たちの平熱(通常36~37℃程度)でも、炎症部位にあるTRPV1受容体が活性化してしまうということです!
つまり、急性炎症時のズキズキとした痛みや熱感の一部は、炎症によって過敏になったTRPV1受容体が、自分自身の体温によって刺激され、痛み信号を脳に送り続けていることによって引き起こされている可能性がある、というわけです。これは、痛みのメカニズムを理解する上で、非常に大きな発見だと感じました。
臨床への応用:アイシングの効果を再考する
このTRPV1のメカニズムを知ると、私たちが急性炎症に対してよく行うアイシング(寒冷療法)の効果についても、新たな視点が得られます。
アイシングが痛みを和らげる理由の一つとして、局所の温度を低下させることで、過敏になったTRPV1受容体の活性化を直接的に抑えるという効果が期待できるわけです。もちろん、アイシングには血管収縮による腫れの抑制や、神経伝導速度の低下といった他の効果もありますが、TRPV1への作用という観点からも、その有効性を説明できるというのは非常に興味深いですね。
まとめ:痛みの理解は、より良いケアへの第一歩
今回は、急性炎症時の痛み、特にTRPV1受容体の役割について、勉強会準備を通して学んだことを整理してみました。
- 炎症部位では「炎症性スープ」と「pH低下」により侵害受容器が感作される。
- TRPV1受容体は通常高温や酸で活性化するが、炎症時には活性化閾値が体温以下にまで低下する。
- その結果、体温自体がTRPV1を刺激し、痛みや熱感を引き起こす一因となる。
- アイシングは、局所温度を下げてTRPV1の活性化を抑える効果も期待できる。
痛みのメカニズムは本当に複雑で、まだまだ解明されていないことも多いですが、こうして新しい知見を学び、理解を深めていくことは、患者さんへのより良いアプローチや説明に繋がるはずです。
引き続き、勉強会本番に向けて、疼痛に関する知識を深めていきたいと思います。
それでは、今日はこの辺で。シャワーを浴びて、しっかり睡眠をとって明日に備えましょう!おやすみなさい。