BさんPTケイさん、聞いてほしいです!
こないだの旅行、すごく楽しかったんです!
……でも、家に帰ってきてから急に怖くなってちゃいました。



おや、どうしましたか?
旅行を楽しめたのは、素晴らしい回復のサインですよ。



でも……『旅行に行ける元気があるなら、もう明日から会社に行けるんじゃないか?』って思えてきたんです。
周りからも『遊べるなら働け』って思われそうで……。
私、もう復職しなきゃいけないですかね?



Bさん、落ち着いてください。
その考えは『骨折が治った直後にフルマラソンを走ろうとする』のと同じくらい危険です。
結論から言うと、『旅行ができる』ことと『仕事ができる』ことは、脳と体にかかる負荷の種類が全く違います。
今回は、理学療法士の視点から、なぜ『遊び』と『仕事』の体力が別物なのか、そして本当の復職のタイミングはいつなのかを解説します。
これを読めば、焦って復職して再発するリスクを防げますよ。
1分でわかる要約 (1-Minute Summary)
🌱 この記事の結論:「遊び」と「仕事」は使う筋肉が違います
- ✅ 【決定的な違い】コントロール権の所在 旅行は「自分で決められる(自己決定)」活動ですが、仕事は「他人に決められる(他者決定)」活動です。脳にかかるストレスの質が根本的に異なります。
- ✅ 【リハビリ段階】旅行は「準備運動」 リハビリの段階で言えば、旅行はStage 2、仕事はStage 4です。いきなり段階を飛ばすと、高確率で「再発(怪我)」します。
- ✅ 【復職のサイン】楽しさより「我慢」 「楽しいことができる」ことより、「面倒なことができる」「嫌なことにも対処できる」かどうかが、復職に向けた本当のバロメーターです。
- 🕊 PTケイのひとこと: 「旅行に行けたのは『ガソリンが入った』だけ。エンジン(対人耐久力)が直ったわけではありません。焦らないで。」
私の体験談・解説 (Main Content)


「遊び」と「仕事」の決定的な差は「コントロール権」にある
「旅行に行けるなら会社に来い」という言葉は、心の仕組みを知らない人の暴論です。
なぜなら、この2つは活動の性質が真逆だからです。
理学療法士として、身体的・精神的負荷を分析するとこうなります。
特徴: 「疲れたら休む」「嫌なら行かない」「好きなものを食べる」など、全て自分のペースでコントロールできます。
脳への影響: 自分の意思で動くことは「自律性の回復」を促します。
エビデンス: 研究でも、旅行による「日常の義務からの離脱(Detachment)」は、うつ病のリスクを下げ、精神的なエネルギーをチャージする行為であるとされています(Hyun S et al., 2022)。
特徴: 「疲れても休めない」「嫌いな人とも話す」「納期に合わせる」など、他人のペースに強制的に合わせる必要があります。
脳への影響: 常に「予測」と「我慢」を強いられ、高度な対人ストレス耐性を要求されます。
結論: 仕事はエネルギーを消費する行為です。
旅行に行けたということは、あなたの心の「ガソリン(エネルギー)」が溜まってきた証拠です。
しかし、仕事をするための「エンジン(対人ストレスに耐える機能)」が完全に修理できたわけではありません。
ここで無理に動かすと、せっかく溜めたガソリンを一瞬で使い果たしてしまいます。
医学的に見る「旅行」はリハビリの第2段階
骨折のリハビリと同じように、心の回復にも明確な「段階(ステージ)」があります。
旅行に行けたあなたは、今この段階にいます。
- Stage 1: 家から出る(散歩・買い物)
- Stage 2: 非日常を楽しむ(旅行・趣味) 👈 イマココ!
- Stage 3: 日常の義務をこなす(家事・定時活動)
- Stage 4: 他者のペースで動く(復職・ボランティア)
見ての通り、旅行(Stage 2)と仕事(Stage 4)の間には、大きな壁があります。
「旅行に行けた! よし復職だ!」というのは、「ギプスが取れた! よしフルマラソンだ!」と言っているのと同じです。ほぼ確実に再骨折(再発)します。
📖科学の視点:仕事を持ち込まない重要性



つまり、「仕事から完全に離れている環境」だからこそ、
あなたは旅行ができたのです。
その環境がない場所(職場)に戻るには、まだ準備が必要です。
「復職」に向けて確認すべき3つのサイン
では、いつになれば復職できるのか? 旅行の「次」に目指すべき、Stage 3のチェックリストを紹介します。
1. 「嫌なこと」が含まれるスケジュールをこなせるか?
旅行は「やりたいこと」だから動けました。
次は、役所の手続き、風呂掃除、長時間の読書など、「少し面倒だけどやらなきゃいけないこと」を半日続けられるか試してください。
仕事の8割は「面倒なこと」でできているからです。
2. 睡眠リズムは崩れていないか?
旅行の後、2〜3日寝込んでしまいませんでしたか?
仕事は毎日続きます。
「活動した後も、翌朝決まった時間に起きられる回復力」が戻っているかが重要です。
3. 予期せぬトラブルにパニックにならないか?
旅行中のちょっとした渋滞や、天気の崩れで、過度にイライラしたり落ち込んだりしませんでしたか?
仕事現場は「想定外」の連続です。
小さなトラブルを「まあ、なんとかなるか」と受け流せる余裕があるか、自分を観察してみてください。
PTケイのQ&A (Q&A Section)
まとめ (Conclusion)
- 🔍 【まとめ1】焦りは禁物 旅行に行けたことは「回復の証」ですが「完治の証」ではありません。ガソリンは入りましたが、まだ長距離走行(仕事)には早すぎます。
- 🎯 【まとめ2】他者決定に慣れる 復職に必要なのは「楽しいことをする力」ではなく、「他人のペースに合わせて、嫌なこともこなす持久力」です。まずは日常生活でリハビリを。
- 🕊 【まとめ3】自分を褒める 「まだ働けない」と自分を責めるのではなく、「旅行に行けるまで回復した!」と自分を褒めてあげてください。その自己肯定感が、復職への一番のエネルギーになります。
【読者への最後のエール】 あなたは今、正しい手順で回復しています。 「旅行」というアクセルを踏んだ後は、「慎重さ」というブレーキを踏んで、安全運転でいきましょう。 大丈夫、焦らなくてもちゃんとその日は来ます。
参考文献 (References)&注意喚起 (Disclaimer)
参考文献 (References)
- Hyun S, Lee Y, Park S. No travel worsens depression: reciprocal relationship between travel and depression among older adults. Ann Gen Psychiatry. 2022;21(1):31.
- Yeon PS, Jeon JY, Jung MS, et al. Effect of Forest Therapy on Depression and Anxiety: A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(23):12685.
- Sinsky CA, Trockel MT, Dyrbye LN, et al. Vacation Days Taken, Work During Vacation, and Burnout Among US Physicians. JAMA Netw Open. 2024;7(1):e2351635.
注意喚起 (Disclaimer)
本記事は、理学療法士の国家資格を持つ筆者の知識と経験、および執筆時点での信頼できる文献に基づいて作成されていますが、医学的な診断や治療を提供するものではありません。
復職のタイミングについては、必ず主治医や産業医の判断を仰いでください。
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