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筋肉の衰えに「待った!」サルコペニア・フレイルと食事の最新知識

筋肉の衰えに「待った!」サルコペニア・フレイルと食事の最新知識
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「最近、なんだか力が弱くなった気がする…」 「以前より疲れやすくて、歩くのが少し遅くなったかも…」 「気づかないうちに体重が減っていた…」

年齢を重ねるにつれて、このような体の変化を感じることはありませんか? もしかしたら、それは「サルコペニア」や「フレイル」といった、筋肉や心身の活力が衰え始めているサインかもしれません。これらは健康寿命を縮める大きな要因となり、決して「年のせい」と片付けてはいけない重要な問題です。

しかし、悲観する必要はありません。これらの状態は、日々の「食事(栄養)」と「運動」を見直すことで、予防したり、進行を遅らせたり、改善したりできる可能性が示されています。

こんにちは!あなたの心と体の健康をサポートする理学療法士のPTケイです。今回は、このサルコペニアとフレイルに立ち向かうための「栄養療法」について、日本の専門家による最新の総説論文(多くの研究を整理・解説した報告書)を基に、何が重要で、私たちは具体的に何をすれば良いのかを詳しく解説していきます。

研究紹介:サルコペニア・フレイルと栄養の最新レビュー

まずは、今回主に参考にする論文の概要です。

2023年に日本の葛谷雅文先生(名鉄病院)は、「サルコペニア・フレイルに対する栄養療法」と題する総説を日本内科学会雑誌に発表しました。この総説では、超高齢社会における健康寿命延伸のためにはサルコペニア・フレイル対策が重要であり、その栄養療法としては低栄養の予防・改善を基本とし、十分なエネルギーとたんぱく質(特に運動との併用で1.0~1.5g/kg体重/日)の摂取が中心となるが、その他の栄養素の単独効果は限定的であり、栄養管理はライフステージに応じた個別対応(ギアチェンジ)が求められる、とまとめられています。

この総説は、サルコペニアやフレイルに対する栄養面からのアプローチについて、現在の科学的根拠を分かりやすく整理しており、私たち自身や家族の健康管理に役立つ情報が満載です。

サルコペニア・フレイルって何?放置するとどうなる?

まず、「サルコペニア」と「フレイル」とは何か、簡単におさらいしましょう。

  • サルコペニア: 主に加齢によって筋肉の量が減少し、筋力または身体機能(歩く速さや椅子からの立ち上がりなど)が低下した状態を指します。アジア人のための診断基準(AWGS 2019)では、まず握力や椅子立ち上がりテストで評価し、該当する場合に精密検査(DXA法やBIA法による筋肉量測定)に進む流れが推奨されています。
  • フレイル: 加齢に伴い、心身の活力(ストレスに対する回復力や抵抗力)が低下し、様々な健康障害(転倒、入院、要介護など)のリスクが高まった多面的な虚弱状態を指します。日本の基準(日本版CHS基準、J-CHS基準)では、以下の5項目のうち3項目以上に該当するとフレイル、1~2項目でプレフレイル(フレイルの前段階)とされます。
    1. 体重減少: 意図せず半年で2kg以上減った
    2. 筋力低下: 握力が男性28kg未満、女性18kg未満
    3. 疲労感: (ここ2週間)わけもなく疲れた感じがする
    4. 歩行速度低下: 通常の歩行速度が秒速1m未満
    5. 身体活動量の低下: 軽い運動も定期的な運動も週に1回もしていない

サルコペニアとフレイルは密接に関連しており、特にフレイルの診断項目である「筋力低下」や「歩行速度低下」はサルコペニアの診断にも使われる共通の要素です。

これらの状態を放置すると、日常生活での活動が困難になり、転倒や骨折、病気からの回復遅延、入院期間の長期化、さらには寝たきりや要介護状態へと進展しやすくなります。つまり、健康で自立した生活を送る期間(健康寿命)を短くしてしまう大きな原因となるのです。

そして、これらの状態の背景には、「低栄養」つまり、体に必要なエネルギーや栄養素が慢性的に不足している状態が深く関わっていることが分かっています。

筋肉を守る食事とは?最新栄養療法のポイント

では、サルコペニアやフレイルを予防・改善するために、食事(栄養療法)では何が重要なのでしょうか? 総説論文で強調されているポイントを見ていきましょう。

1. まずは「低栄養」を防ぐ!十分なエネルギー摂取が大前提 サルコペニア・フレイル対策の栄養療法の基本中の基本は、「低栄養状態に陥らないこと」です。フレイルの診断基準にも「体重減少」が含まれているように、意図しない体重減少は危険信号。まずは、活動に見合った十分なエネルギー(カロリー)を摂取し、体重を維持することが大前提となります。

2. 最重要栄養素!「たんぱく質」の摂り方 筋肉の主成分である「たんぱく質」の摂取は、サルコペニア・フレイル対策において最も重要です。

  • 予防のためには?
    • 観察研究(多くの人の食生活と健康状態を長期間追跡する研究)では、たんぱく質を多く摂っている人ほど、身体機能が維持されやすく、フレイルにもなりにくい傾向が報告されています。
    • 日本人の食事摂取基準(2020年版)では、65歳以上の高齢者のたんぱく質推奨量は、成人と同じく体重1kgあたり約0.92g/日とされています。しかし、これはあくまで健康な高齢者が最低限摂取すべき量。サルコペニア・フレイルを予防するためには、体重1kgあたり1.0g/日以上のたんぱく質摂取が必要と、この基準の中でも言及されています。
      • 用語解説:
        • 日本人の食事摂取基準: 厚生労働省が国民の健康増進・生活習慣病予防のために示しているエネルギー及び各栄養素の摂取量の基準。
  • 治療のためには?(既にサルコペニア・フレイルと診断された場合)
    • 残念ながら、たんぱく質の摂取量を増やす「だけ」では、筋肉量や筋力を大幅に改善させる効果は限定的である、というのが現在の多くの研究(メタアナリシス:複数の研究結果を統合・分析する手法)の一致した見解です。
    • ここで非常に重要になるのが「運動との組み合わせ」、特に筋力トレーニング(レジスタンス運動)です。運動とたんぱく質摂取を組み合わせることで、筋肉量、足の筋力、歩く速さなどが改善することが多くの研究で示されています。
    • 治療目的の場合のたんぱく質摂取量の目安は、体重1kgあたり1.2~1.5g/日、そして1回の食事で25~30gを目標に、3食均等に摂ることが推奨されています。
      • なぜ毎食?なぜ多め? 高齢者の筋肉は、若い頃に比べて、たんぱく質を摂取しても筋肉が作られにくい「同化抵抗性」という状態になっていることがあります。そのため、筋肉の合成スイッチをしっかり入れるためには、ある程度まとまった量のたんぱく質を、特に筋肉が作られやすい運動後や、筋肉が分解されやすい朝食時からしっかり摂ることが大切なのです。

3. その他の栄養素は?ビタミンD、オメガ3、アミノ酸など たんぱく質以外にも、筋肉に良いとされる栄養素はいくつかあります。

  • ビタミンD: カルシウムの吸収を助け骨を強くする働きが有名ですが、筋肉にも影響する可能性が研究されています。しかし、ビタミンD単独でサルコペニアを改善する効果は、今のところ明らかではありません。たんぱく質や運動と組み合わせることで、筋力や身体機能に良い影響があるかもしれない、という程度です。
  • オメガ3系多価不飽和脂肪酸(魚油など): 筋肉の合成を促す可能性が期待されていますが、筋肉量を増やす効果は否定的で、筋力(特に足の力)への効果もまだエビデンスは強くありません。
  • ロイシンやHMB:
    • ロイシンは、たんぱく質を構成する必須アミノ酸の一種で、特に筋肉の合成を強く促す働きがあります。1日に3~6g程度のロイシン摂取で、筋肉量や筋力改善の可能性が示唆されています。
    • HMBは、ロイシンの代謝物で、さらに強力に筋肉の合成を促すと言われています。1日に2~3gのHMB摂取で、高齢者の筋肉量増加や、サルコペニア・フレイルの方の筋力・身体機能改善の可能性が報告されています。また、寝たきりなどで筋肉が使えない状態での筋肉量減少を抑える効果も期待されていますが、いずれもまだ「エビデンスは十分とは言えない」状況です。

これらの栄養素は、あくまで補助的な役割と捉え、まずは十分なエネルギーとたんぱく質の確保、そして運動が基本となります。

4. 「サルコペニア肥満」にも注意! 最近問題になっているのが、「サルコペニア肥満」です。これは、体脂肪は多い(肥満)のに、筋肉量が少ない状態を指します。見た目は太っていても、実は筋肉がスカスカで力が弱く、転倒しやすいなどのリスクがあります。肥満に伴う慢性的な炎症やインスリン抵抗性などが、筋肉の質を悪化させ、サルコペニアを引き起こすと考えられています。

サルコペニア肥満の場合、単に体重を減らす(エネルギー制限をする)だけでは、さらに筋肉量が減ってしまう危険性があります。筋力トレーニングなどの運動を行いながら、適切にエネルギー摂取量を調整し、質の高いたんぱく質をしっかり摂るという、よりきめ細やかな対応が必要です。

年齢で変わる栄養戦略:「ギアチェンジ」の考え方

ここまで、主に高齢者のサルコペニア・フレイル対策としての栄養療法を見てきましたが、実は必要な栄養管理はライフステージによって異なります。この総説では、「栄養管理のギアチェンジ」という考え方が提唱されています。

  • 成人期(~64歳頃まで): 主にメタボリックシンドローム予防が重要。食べ過ぎ(過栄養)に注意し、バランスの取れた食事で適正体重を維持することが目標。
  • 前期高齢期(65歳~74歳頃):グレーゾーン」。メタボ予防も引き続き重要ですが、徐々に低栄養やサルコペニアのリスクも出てくる時期。個々の健康状態や体重変化、活動量などを見極め、過栄養にも低栄養にも偏らないよう、個別対応が必要。
  • 後期高齢期(75歳頃~): 主にフレイル・サルコペニア予防・対策が重要。体重減少や食欲不振に注意し、低栄養を防ぎ、筋肉を維持するための十分なエネルギーとたんぱく質摂取が目標。

このように、年齢や体の状態に合わせて、栄養管理のアクセルとブレーキを上手に使い分ける「ギアチェンジ」の意識を持つことが、生涯を通じた健康維持には不可欠なのです。

まとめ

今回は、サルコペニア・フレイルに対する栄養療法について、最新の総説論文を基に解説しました。

  • サルコペニア・フレイル予防・改善の栄養の基本は、「低栄養を防ぎ、十分なエネルギーを摂ること」そして「運動と組み合わせた適切なたんぱく質摂取」です。
  • ビタミンDやオメガ3、HMBなどの特定の栄養素は、現時点では補助的な役割であり、過度な期待は禁物です。
  • 「サルコペニア肥満」という病態にも注意が必要で、個別の対応が求められます。
  • 最も重要なのは、年齢や健康状態に応じて栄養管理の重点を変える「ギアチェンジ」の考え方。画一的な方法ではなく、一人ひとりに合った栄養サポートが健康寿命を延ばす鍵となります。

「最近、食が細くなったな」「筋肉が落ちてきたかも」と感じたら、それは体からのサインかもしれません。まずはかかりつけ医や管理栄養士、理学療法士などの専門家に相談し、ご自身の状態に合った食事や運動についてアドバイスをもらいましょう。


参考文献:

葛谷雅文. サルコペニア・フレイルに対する栄養療法. 日本内科学会雑誌. 2023;112(4):642-647.


健康・医学関連情報の注意喚起:

本記事は、サルコペニア・フレイルと栄養療法に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。 サルコペニア、フレイル、低栄養、その他の疾患の診断や治療、食事療法については、必ず医療従事者や管理栄養士にご相談ください。

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