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心臓の味方?ポリフェノールの循環器疾患への効果と基礎知識

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心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患(循環器疾患)は、依然として私たちの健康を脅かす大きな要因です。

医療は進歩していますが、日々の生活習慣、特に「食事」を見直すことが、これらの病気を予防する上で非常に重要であることは言うまでもありません。

近年、「体に良い」とされる成分の中でも、特に注目を集めているのが「ポリフェノール」です。果物や野菜、お茶、コーヒー、チョコレートなどに含まれるこの成分が、心血管疾患の予防に役立つのではないかと期待されています。

こんにちは!あなたの心と体の健康をサポートする理学療法士のPTケイです。

今回は、このポリフェノールについて、「そもそも何なの?」という基礎知識から、「循環器疾患に対して、現時点でどこまで効果が分かっているの?」という最新の知見まで、専門家による総説論文(多くの研究をまとめた報告書)を参考に、分かりやすく解説していきます。

目次

研究紹介:ポリフェノールと心血管疾患の最新レビュー

まずは、今回主に参考にする論文の概要です。

2025年2月号の日本循環器病予防学会誌に掲載された椎名一紀先生(東京医科大学)による総説「ポリフェノールと循環器疾患」では、ポリフェノール全般と循環器疾患およびその危険因子との関連について、これまでの臨床研究(人を対象とした研究)の結果がまとめられています。

ポリフェノールを多く含む食品が心血管保護作用を持つ可能性を示唆するエビデンスが蓄積されている一方で、摂取量の評価が難しいなどの課題もあり、効果の確証には更なる研究が必要であると述べられています。

この総説は、ポリフェノールと心血管疾患に関する現在の科学的な理解度を知る上で、とても参考になる内容です。

そもそもポリフェノールって何? 身近な食品にも!

「ポリフェノール」という言葉はよく聞きますが、具体的にどんなものなのでしょうか?

ポリフェノールとは、植物が自分自身を守るためなどに作り出す化学物質(二次代謝物)の一種で、分子の中に「フェノール性水酸基」という構造を複数持っている化合物の総称です。その種類は非常に多く、自然界には8,000種類以上も存在すると言われています。

これらは植物の色素や苦味、渋みなどの成分として、私たちが普段口にする多くの植物性食品に含まれています。 構造によって様々なグループに分けられますが、代表的なものとしては、

  • フラボノイド: ポリフェノールの中で最も種類が多いグループ。
    • カテキン類(緑茶、紅茶など)
    • アントシアニン類(ブルーベリー、ナス、赤ワインなど)
    • ケルセチン(玉ねぎ、りんごなど)
    • イソフラボン(大豆など)
  • フェノール酸類:
    • クロロゲン酸類(コーヒーなど)
    • フェルラ酸(米など)
  • その他のポリフェノール:
    • レスベラトロール(ブドウの皮、赤ワインなど)
    • リグナン類(ゴマなど)
    • クルクミン(ウコンなど)
    • タンニン類(お茶、ワイン、柿など)

などがあります。論文に掲載されている図(図1-1, 1-2を基に作成)を見ると、含有量の多い食品・飲料が分かりますね。

【主な食品・飲料のポリフェノール含有量目安】

飲料 (mg/100mL)食品 (mg/100g)
赤ワイン: 約230高カカオチョコ: 約7800
コーヒー: 約200こしょう: 約730
緑茶: 約115大豆: 約1540
紅茶: 約96みかん: 約55
野菜ジュース: 約69ごぼう: 約49
ココア: 約62ほうれん草: 約42
ウーロン茶: 約39ブロッコリー: 約35
豆乳: 約36バナナ: 約19
フルーツジュース: 約34たまねぎ: 約16

※数値は文献2より引用。測定法や品種等により変動します。特に高カカオチョコレートの含有量は際立っていますね!

なぜ注目される? ポリフェノールの心血管保護作用メカニズム

ポリフェノールが心血管疾患予防に期待されるのは、その多様な生理活性によります。総説論文では、主に以下のような作用機序が紹介されています。

  1. 抗酸化作用: 体内の活性酸素を除去したり、LDL(悪玉)コレステロールの酸化を防いだりする働き。これはポリフェノールの基本的な性質です。
  2. 抗炎症作用: 血管などで起こる慢性的な炎症を抑える働き。
  3. 血管拡張作用: 血管内皮細胞に働きかけ、血管を広げる一酸化窒素(NO)の産生を高めるなどして、血流を改善し血圧を下げる可能性。
  4. 抗血栓作用: 血液が固まりすぎるのを防ぐ働き。
  5. 脂質・糖代謝改善作用: コレステロール値や血糖値のコントロールを助ける可能性。

これらの作用が複合的に働くことで、血圧の低下、脂質異常症の改善、血糖コントロールの改善などにつながり、最終的に心血管疾患のリスクを低減するのではないかと考えられています。

ただし、近年では「ポリフェノール=抗酸化作用」という単純な図式だけでは説明できないことも分かってきました。ポリフェノールは体内に吸収されにくく、吸収されてもすぐに代謝されてしまうため、体内で直接的な抗酸化剤として働く効果は限定的ではないか、という指摘もあります。

むしろ、腸内細菌によって代謝されてできる様々な「代謝産物」が重要な働きをしている可能性や、ポリフェノールが細胞内の特定の「標的分子」に作用することで効果を発揮する可能性などが、最近の研究では注目されています。

具体的に何を食べれば? カカオ・コーヒー・緑茶などの研究

では、具体的にどのような食品・飲料に含まれるポリフェノールに、心血管疾患予防のエビデンスがあるのでしょうか? 総説では、特に以下のものについて多くの研究が紹介されています。

  • カカオ(チョコレート):
    • カカオに豊富なポリフェノール(フラバノール)には、血圧を下げる効果が多くの研究で示唆されています。特にダークチョコレートを用いた研究で、軽度ですが有意な血圧低下が報告されています。
    • LDLコレステロールを下げる効果も、特に閉経後の女性で見られたという日本の研究があります。
    • 心血管イベント抑制については、オランダの高齢男性を対象とした研究で、カカオ摂取量が多いほど心血管死亡リスクが低いという結果や、アメリカの大規模臨床試験(COSMOS研究)で、カカオフラバノールサプリメント摂取により心血管死が27%減少したという注目すべき結果が報告されています。
    • 日本の研究でも、チョコレート摂取が多い女性で脳卒中リスクが低下したという報告があります。
  • コーヒー:
    • コーヒーにはクロロゲン酸類などのポリフェノールが豊富です。
    • 多くの疫学研究で、コーヒー摂取が2型糖尿病の発症リスクを下げる可能性が示されています。これが心血管保護効果の一部に関与しているかもしれません。
    • かつては心血管リスク因子と見なされた時期もありましたが、近年の大規模な疫学研究(日本を含む)では、1日3~4杯程度のコーヒー摂取が、総死亡、心臓病死、脳卒中死のリスク低下と関連する可能性が示唆されています。
    • ただし、カフェインによる短期的な血圧上昇作用はあるため、高血圧との長期的な関連はまだ不明確な点もあります。
  • 緑茶:
    • 緑茶に含まれるカテキン類、特にEGCGは強い生理活性を持つとされます。
    • 日本の大規模コホート研究(JPHC研究など)では、緑茶をよく飲む人ほど、総死亡、心血管疾患死、脳卒中死のリスクが低いという関連が報告されています(ただし冠動脈疾患では有意な関連が見られない場合も)。
    • メカニズムとして、血圧、体脂肪、脂質、血糖への良い影響が考えられていますが、結果が一致しない研究もあり、更なる検証が必要です。
  • ワイン:
    • 赤ワインと心血管疾患リスク低下の関連(フレンチパラドックス)は有名ですが、その効果がワインに含まれるポリフェノール(レスベラトロールなど)によるものなのか、アルコール自体の効果(HDLコレステロール上昇など)なのかは、まだ結論が出ていません。
    • 現在の日本のガイドラインでは、特定の酒類を推奨するのではなく、アルコール全体の摂取量を適量(1日25g以下)に抑えることが推奨されています。

ポリフェノール摂取量と健康:分かってきたこと・今後の課題

個別の食品だけでなく、「総ポリフェノール摂取量」と健康の関係も研究されています。

  • 日本人の場合、ポリフェノールの主な摂取源はコーヒーと緑茶で、飲料から約8割を摂取しているという調査結果があります。
  • 岐阜県高山市での大規模コホート研究(高山スタディ)では、総ポリフェノール摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて、総死亡リスクと心血管疾患死亡リスク(特に脳卒中)が有意に低いという結果でした。

これらの結果は、ポリフェノール摂取の重要性を示唆する一方で、いくつかの課題も残されています。

  • 摂取量の推定が難しい: 食品中のポリフェノール量は非常に多様で、調理法によっても変化します。食事調査から正確な摂取量を推定するのは難しく、これが研究結果のばらつきの一因となっています。より客観的な測定法(血液や尿中のマーカーなど)の開発が待たれます。
  • 観察研究の限界: 多くの研究は観察研究(特定の集団を追跡調査する研究)であり、「ポリフェノールを多く摂る人」は、他の健康的な生活習慣(野菜を多く食べる、運動するなど)も持っている可能性があり、ポリフェノールだけの純粋な効果を見ているとは限りません(交絡因子の影響)。因果関係を証明するには、質の高い介入試験が必要です。
  • どのポリフェノールが?どれくらい?: 8,000種類以上あるポリフェノールのうち、どの種類が、どれくらいの量で、どのように作用するのか、詳細はまだ不明な点が多いです。

そのため、現時点では「心血管疾患予防のために、特定のポリフェノールサプリメントを積極的に摂りましょう」と推奨できる段階にはありません。

まとめ

今回は、ポリフェノールと循環器疾患の関係について、最新の総説論文を基に解説しました。

  • ポリフェノールは、植物に含まれる多様な化合物で、抗酸化作用、抗炎症作用、血管保護作用など、心血管疾患予防に繋がる可能性のある様々な生理活性が報告されています。
  • カカオ、コーヒー、緑茶など、ポリフェノールを豊富に含む食品・飲料の摂取が、心血管リスクの低下と関連するというエビデンスが集まりつつあります。
  • しかし、ポリフェノール摂取量の正確な評価が難しいことや、観察研究が中心であることなどから、その効果やメカニズム、最適な摂取量については、まだ解明されていない点も多いのが現状です。
  • 特定の食品やサプリメントに偏るのではなく、果物、野菜、お茶類、コーヒー、カカオ製品など、ポリフェノールを豊富に含む多様な食品を、バランスの取れた食事の一部として取り入れることが、現時点では最も賢明なアプローチと言えるでしょう。

ポリフェノールの研究は日進月歩です。今後、より客観的な評価法や質の高い臨床試験が進むことで、心血管疾患予防におけるポリフェノールの役割がさらに明らかになることが期待されます。

参考文献

1.椎名一紀. ポリフェノールと循環器疾患. 日本循環器病予防学会誌. 2025;60(1):12-24. (受理日: 2024年9月19日)

2.Fukushima Y, Ohie T, Yonekawa Y, et al. Coffee and green tea as a large source of antioxidant polyphenols in the Japanese population. J Agric Food Chem 2009; 57: 1253-1259

健康・医学関連情報の注意喚起:

本記事は、ポリフェノールと循環器疾患に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の食品や成分の効果効能を保証したり、医学的アドバイスを提供するものではありません。 食事療法や健康上の問題については、必ず医療従事者にご相談ください。

心臓の味方?ポリフェノールの循環器疾患への効果と基礎知識

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