ストレスを感じた時、あなたはどう対処しますか?
- 「問題を解決するために、とことん考える!」
- 「気晴らしに好きなことをする!」
- 「誰かに話を聞いてもらう!」
- 「ひたすら寝る…」
人によって、ストレスへの向き合い方は様々ですよね。
- 「自分のやり方は、これで合っているのかな?」
- 「もっと良い方法はないのかな?」
そう考えたことはありませんか?
実は、私たちのストレス対処法(コーピング)は、もっと多様で、奥が深いんです!
今回は、そんなストレス対処法の全体像を理解するための新しい考え方、「コーピングサーカムプレックスモデル(CCM)」をご紹介します。
研究紹介

2019年、ポーランドのクシシュトフ・スタニスワフスキー氏は、ストレス対処の構造を統合するモデルとして、コーピングサーカムプレックスモデル(CCM)を提案する理論的論文を発表しました。このモデルは、問題対処と感情対処の2つの次元を基盤とし、8つのコーピングスタイルを含む円環状のモデルで、既存のコーピング研究の問題点を克服し、より包括的な理解を促す可能性を示唆しています。
- 理論的論文:新しい考え方やモデルを提案する論文のこと。
- コーピング:ストレスに対処するための考え方や行動のこと。
なぜ新しい「地図」が必要なの?~従来のコーピング研究の課題~
これまで、ストレス対処法については、様々な分類が提案されてきました。
有名なのは、「問題焦点型(問題解決を目指す)」と「情動焦点型(感情を和らげる)」という分け方です。
しかし、これらの分類だけでは、私たちの多様な対処法を十分に説明しきれない、という課題がありました。
- 分類が多すぎて、研究者間でも意見が一致しない。
- 一つの対処法が、問題解決と感情調整の両方の機能を持つことがある。
- 「社会的支援を求める」などの重要な対処法が含まれていない場合がある。
- どの対処法が、どんな状況で有効なのか、明確な答えが出ていない。
そこで、これらの課題を解決するために提案されたのが、コーピングサーカムプレックスモデル(CCM)なのです。
CCMのキホン:「問題」と「感情」の2つの軸

CCMは、私たちがストレスに直面した時、大きく分けて2つの課題に取り組んでいる、という考えに基づいています。
- 問題対処: ストレスの原因となっている問題そのものに、どう向き合うか?
- 問題解決: 問題解決のために積極的に行動する。(プラス極)
- 問題回避: 問題から目をそらし、考えないようにする。(マイナス極)
- 感情対処: ストレスによって引き起こされる感情を、どう調整するか?
- ポジティブ感情対処: ユーモアを使ったり、前向きに考え直したりして、気持ちを落ち着ける。(プラス極)
- ネガティブ感情対処: イライラしたり、自分を責めたり、感情を表に出したりする。(マイナス極)
CCMでは、この「問題対処」と「感情対処」を、それぞれ縦軸と横軸にとった、円グラフのようなモデルを考えます。

あなたのタイプは?CCMが示す8つのストレス対処スタイル
この2つの軸によって作られる円の上には、8つの代表的なコーピングスタイルが配置されます。 それぞれのスタイルの特徴を、具体例を交えながら見ていきましょう。
- 効率 (P+E+): 問題解決にも、ポジティブな感情調整にも積極的。
- 特徴: ストレスを成長の機会と捉え、冷静に状況を分析し、前向きな解決策を見つけ出す。自分にも優しく、ユーモアも忘れない。
- 例: 「大変だけど、これを乗り越えれば成長できる!まずは計画を立てて、落ち着いて取り組もう。失敗しても大丈夫、次に活かせばいい!」
- 問題解決 (P+): 感情はさておき、とにかく問題解決に集中。
- 特徴: 状況を客観的に分析し、論理的に解決策を考え、実行に移す。
- 例: 「感情的になっている暇はない。まずは、問題の原因を特定して、具体的な対策を考えよう。」
- 問題への没頭 (P+E−): 問題解決を目指すが、ネガティブな感情にとらわれやすい。
- 特徴: 問題解決に積極的に取り組むが、不安や焦り、自己批判などのネガティブな感情も強い。完璧主義的な側面も。
- 例: 「なんとかしなきゃ!でも、失敗したらどうしよう…自分はダメかもしれない…でも、やるしかない!」
- ネガティブ感情対処 (E−): 問題解決よりも、ネガティブな感情の処理に焦点が当たる。
- 特徴: ストレスを感じると、イライラしたり、落ち込んだり、自分を責めたり、感情を爆発させたりする。
- 例: 「もう、なんでこんなことになるんだ!イライラする!」「全部私のせいだ…」
- 無力感 (P−E−): 問題からも、自分の感情からも目をそむけ、諦めモード。
- 特徴: 問題解決を諦め、自分には何もできないと感じ、否定的な考えや感情にとらわれる。
- 例: 「どうせ何をやっても無駄だ…」「もう、どうにでもなれ…」
- 問題回避 (P−): とにかく問題から逃げたい。
- 特徴: 問題について考えるのを避け、別のことをしたり、先延ばしにしたりする。
- 例: 「考えたくない…とりあえず、テレビでも見て忘れよう。」「明日やればいいか…」
- 快楽的離脱 (P−E+): 問題は無視して、楽しいことで気分転換。
- 特徴: 問題から目をそらし、趣味や遊び、買い物、飲食などで一時的な快楽を求める。
- 例: 「ストレス発散に、パーっと買い物しよう!」「美味しいものでも食べて、忘れちゃおう!」
- ポジティブ感情対処 (E+): 問題解決は後回しにして、まずは気持ちを落ち着ける。
- 特徴: ユーモアを使ったり、状況を前向きに捉え直したりして、気分をリフレッシュさせる。
- 例: 「まあ、なんとかなるでしょ!」「ちょっと冗談でも言って、笑い飛ばそう!」
CCMの活用法:自分を知り、状況に合わせた対処を
このCCMモデルは、私たちのストレス対処法を理解する上で、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。
- 多様性の理解: ストレス対処法は、単純な「良い/悪い」で分けられるものではなく、非常に多様であることを示しています。
- 自己理解: 自分がどのスタイルをよく使う傾向にあるのかを知ることで、自分の強みや弱みを客観的に把握できます。
- 状況に応じた使い分け: 「この状況では、どの対処スタイルが有効か?」を考えるヒントになります。例えば、コントロール可能な問題には「問題解決」や「効率」が有効かもしれませんが、コントロール不能な状況では「ポジティブ感情対処」や、時には「快楽的離脱」で気分転換することも大切かもしれません。
- 心理療法の理解: 認知療法や曝露療法といった心理療法が、なぜ効果があるのかを、CCMの枠組み(例:無力感から効率へのシフト)で説明することも可能です。
自分のストレス対処を見つめ直してみよう!

CCMは、あくまで理論的なモデルであり、実証的な検証はこれからです。 また、人が使う対処法は、これらの8つのスタイルにきれいに分類できるわけではなく、複数のスタイルを組み合わせたり、状況によって使い分けたりするのが普通です。
しかし、このモデルを知ることで、
- 自分がストレスを感じた時に、どんな考え方をし、どんな行動をとりがちなのか?
- その対処法は、問題解決に役立っているのか? 感情を調整するのに役立っているのか?
- 他に試せる対処法はないか?
といったことを、改めて見つめ直すきっかけになるのではないでしょうか。
まとめ
ストレス対処法に、唯一の「正解」はありません。 大切なのは、自分自身の傾向を理解し、状況に合わせて様々な対処法を柔軟に使いこなせるようになることです。
今回ご紹介した「コーピングサーカムプレックスモデル(CCM)」は、そのための「地図」のようなもの。 この地図を参考に、あなたらしいストレス対処法を見つけ、より健やかな毎日を送るためのヒントにしていただければ幸いです。
参考文献
- Stanisławski, K. (2019). The Coping Circumplex Model: An Integrative Model of the Structure of Coping With Stress. Frontiers in Psychology, 10, 1 694. 1. jurnal.unissula.ac.id jurnal.unissula.ac.id
健康・医学関連情報の注意喚起
本記事は、ストレス対処法に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の心理療法や医学的アドバイスを提供するものではありません。 ストレスによる心身の不調が続く場合は、必ず専門家(医師や臨床心理士など)にご相談ください。