はじめに:「考える」を鍛える。理学療法士の思考力を高めるシンプルメソッド
こんにちは。このブログのタイトルにもあるように、「思考」は理学療法士にとって非常に重要なスキルです。日々の臨床での判断、患者さんへの説明、多職種との連携、そして自己研鑽。あらゆる場面で、質の高い思考力が求められます。しかし、「考えがまとまらない」「自分の意見をうまく伝えられない」「同じことで悩み続けてしまう」といった経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
私自身、そうした課題を感じる中で出会い、実践してきたのが、赤羽雄二さんの著書で提唱されている「ゼロ秒思考」というメモ書きの手法です。これは、頭の中を整理し、思考力を鍛えるための非常にシンプルかつ強力なツールです。赤羽雄二氏は、理学療法士向けの専門誌「理学療法ジャーナル」でも特集記事を執筆されるなど、その手法は専門職の思考整理にも有効とされています。
この記事では、2020年当時の私の実践と考察を元に、「ゼロ秒思考」の具体的なやり方、その効果、そして理学療法士が日々の業務や学習にどう活かせるかについて、2025年の視点から情報をアップデートし、詳しく解説していきます。
1. 「ゼロ秒思考」とは? – 1分で頭を整理する究極のメモ術

「ゼロ秒思考」とは、赤羽雄二氏が多くの著書で紹介されている、A4用紙に1件1ページ、1ページを1分以内で書くという非常にシンプルなメモ書きの手法です。
具体的なやり方:
- A4用紙を横向きに置く。
- 左上にタイトルを書く。 (例:「〇〇さんのリハビリ計画で悩んでいること」「今日のタスク整理」「新しい勉強会のアイデア」など、頭に浮かんだことなら何でもOK)
- 右上に日付を書く。 (例:2025.XX.XX)
- 本文を4~6行程度で書く。 各行は20~30字程度を目安に、箇条書きで簡潔に。
- 1ページを1分以内に書き終える。 タイマーで時間を計り、スピードを意識します。
これを、毎日10ページ程度行うことが推奨されています。一見単純ですが、この「1分以内」という制約と「手で書く」という行為が、思考の瞬発力と整理能力を高める鍵となります。
2. なぜ「ゼロ秒思考」は思考のループを断ち切り、頭をスッキリさせるのか?

私が「ゼロ秒思考」を実践して最も効果を感じたのは、「同じ思考のループに陥りにくくなる」という点です。
私たちは、気になることや不安なことがあると、頭の中で同じことを何度も繰り返し考えてしまい、なかなか結論が出なかったり、思考が前に進まなかったりすることがあります。また、普段考えていることから抜け出せず、新しいアイデアが生まれにくいということも。
「ゼロ秒思考」で頭に浮かんだことを紙に書き出すという行為は、
- 思考の「見える化」: 頭の中のもやもやとした思考が、文字として具体的に目の前に現れることで、客観的に捉えやすくなります。
- 感情のデトックス: 不安や悩みも書き出すことで、感情が整理され、精神的な負担が軽減されます。
- 思考の強制的な前進: 1分という時間制限の中で、とにかく言葉にすることで、堂々巡りを断ち切り、思考を前に進めるきっかけになります。
- 脳のワーキングメモリの解放: 頭の中にある「気になること」を外部(紙)に出すことで、脳の作業スペースが解放され、新しいことを考えたり、目の前のことに集中したりする余裕が生まれます。
2020年当時の私は、一度で解決しないテーマについては、同じタイトルで何度もメモを書くことで、徐々にそのことについて考える必要がなくなり、本当にやるべきこと、考えるべきことに着手しやすくなったという実感がありました。書いているうちに、自然と解決策が見えてきたり、悩むほどのことではなかったと気づいたりすることも多々ありました。
以下、私の実践例を紹介します。



3. 「ゼロ秒思考」を習慣化するコツと、私の試行錯誤(2025年現在の視点)

「ゼロ秒思考」の効果は絶大ですが、毎日10ページを継続するのは、慣れるまでは意外と大変です。2020年当時の私も、まとめて一気にやろうとすると、まるで陸上競技のタイムトライアルのようなプレッシャーを感じ、取り掛かるのにストレスを感じることがありました。
そこで、無理なく続けるために、私なりに工夫してきた点や、現在の視点から推奨できるポイントは以下の通りです。
- 「思いついた時に1枚からでも」の柔軟性: 毎日必ず10ページと気負わず、まずは頭に何か浮かんだら「とりあえず1枚書いてみる」という気軽さで始めるのが長続きのコツです。
- A4用紙とペンを常に携帯する: アイデアや悩みはいつ浮かんでくるか分かりません。すぐに書き出せるように、A4用紙(裏紙でもOK)と書きやすいペンを常に手の届くところに置いておくことが重要です。後述するクリップボードなども活用できます。
- 飽きたり疲れたりしたら無理せず中断し、後で再開: 義務感で続けても効果は半減します。集中できない時や気分が乗らない時は潔く中断し、またやりたくなった時に再開するくらいの気持ちでいる方が、結果的に長く続けられます。
- タイマーを効果的に活用する: 1分という時間制限は「ゼロ秒思考」の肝です。スマートフォンのタイマーアプリや、Apple Watchのようなウェアラブルデバイスのタイマー機能を使うと、スムーズに時間管理ができます。2020年当時、私はApple Watchのタイマーのバイブレーション通知が非常に便利だと感じていました。
- 完璧を目指さない: 最初は1分で4~6行書けなくても、字が汚くても、ひらがなばかりになっても全く問題ありません。2020年当時の私のメモも、タイトル下に下線がなかったり、誤字脱字があったりしました。大切なのは、とにかく頭の中にあるものを出すこと、そしてそれを続けることです。
4. 「ゼロ秒思考」を高速で実践するための便利グッズ

より快適に「ゼロ秒思考」を実践するために、私が実際に使ってみて良かった、あるいは推奨されている便利グッズを紹介します。
- ペン:PILOT Vコーン(または同等の滑らかな水性ボールペン) 赤羽雄二さんの著書でも推奨されていますが、このペンは筆圧がほとんど不要で、インクフローが非常に滑らかなため、高速で文字を書くのに最適です。思考のスピードを落とさずに書き続けられます。
- クリップボード:株式会社美濃商会「HINGE」(ヒンジ)など A4用紙とペンを一体化して持ち運べるクリップボードは、「ひらめいた瞬間に、立ち上がり1秒でゼロ秒思考開始」を可能にします。カバンの中に忍ばせておけば、外出先でもすぐにメモを取れます。
- タイマー:Apple Watchやスマートフォンのタイマーアプリ 1分を正確に計測し、バイブレーションなどで静かに知らせてくれるタイマーは必須です。Apple Watchは連続してタイマーをセットしやすく、特に重宝します。
5. 理学療法士の臨床・学習・自己成長への「ゼロ秒思考」活用法
「ゼロ秒思考」は、理学療法士の様々な場面で応用可能です。
- 臨床推論の深化: 患者さんの症状や評価結果から考えられる問題点、治療仮説、アプローチ方法などを1分メモで書き出すことで、思考が整理され、より深い考察に繋がります。
- カンファレンスや他職種連携の準備: 伝えたい要点、質問したいこと、提案したいことなどを事前にメモ書きしておくことで、会議の場でスムーズかつ的確に発言できます。
- 学会発表や資料作成の構成案作成: テーマ、目的、構成、各スライドの要点などをメモ書きでブレインストーミングすることで、効率的に骨子を作成できます。
- 日々のタスク整理と優先順位付け: 「今日やるべきこと」「今週の目標」などを書き出し、頭の中を整理することで、計画的な行動を促します。
- 自己の感情やストレスの客観視と対処: モヤモヤした気持ちや不安、怒りなどを書き出すことで、感情を客観視し、冷静に対処するきっかけになります。
- 学習内容の整理と記憶の定着: 研修会や文献で学んだことの要点をメモ書きすることで、理解を深め、記憶に残りやすくなります。
2020年の記事で「必要な情報がなければ、ゼロ秒思考をつかい、アウトラインや行動の段取りを行い、もれなく計画的に行動することができるようになります」と書きましたが、まさに計画性と実行力を高める上で強力なツールとなります。
6. 「ゼロ秒思考」で得られるもの:思考力向上とその先の未来
「ゼロ秒思考」を継続することで、以下のような多くの効果が期待できます。
- 思考スピードの向上: 瞬時に考えをまとめる訓練により、頭の回転が速くなります。
- 論理的思考力・問題解決能力の向上: 物事を構造的に捉え、本質を見抜く力が養われます。
- アイデア発想力の強化: 頭の中がクリアになることで、新しいアイデアが生まれやすくなります。
- コミュニケーション能力の向上: 自分の考えを的確に整理し、分かりやすく伝える力が向上します。
- 意思決定の迅速化: 迷いが減り、より迅速かつ的確な判断ができるようになります。
- 精神的な安定: 頭の中のモヤモヤが解消され、ストレスが軽減されます。
これらの能力は、理学療法士としての専門性を高める上で不可欠なものです。2020年当時、「管理職の方のみならず、新人でも、もはや誰にでも有用な方法」だと感じていましたが、その思いは今も変わりません。
まとめ:思考のトレーニングで、理学療法士としての可能性を広げよう
「ゼロ秒思考」は、特別な才能や時間を必要とせず、誰でもすぐに始められる、非常にシンプルでありながら奥深い思考トレーニング法です。
私自身、2020年当時はまだ実践途上でしたが、その効果を実感し始めていました。そして2025年の今、改めてその有効性を確信しています。もちろん、完璧にこなすことよりも、自分に合ったペースで「続けること」が最も重要です。
日々の臨床や学習、自己成長において、「考える力」は私たちの最大の武器です。「ゼロ秒思考」を通じてその武器を磨き、理学療法士としての可能性をさらに広げていきませんか? まずは1枚、1分から。その小さな一歩が、あなたの思考と未来を大きく変えるかもしれません。