理学療法士のPTケイです。
新しい環境に身を置くことは、誰もが期待と同時に不安を感じるものです。
特に、予期せぬ出来事や人間関係の摩擦は、私たちの心に大きな負担をかけることがあります。
私自身も最近、まさにそのような状況を経験しました。
その時に感じた「辛さ」や「恐怖」は、今、心の不調と向き合っているあなたや、それを支えるご家族の方々も、きっとどこかで感じたことがあるかもしれません。
この記事では、私自身の体験を例に、認知行動療法という心理療法が、どのように私たちの心をサポートし、困難を乗り越える力を与えてくれるのかを具体的にお話ししたいと思います。
私自身がこの経験を通して、気持ちの整理がつかなかったので、認知行動療法のステップを整理することで、気持ちを整理させることができました。
そのプロセスをたどることで、皆さんの心の回復や、大切な方を支えるヒントになれば幸いです。
「まさか」の瞬間に心がフリーズ:私のパニック体験と自動思考
私は、認知行動療法の実践方法について、リワークという復職支援施設にて学び、実践してきました。
今では、本当に困難な事例や、発作等が出た場合のみ、書き出して状況を整理して、自動思考を修正するようにしています。
実際の実践状況を以下に示しますので参考にしていただければと思います。
状況の把握
新しい職場(訪問リハビリ)でパートとして働き始めたばかりの頃、私は見学のため、ある利用者さんのご自宅へ向かいました。
その日は初めての現地集合で、見学を担当する職員の方と待ち合わせをしていました。
約束の時間より少し早く着き、車の中で準備をしていたのですが、ふと気づくと、待ち合わせの職員が私の車を確認することなく、すでに利用者さんの家の中へ入っていってしまったのです。
私は一瞬でパニックになり、どうしていいか分からず、慌てて後を追いました。
利用者さんの家のドアをノックし、中に入ると、焦りからか私はつい、利用者さんにではなく、その職員に「〇〇さん、(担当者名)さんから同行の連絡はなかったですか?」と聞いてしまいました。
以前、2回目の見学の際は、必ず見学者が利用者さんやご家族の同意を得てから入るように、と教わっていたからです。
すると、その職員はひどく怒り、「一度、家の外に出ろ」と言われました。
そして、内容はあまり覚えていないのですが、
- 「見学するなら、私より早く来て待っているのが普通だ」
- 「君は資格をたくさん持っているそうだが、私は、経験年数は20年ある。もう何回も見学しているのにそんなんで大丈夫か?」
- 「家に入るときのマナーなんて、訪問リハビリでは基本中の基本だぞ」
などと、強い口調で言われたのです。
さらには、肩を後ろへ押されたり、「緊張しているのか?大丈夫か?今から帰ってもいいよ」と煽るような言葉も浴びせられました。
理由が分からず混乱し、恐怖でいっぱいでしたが、反論しても状況は悪くなるだけだと感じ、すべてを受け入れて謝罪し、見学を続けさせてもらうことにしました。
見学中はなんとか落ち着き、無事に終えることができました。
しかし、その後、車の中で30分ほど休むほど心身ともに疲れ果て、家に帰って妻にこの出来事を話すと、緊張の糸が切れたように涙が止まらなくなり、軽いパニック発作のような状態になりました。
その後も数日間、下痢が止まらず、この時の状況が恐怖として心に残ってしまったのです。
加えて、翌週からは初めて担当する業務があり、新しい処置も覚えなければならないという不安も重なっていました。
自動思考の整理
この状況で、私の心には様々な「自動思考」が駆け巡りました。
- 「もう、この仕事はやっていけないかもしれない」
- 「そもそも、先に利用者さんの家に入ってしまった職員がおかしい」
- 「経験年数は関係ないはずだ」
- 「私は遅刻したわけではないのに、なぜこんなに怒られるんだ」
- 「まだ3回目の見学で、想定しきれないことが起こったのは仕方ない部分もある」
感情の数値化(自動思考時)
これらの思考は、瞬時に頭に浮かび、私の気分(感情)を大きく揺さぶりました。
この時の私の気分を数値で表すと、「怒り90」「絶望80」「恐怖90」と、非常に高いものでした。
心の回復を促す「反証」の力:自動思考を見つめ直す
認知行動療法では、この「自動思考」に焦点を当てます。
自動思考は、私たちが特定の状況に遭遇した際に、無意識のうちに頭の中に浮かぶ考えのことです。
これらは必ずしも事実に基づいているとは限らず、私たちの気分に大きな影響を与えます。
反証で自動思考を修正
私は、この自動思考を特定し、それに対して「反証」を試みました。
「基本的には見学を担当する職員の対応が悪い」
相手の行動に焦点を当て、自分の責任ではない部分を明確にしました。待ち合わせをしていたはずなのに、見学を担当する職員の車の後ろに、私が車を止めたのに、その車を一切見ることなく、動向開始5分前に利用者様の家の中に入っていってしまうのはおかしい。
「パニック状態になってしまっていたので、そこまでうまく動けなかったのはしょうがない部分がある」
自分の状態を客観的に認識し、過度な自責を避けるようにしました。自分の限界状態で動けるのかどうか考えると仕方のない部分が見えてくると思います。
「論理的におかしいし、ほぼパワハラのような指摘だったし、一方的な言いがかりなので、真に受ける必要はないと思う」
相手の言葉が不当であることを認識し、その言葉に縛られる必要がないことを理解しました。
この「反証」のプロセスは、非常に重要です。
自分の思考が本当に正しいのか、別の解釈はないのかを冷静に考えることで、ネガティブな感情の強度を和らげることができます。
感情の数値化(反証後)
実際、私は反証後、気分が「怒り60」「絶望20」「恐怖70」へと改善しました。
これは、認知行動療法が効果を発揮している証拠だと感じています。
日常生活に活かす認知行動療法:今日からできる心のケア
私の経験から得られた学びを、今後の日常生活や仕事に活かすための具体的な行動として、皆さんにも提案したいと思います。
心の不調を抱えている方、そしてそれを支えるご家族の方々も、ぜひ試してみてください。
冷静さを取り戻すためのリセット術
パニック状態に陥った際、私は「いったん落ち着いてから行動するように対応しよう」と反省しました。
これはまさに、認知行動療法の重要な戦略の一つです。
- 呼吸法の実践: 深呼吸は、自律神経を整え、興奮状態を鎮める効果があります。腹式呼吸を意識し、ゆっくりと吸い込み、ゆっくりと吐き出すことを数回繰り返すだけでも、心の落ち着きを取り戻すことができます。
- 「その場を離れる」選択: もし可能であれば、一時的にその場を離れることも有効です。例えば、一度車に戻る、トイレに行くなど、物理的に距離を置くことで、感情的な興奮から一時的に解放されます。
- セルフトークの活用: 「大丈夫、落ち着こう」「これは一時的なものだ」など、自分自身に肯定的な言葉を語りかけることで、思考の暴走を食い止めることができます。
不当な評価から自分を守る心の盾
今回の見学を担当する職員の方からの不当な評価は、私の心に大きな傷を残しました。
しかし、私は「論理的におかしいし、ほぼハラスメントのような指摘だったし、一方的な言いがかりなので、真に受ける必要はないと思う」と我ながら見事に反証しています。
この「真に受けない」という姿勢は、非常に重要です。
他者の言動がすべて真実であるとは限りません。
特に感情的な言葉は、その人の個人的な感情や状況が反映されていることが多く、あなたの価値を決定づけるものではありません。
- 「これは相手の問題」と認識する: 相手の言動が、その人の個人的な問題や不満から来ている場合があることを理解しましょう。あなたが原因ではないケースも多々あります。
- 信頼できる人に相談する: 一人で抱え込まず、信頼できる上司や同僚、家族、友人などに相談することで、客観的な視点を得られます。今回のケースでは、妻に話すことで感情を解放できたように、誰かに話すことは非常に有効です。
- 記録することの検討: 万が一、ハラスメントが続くようであれば、日時、場所、内容などを記録に残しておくことも、自身を守る上で有効な手段となります。
未来への準備:不安を具体的に対処する
新しい業務や処置への不安は当然の感情です。
しかし、私は既に「来週は、新しい処置を同行して指導してくれる看護師さんがきてくれる」という具体的な解決策を認識していました。
- 情報の収集と学習: 不安な要素について、積極的に情報を集め、学習することで、未知への恐怖を軽減できます。動画や書籍、専門家への質問など、あらゆる方法を活用しましょう。
- 実践的な練習: シミュレーションや練習を重ねることで、自信をつけ、本番でのパフォーマンス向上に繋げられます。
- サポート体制の確認: 今回のように、専門家が同行してくれる機会を最大限に活用し、疑問点は積極的に質問しましょう。また、職場内の相談窓口や研修制度なども確認しておくことが大切です。
まとめ:あなたの心は、あなた自身で強くできる
私の今回の経験は、私にとって非常に辛いものでしたが、同時に、自身の心を深く見つめ直し、対処法を学ぶ貴重な機会となりました。
私は、認知行動療法の重要なステップである「自動思考の特定」と「反証」を実践することで、感情の波を穏やかにすることができました。
もしあなたが今、心が揺さぶられるような状況にいるのなら、まずはその瞬間に頭に浮かんだ考え(自動思考)に気づいてみてください。
そして、それが本当に事実なのか、別の見方はできないのかを冷静に考えてみましょう。
そうすることで、感情に振り回されにくくなり、より冷静に対処できるようになります。
うつ病を抱えるご本人様も、そのご家族様も、一人で抱え込まず、信頼できる人に相談し、時には医療機関や専門家の力を借りることも大切です。
あなたの心には、困難を乗り越える力が必ず備わっています。
健康・医学関連情報の注意喚起:
本記事は、認知行動療法に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医学的アドバイスを提供するものではありません。心の不調が続く場合や、特定の疾患の診断や治療については、必ず医療従事者にご相談ください。
コメント