AさんPTケイさん、こんにちは。
最近、週に2回ジムでしっかり汗を流してるんですけど、なんだか日中のだるさや肩こりが取れないんですよね…。



あ、それ分かります。
私も運動してるから大丈夫だと思って、仕事中はつい何時間も座りっぱなしで。でも、健康診断の数値があまり良くなくて…。



Aさん、Bさん、こんにちは。
そのお悩み、デスクワークの方や忙しい現代人にとって、とても“あるある”な落とし穴なんです。
実は、「週末に運動しているから、平日は座りっぱなしでも大丈夫」という考え方こそが、健康を損ねる原因かもしれません。
今回のテーマは、まさにそこです。
運動(Physical Activity)をしっかりやっていても、それとは別問題として『座っている時間(Sedentary Time)』そのものが持つ健康リスクと、そのリスクを減らすための鍵である「NEAT(ニート)」について、非常に衝撃的な論文をもとに徹底解説していきます。
この記事を読めば、あなたが運動しているのに感じていた不調の本当の原因と、明日から、いえ、今この瞬間からできる具体的な対策がわかりますよ。
1分でわかる要約:座りすぎのリスクとNEAT


📋この記事でわかること
- ⚠️
推奨される運動(週150分など)を行っていても、「座りすぎ」の健康リスクは完全には帳消しにならないこと - 📉
座りすぎは、総死亡率、心血管疾患、がん、そして特に「2型糖尿病」のリスクを、運動習慣とは独立して高めること - 🔑
対策の鍵は、運動(Exercise)とは別の「NEAT(ニート:非運動性熱産生)」。つまり、日常の「こまめな活動」であること
研究紹介:座りすぎのリスクを暴いた大規模研究
今回ご紹介するのは、2015年にカナダのビスワス氏らによって発表された、非常に大規模なシステマティックレビューおよびメタアナリシスです。
これは、過去の多くの研究(合計47件)を集めて、科学的根拠の信頼性を高めた分析手法です。
この研究が画期的だったのは、「運動(身体活動)をどれくらいしているか」の影響を取り除いた上で、純粋な「座位時間」が健康にどれほど悪影響を与えるかを定量的に示した点にあります。
では、この興味深い研究を一緒に紐解いていきましょう。
衝撃の事実!「運動」と「座りすぎ」のリスクは別問題


論文が明らかにした「独立したリスク」とは?
私たちは長年、「健康のために週に150分の中強度の運動をしましょう」と学んできました。
もちろん、これは今でも非常に重要なことです。
しかし、この論文が突きつけた事実は、「運動を頑張ること」と「座りすぎのリスクを減らすこと」は、全く別の課題である、というものでした。
研究では、調査対象となった研究のほとんどが、統計分析の段階で「身体活動(運動)の影響」を調整していました。つまり、「運動をしている人」も「していない人」もひっくるめて、純粋に「座っている時間が長いこと」だけが、どれだけ体に悪いかを調べたのです。
その結果は明白でした。たとえ推奨される運動量を満たしていたとしても、残りの覚醒時間をほとんど座って過ごしている人は、そうでない人に比べて健康リスクが有意に高かったのです。



私自身、理学療法士として「運動しましょう」と指導する一方で、うつ病で動けなかった時期は、一日中座っていることの怖さを痛感しました。
この論文を読んだ時、「週末にジムで2時間頑張ったから、平日のデスクワーク8時間はチャラ!」という考えがいかに危険か、改めて突きつけられました。
運動で得られる「健康ポイント」と、座りすぎで溜まる「不健康負債」は、別々に管理しなくてはいけないんです。
身体活動レベルが高い人でも、リスクはゼロにならなかった
もちろん、希望もあります。
論文によると、座位時間による健康への悪影響は、身体活動レベルが低い人(=運動習慣がない人)でより顕著に現れることが分かりました。
しかし、残念ながら、身体活動レベルが最も高いグループ(=活発に運動している人)であっても、座位時間が長いことによるリスクを完全にゼロにすることはできませんでした。
具体的には、
身体活動レベルが低い人が座りすぎの場合、総死亡リスクは1.46倍だったのに対し、
身体活動レベルが高い人でも、座りすぎの場合はリスクが1.16倍と、依然としてリスクが残っていたのです。



「運動でチャラ」にはならない、ということですね…。
むしろ「運動している」という自負が、「日中は座りっぱなしでも大丈夫」という油断を生み、かえって座りすぎのリスクに無自覚になってしまう…という皮肉な状況もあり得るわけです。
座りすぎが招く深刻な健康被害(特に糖尿病!)
では、具体的に「座りすぎ」はどのような病気のリスクを高めるのでしょうか。
座位時間と関連が認められた疾患


このメタアナリシスでは、座りすぎが以下の疾患の発生率や死亡率と独立して関連していることが示されました。
- 総死亡率 (HR: 1.240)
- 心血管疾患死亡率 (HR: 1.179)
- 心血管疾患発生率 (HR: 1.143)
- がん死亡率 (HR: 1.173)
- がん発生率 (HR: 1.130)
(特に関連が強かったのは、乳がん、結腸がん、子宮内膜がんなどでした) - 2型糖尿病発生率 (HR: 1.910)
(※HR: ハザード比。リスクの高さを示す指標。1.0が基準で、数値が大きいほどリスクが高いことを意味します)



ただ「座っているだけ」が、これほど多くの深刻な病気と直結しているという事実に、背筋が寒くなります。
特に、デスクワークや運転などで長時間座ることが避けられない方々は、この現実を重く受け止める必要がありますね。
最もリスクが高かったのは「2型糖尿病」
上のリストを見て、何か気づいたことはありませんか?
そう、「2型糖尿病」のリスク(HR: 1.910)が、他の疾患(1.1~1.2倍程度)と比べて突出して高いのです。
これは、「座りすぎの人は、そうでない人に比べて、2型糖尿病を発症するリスクが約1.9倍(ほぼ2倍)になる」ということを意味しています。
これは非常に恐ろしい数値です。なぜなら、座っている間、私たちの体、特に下半身の大きな筋肉(大腿四頭筋や大殿筋など)は活動を停止しています。
筋肉は、血液中の糖を取り込む最大の「受け皿」です。その受け皿が働かなければ、血糖値は下がりません。
座り続けることは、血糖値をコントロールする体の仕組みを、自ら放棄しているようなものなのです。
私たちに何ができる? 解決の鍵は「NEAT」
では、この恐ろしい「座りすぎリスク」から逃れるために、私たちはどうすればよいのでしょうか。
「もっと運動(Exercise)を頑張る」でしょうか?
もちろんそれも大事ですが、この論文が指し示している本当の答えは、別のところにあります。
運動(Exercise) vs NEAT(ニート)
ここで登場するのが「NEAT(ニート)」という概念です。
NEATとは、Non-Exercise Activity Thermogenesis(非運動性熱産生)の略です。
日本語にすると難しく感じますが、要は「運動以外の、日常生活における全ての身体活動によるエネルギー消費」のことです。
- 運動 (Exercise): ジムでのトレーニング、ランニング、スポーツなど、意図的に行う中~高強度の身体活動。
- NEAT (ニート): 通勤での歩行、階段の上り下り、家事、デスクワーク中の姿勢の変更、貧乏ゆすり、立つこと、など。
今回の論文は、「座位時間(Sedentary Time)」のリスクを強調しました。
つまり、このリスクを減らす最も直接的な方法は、「座位時間を減らすこと」です。
そして、「座位時間を減らす」行動こそが、まさに「NEATを増やす」ことと同義なのです。
なぜNEATが重要なのか?


論文の結果は、「週に数回、まとめて激しい運動」をすることの限界を示しています。
それよりも、「いかに日常生活の中で、こまめに座る時間を中断し、NEATを稼ぐか」が、座りすぎのリスク(特に血糖値のコントロール)を管理する上で、非常に重要である可能性が高いのです。
- 30分に1回立ち上がって背伸びをする。
- エレベーターではなく階段を使う。
- テレビを見ながら足踏みをする。
- 電話は立ってする。
- 家事を積極的に行う。
- 草むしりをする。
これらはすべて、立派なNEATです。
これら一つ一つは小さな活動ですが、1日、1週間、1年と積み重なれば、ジムでの運動に匹敵するほどの健康効果を生み出す可能性があります。



そうなんです!「運動しなきゃ」と考えるとハードルが高いですが、「NEATを増やす(=こまめに動く)」なら、今すぐ誰でも始められますよね。
私もこの事実を知ってから、スタンディングデスク(机の上に置くタイプ)を、購入して使っています。
歯磨き中は、かかとを上げ下げしたり(笑)。トイレに行くたびにスクワットをするなどしています。
小さなことですが、これが体を守る盾になると信じています。
【PTケイのQ&A】座りすぎとNEATのよくある疑問
まとめ
今回は、座りすぎのリスクと、その対策としての「NEAT」について、2015年のメタアナリシスを基に解説しました。
- 健康のためには、「運動(Exercise)」をすることと、「座りすぎ(Sedentary Time)を減らすこと」は別々に考える必要がある。
- たとえ推奨される運動量を満たしていても、座りすぎの時間が長ければ、総死亡、心血管疾患、がん、そして特に2型糖尿病のリスクは独立して高まる。
- この「座りすぎリスク」を減らす鍵は、運動以外の日常的なこまめな活動「NEAT(非運動性熱産生)」にある。
「運動」と「NEAT」。この両輪をバランスよく回すことが、現代人にとって最強の健康戦略と言えるでしょう。
最後に、この事実をしって、私は「運動できない自分」を責める必要はないんだ、と救われた気がしました。
激しい運動ができなくても、病気や痛みで長時間動けなくても、「今、少しだけ立つ」「今、少しだけ姿勢を変える」。
その小さなNEATの積み重ねが、確実に私たちの体を守ってくれる。
この記事を読んだあなたが、今、この瞬間に「よし、ちょっと立とうかな」と思っていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。
まずは、その場で一度、ぐーっと背伸びをしてみませんか?
それが、あなたの健康を守る大きな一歩です。
参考文献 (References)
Biswas A, Oh PI, Faulkner GE, et al. Sedentary Time and Its Association With Risk for Disease Incidence, Mortality, and Hospitalization in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med. 2015;162:123-132. doi:10.7326/M14-1651
注意喚起 (Disclaimer)
本記事は、座位時間と健康に関する情報提供を目的としており、医学的アドバイスを提供するものではありません。症状の診断や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。



最後に、こちら↓の記事ですが、座りすぎによる影響をメンタルヘルスの視点から説明しています。ぜひ、気になったからは読んでみてください。


