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COPDとフレイル:「呼吸筋の衰え」と「座りすぎ」リスクと対策

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「息切れしやすい」「疲れやすい」「だんだん動くのが億劫になってきた…」 もしあなたがCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と診断されているなら、このような悩みを抱えているかもしれません。COPDは、タバコ煙などを長年吸い込むことで肺に炎症が起き、呼吸がしにくくなる病気ですが、その影響は肺だけに留まりません。

近年、COPD患者さんの多くが経験する「フレイル」という状態が、生活の質(QOL)や寿命にも大きく関わることが分かってきました。そして、このフレイルの中でも特に注意したいのが、呼吸に必要な筋肉が衰える「呼吸サルコペニア」と、座っている時間が長くなる「セデンタリー行動」です。

こんにちは!あなたの心と体の健康をサポートする理学療法士のPTケイです。今回は、COPDとフレイル、特にこの2つの新しいキーワード「呼吸サルコペニア」「セデンタリー行動」に焦点を当て、その危険性と対策について、最新の専門家の報告(総説論文)を基に詳しく解説していきます。「健康日本21(第三次)」でもCOPDの死亡率減少が目標に掲げられており、フレイル対策はその鍵を握ると言えるでしょう。

研究紹介:慢性呼吸器疾患とフレイルの最新知見

まずは、今回主に参考にする論文の概要です。

2023年に植木純先生と野村菜摘先生(順天堂大学大学院)が発表した総説「慢性呼吸器疾患のフレイル」では、COPD患者におけるフレイルや呼吸サルコペニアの重要性、そして呼吸リハビリテーションやセルフマネジメント支援による対策について詳しく解説されています。(Jpn J Rehabil Med 2023;60:880-884)

この総説は、COPDとフレイルに関する最新の情報を網羅しており、私たちがこの問題を理解し、対策を考える上で非常に役立つものです。

COPDとフレイル:切っても切れない深刻な関係

COPDは、肺だけの病気ではなく、全身に炎症が広がり、栄養障害、骨粗鬆症、筋力低下、心臓病、糖尿病、不安・抑うつなど、様々な併存症を引き起こしやすい「全身性炎症性疾患」です。そして、これらの問題と深く関連してくるのが「フレイル」です。

フレイルとは、加齢や病気によって心身の活力が低下し、ストレスに対する回復力や抵抗力が弱くなった「虚弱な状態」を指します。具体的には、

  • 身体的フレイル: 体重減少、疲れやすさ、筋力低下、歩行速度の低下、活動量の低下など。
  • 精神・心理的フレイル: 気分の落ち込み、不安、認知機能の低下など。
  • 社会的フレイル: 人との交流が減る、閉じこもりがちになるなど。

COPD患者さんは、これらのフレイルを合併しやすく、その割合は研究によって幅がありますが、65歳未満の方も含めて一般的に見られると報告されています。入院患者さんや介護施設の入所者さんではさらにその割合が高まります。

フレイルを合併したCOPD患者さんの特徴として、

  • 呼吸困難が出現しやすい
  • 肺の機能(気流閉塞)がより高度に低下している傾向がある
  • 病状が急に悪化する「増悪」を繰り返し起こしやすい
  • 入院しても、退院後に再び入院するリスクが高い
  • 死亡リスクが高い などが挙げられています。

つまり、COPDにおけるフレイルは、単なる「年のせい」ではなく、病気の進行や予後に直結する深刻な問題なのです。

注目トピック①:呼吸筋も衰える?「呼吸サルコペニア」とは

フレイルの中でも、特に身体的フレイルの中核となるのが「サルコペニア」、つまり筋肉量の減少と筋力低下です。COPD患者さんでは、足腰の筋肉(特に太ももの大腿四頭筋)が早期から弱りやすいことが知られていますが、最近では呼吸そのものに関わる筋肉の衰え、すなわち「呼吸サルコペニア」という概念が注目されています。

呼吸サルコペニアとは、文字通り、呼吸筋(呼吸をする時に使う筋肉:横隔膜、肋間筋、腹筋、首や背中の筋肉など)の筋力が低下し、筋肉量も減少してしまう状態を指します。

【呼吸サルコペニアの原因】

  • 加齢
  • 身体活動量の低下
  • 低栄養
  • COPDによる肺の過膨張(肺が膨らみすぎて横隔膜がうまく動けない)
  • 全身の慢性炎症による筋肉への悪影響
  • 薬剤の副作用(ステロイドなど) など、様々な要因が関与すると考えられています。

【呼吸サルコペニアの影響】

  • 最大吸気圧(MIP:息を吸い込む力)や最大呼気圧(MEP:息を吐き出す力)の低下
  • 呼吸困難感の増強
  • COPD増悪リスクの増加
  • 運動できる能力(運動耐容能)の低下
  • 咳をする力の低下による痰の出しにくさ

このように、呼吸サルコペニアは呼吸機能の低下に直結し、日常生活の質を大きく損なうだけでなく、命に関わるCOPD増悪のリスクも高めてしまいます。早期に発見し、呼吸筋を含めた筋肉量を維持・向上させることが非常に重要です。

注目トピック②:危険な「座りすぎ」!セデンタリー行動のリスク

もう一つの重要なキーワードが「セデンタリー行動」です。これは、「座位(座っている)、リクライニング(もたれかかっている)、もしくは横になって過ごす、1.5 METs(メッツ)以下の低いエネルギー消費の覚醒時の行動」と定義されます。簡単に言えば、「座りっぱなし」「寝たきりに近い」生活のことです。

  • 用語解説:
    • METs (Metabolic Equivalents): 運動や身体活動の強度を示す単位。安静時を1METsとし、その何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を表す。

COPD患者さんは、健康な人と比べて、

  • 歩行時間が短い
  • 歩行速度が遅い
  • 立っている時間が短い
  • 座っている時間や横になっている時間(セデンタリー行動)が長い という傾向があることが多くの研究で示されています。

そして、このセデンタリー行動の長さが、COPD患者さんの予後(病気の経過や寿命)と深く関連していることが分かってきました。ある研究では、1日のセデンタリー行動が8.5時間を超えると、死亡リスクが約4倍にも増加すると報告されています。

COPD患者さんがセデンタリー行動に陥りやすい理由としては、

  • 労作時の息切れ(体を動かすと息が苦しい)
  • 慢性的な疲労感
  • 筋力低下による運動意欲の低下
  • 不安や抑うつ気分 などが挙げられます。「動くと苦しいから、じっとしていよう」という悪循環が、セデンタリー行動を助長し、さらなる体力低下やフレイルの進行を招いてしまうのです。

フレイル・呼吸サルコペニア・座りすぎにどう立ち向かう?

では、これらの深刻な問題に対して、私たちは何ができるのでしょうか? 総説論文では、特に「呼吸リハビリテーション」と「セルフマネジメント支援」の重要性が強調されています。

1. 呼吸リハビリテーション:体と心を元気にする包括的アプローチ 呼吸リハビリテーションとは、呼吸器疾患を持つ患者さんが、可能な限り病気の進行を予防し、健康状態を回復・維持するために、医療者と協力しながら行う、個別化された包括的なプログラムです。

主な構成要素は、

  • 運動療法: COPD患者さんの状態に合わせた有酸素運動(歩行など)、筋力トレーニング(呼吸筋トレーニングも含む)、柔軟体操など。
  • 患者教育(セルフマネジメント教育): 病気や薬の知識、息切れの対処法、増悪の予防と早期対応、栄養管理などを学ぶ。
  • 栄養療法: 低栄養の改善、適切な体重管理、筋肉維持のための食事指導(分岐鎖アミノ酸やω3系脂肪酸などの活用も)。
  • 心理社会的サポート: 不安や抑うつへの対応、社会参加の促進など。

多くの研究で、呼吸リハビリテーションはCOPDのフレイル患者さんに対しても有効であることが示されています。

  • 息切れの軽減
  • 運動できる能力(運動耐容能)の向上
  • 身体活動量の増加
  • QOL(生活の質)の改善
  • 半数以上の方がフレイル状態から脱することができるという報告も!

フレイルがあると、途中でリハビリを中断してしまうリスクも高まりますが、プログラムをやり遂げることで大きな効果が期待できます。呼吸サルコペニアがある場合は、呼吸筋を鍛えるトレーニングも積極的に取り入れられます。

2. セルフマネジメント支援:自分で健康を管理する力を育む 呼吸リハビリテーションの効果を持続させ、生涯にわたってより良い状態を保つためには、患者さん自身が主体的に健康管理に取り組む「セルフマネジメント」が不可欠です。

そのための支援として、

  • 病気や治療、日常生活での注意点に関する正しい情報提供と教育
  • 患者さんの目標設定と行動計画作成のサポート
  • モチベーション維持のための声かけや励まし
  • 増悪時の対処法や緊急連絡体制の確認
  • ICT(情報通信技術)を活用した遠隔サポートや情報共有 など、多岐にわたる支援が重要になります。

セルフマネジメント教育を核とし、医療者、患者さん、家族がチームとなって、継続的に健康維持・増進や増悪予防に取り組む体制を作ることが、COPDとフレイルに立ち向かうための鍵となるでしょう。

まとめ

今回は、COPDとフレイル、特に「呼吸サルコペニア」と「セデンタリー行動」という2つの重要な問題点と、その対策について解説しました。

  • COPD患者さんにとって、フレイル(特に呼吸サルコペニアとセデンタリー行動)は、予後を大きく左右する深刻な併存状態です。
  • しかし、これらの問題は、早期に発見し、呼吸リハビリテーションやセルフマネジメント支援といった包括的なアプローチを行うことで、改善・予防が期待できます。
  • 呼吸筋を含めた筋力の維持・向上、そして「座りすぎ」を減らし、少しでも活動的な生活を送ることが、COPDとフレイルに負けないための大切な一歩です。

息切れや体力の低下を感じているCOPD患者さんは、決して諦めずに、まずは主治医の先生や理学療法士などの専門家に相談してみてください。あなたに合った対策がきっと見つかるはずです。


参考文献:

植木純, 野村菜摘. 慢性呼吸器疾患のフレイル. Jpn J Rehabil Med. 2023;60:880-884.


健康・医学関連情報の注意喚起:

本記事は、COPDとフレイルに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。 COPDやその他の疾患の診断や治療、リハビリテーションについては、必ず医療従事者にご相談ください。

COPDとフレイル:「呼吸筋の衰え」と「座りすぎ」リスクと対策

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