ワレンベルグ症候群を担当することになったものの、交代性感覚障害や運動失調、嚥下障害、ホルネル症候群まで一気に症状が重なっていて、どこから評価すればいいのか戸惑ってしまう…という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
片麻痺のケースとは評価の視点がまるで違うので、戸惑ってしまうのも当然だと思います(実は私自身も、この病態の複雑さには最初かなり苦戦しました…笑)。
この記事では、延髄外側の障害部位と症候の対応関係を整理したうえで、感覚障害・嚥下構音障害・運動失調・随伴症状・歩行の順に、根拠を持って評価項目を選べるよう解説します。
ワレンベルグ症候群は延髄外側の障害部位で症状が決まる

主要症候と病巣部位の対応関係
ワレンベルグ症候群は、延髄外側の障害範囲によって症状の組み合わせが変わります[1]。
- 同側顔面の温痛覚脱失、嚥下障害・嗄声(カーテン徴候)
- 同側Horner症候群、同側上下肢の運動失調
- 対側上下肢の温痛覚低下(交代性感覚障害)
- めまい・嘔吐、患側への突進現象(lateropulsion)
MRI(磁気共鳴画像)での検討でも、病巣が吻側だと嚥下・構音障害、尾側だと歩行失調が強く出やすいと報告されています[2]。
延髄内側症候群など類似疾患との鑑別ポイント
大事なのは、運動麻痺(片麻痺)と深部感覚障害は原則出ないという点です[1]。錐体路や内側毛帯が走る延髄の内側が傷んだ場合(延髄内側症候群など)は、運動麻痺や深部感覚障害が前景に立ちます。麻痺が目立つときは、別の病巣を考える手がかりになります。
交代性感覚障害は同側顔面と対側四肢を分けて評価する
温痛覚・触覚検査で障害パターンを明確にする
ワレンベルグ症候群の感覚評価では、「同側顔面」と「対側の上下肢」を分けてチェックすることがポイントですね。
- 同側顔面:三叉神経脊髄路とその核の障害により温痛覚が脱失しやすい[1][3]
- 対側の上下肢:外側脊髄視床路の障害により温痛覚が低下しやすい[1]
- 運動麻痺や深部感覚障害は原則みられず、表在覚とだけ解離するのが特徴です[1]
ただし典型像から外れる例もあり、病巣が大きいと両側の顔面に感覚障害が出るパターンが多くなると報告されています[2]。触覚や深部感覚が保たれやすいというのも、あくまで傾向として捉えておくのがよさそうです。
嚥下・構音障害は疑核周辺の障害を想定して評価する

ワレンベルグ症候群では病変と同側の迷走神経麻痺により、カーテン徴候・嚥下障害・嗄声がみられます[1]。疑核周辺の障害が主因で、病変は片側でも嚥下への影響は両側性に及びます[4]。純粋な延髄梗塞23例の検討では44%に誤嚥がみられ、発声障害・軟口蓋機能障害・顔面感覚低下から高精度で判別できたとの報告もあります[5]。
嚥下評価はRSST・MWSTなど標準検査で行う
まずはスクリーニングから始めます。
いずれも障害の有無を推定するスクリーニングで、詳細な障害像までは分かりません。必要に応じてVF・VEにつなげます[3]。
構音障害・嗄声は発声機能まで含めて評価する
カーテン徴候(発声時に咽頭後壁が健側へ偏倚する所見)は、偏倚そのものより、発声後に中央へ戻る動きに注目するととらえやすいとされています[3]。湿性嗄声(湿り気を帯びたごろごろした声)は、誤嚥を疑うサインの一つです[3]。
運動失調・平衡機能はSARAなど定量評価で把握する
上下肢の協調性検査で失調の程度を確認する
ワレンベルグ症候群では下小脳脚の障害により、同側の運動失調が現れやすいですね。
指鼻指試験や踵すね試験、回内回外運動などで協調性の乱れを確認します。
数値化にはSARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)が参考になります。歩行・立位・坐位・言語・指追い試験・鼻指試験・回内回外運動・踵すね試験の8項目、合計0〜40点で評価し、評価者間信頼性はICC(級内相関係数)0.98と高い再現性が報告されています[6]。日本語版でもICC0.8超という結果が出ています[7]。
ただSARAは元々脊髄小脳変性症を対象に検証されたスケールで、ワレンベルグ症候群に限定した検証ではない点は頭に入れておいてください。
ホルネル症候群など随伴症状は視診・触診で見逃さない

眼瞼下垂・縮瞳・発汗異常のチェック法
ワレンベルグ症候群では、交感神経下行路の障害によって同側にホルネル症候群が出やすいんですね[1]。
チェックすべきポイントはこちらです。
- 眼瞼下垂:まぶたが病側だけ下がっていないか
- 縮瞳:瞳孔が病側だけ小さくなっていないか(対光反応自体は保たれます)[8]
- 発汗異常:病側の顔だけ汗が出にくくなっていないか
ただし、発汗異常は「必ず出る」わけではなく、出る場合もある所見という位置づけです[8]。
歩行・バランス評価は側方突進の観察から始める
病期別のプログラム設計については、脳卒中リハビリプログラムの立て方!病期別の評価と目標設定で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
ワレンベルグ症候群では運動麻痺が出ない分、評価の軸は感覚・失調・バランスに絞られてきますね。
側方突進(lateropulsion)の観察評価
病巣側へ傾いていく側方突進は、単なる筋力低下ではなく、視覚的な垂直位の感覚そのものが病巣側へ傾いていることの表れだと考えられています[9]。
観察した傾きを数値で残したい時は、Burke Lateropulsion ScaleやScale for Contraversive Pushingなど、信頼性・妥当性が報告されているツールがあります[10]。
ただしこれらは脳卒中後のlateropulsionやpusher症候群全般を対象に検証されたもので、ワレンベルグ症候群に限った検証ではない点は割り引いて使いたいところです。
BBSなど標準化スケールで機能を数値化する
BBS(Berg Balance Scale)は信頼性が高く、歩行速度やADL(日常生活動作)とも良好に相関しますが、転倒までは予測しないという限界もあります[11]。
床・天井効果が出るケースもあるため、他の指標と併用しながら評価するという視点を持ってみるのもおすすめです。
評価は系統的な順序で行うと臨床効率が上がる

感覚→球症状→運動失調→歩行の順に評価する
ワレンベルグ症候群の評価は、思いつきで進めると情報が散らかってしまいがちですね。
私は基本的に、
- 感覚(顔面・上下肢の交代性感覚障害)
- 球症状(嚥下・構音・嗄声)
- 運動失調
- 歩行(側方突進を含む)
という順序で評価するのが良いと考えています。
なぜこの順番かというと、感覚障害の程度や球症状の有無を先に把握しておくことで、その後の運動失調や歩行観察で「どこまでが感覚由来のふらつきで、どこからが小脳性の失調なのか」を見分けやすくなるからです。
いきなり歩行から評価してしまうと、原因の切り分けが曖昧になりやすい、という印象を持っています。
まとめ:ワレンベルグ症候群の理学療法評価
ワレンベルグ症候群は、運動麻痺が原則生じないという点で、他の脳卒中とは評価の視点が大きく変わってきますね。
だからこそ、
- 交代性の感覚障害
- 嚥下・構音などの球症状
- 運動失調
- ホルネル症候群
- 側方突進
といった、この症候群ならではの症状を丁寧に評価することが何より大切になってきます。
(MMT(徒手筋力検査)で麻痺を探そうとしてしまうと、かえって本質を見失ってしまうんですよね…私も駆け出しの頃は、つい「いつもの評価」パターンに頼りたくなる気持ち、よく分かります・笑)
運動麻痺の評価については、片麻痺評価のコツ!MMT・MAS・深部腱反射の解釈と統合もあわせてご覧ください。
一つひとつの症状の背景にある神経の障害部位を意識しながら評価することで、その方に合ったリハビリの方向性が見えてくるのではないかと感じています。
引用文献
[1] 栗原照幸, 中野今治, 編. 水野美邦, 監修. 標準神経病学. 第2版. 医学書院; 2012:146. https://www.igaku-shoin.co.jp/seigo/00601/p146_5-1.pdf. 2012年. 2026年09月22日アクセス.
[2] Kim JS. Pure lateral medullary infarction: clinical-radiological correlation of 130 acute, consecutive patients. Brain. 2003;126(8):1864-1872. doi:10.1093/brain/awg169. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12805095/. 2003年. 2026年09月22日アクセス.
[3] 日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会. 摂食嚥下障害の評価 2019. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会; 2019. https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/assessment2019-announce.pdf. 2019年. 2026年09月22日アクセス.
[4] Aydogdu I, Ertekin C, Tarlaci S, Turman B, Kiylioglu N, Secil Y. Dysphagia in lateral medullary infarction (Wallenberg’s syndrome): an acute disconnection syndrome in premotor neurons related to swallowing activity? Stroke. 2001;32(9):2081-2087. doi:10.1161/hs0901.094278. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11546900/. 2001年. 2026年09月22日アクセス.
[5] Kim H, Chung CS, Lee KH, Robbins J. Aspiration subsequent to a pure medullary infarction: lesion sites, clinical variables, and outcome. Arch Neurol. 2000;57(4):478-483. doi:10.1001/archneur.57.4.478. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10768620/. 2000年. 2026年09月22日アクセス.
[6] Schmitz-Hübsch T, du Montcel ST, Baliko L, et al. Scale for the assessment and rating of ataxia: development of a new clinical scale. Neurology. 2006;66(11):1717-1720. doi:10.1212/01.wnl.0000219042.60538.92. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16769946/. 2006年. 2026年09月22日アクセス.
[7] Sato K, Yabe I, Soma H, et al. Reliability of the Japanese version of the Scale for the Assessment and Rating of Ataxia (SARA). Brain Nerve. 2009;61(5):591-595. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19514520/. 2009年. 2026年09月22日アクセス.
[8] Kanagalingam S, Miller NR. Horner syndrome: clinical perspectives. Eye Brain. 2015;7:35-46. doi:10.2147/EB.S63633. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28539793/. 2015年. 2026年09月22日アクセス.
[9] Dieterich M, Brandt T. Wallenberg’s syndrome: lateropulsion, cyclorotation, and subjective visual vertical in thirty-six patients. Ann Neurol. 1992;31(4):399-408. doi:10.1002/ana.410310409. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1586141/. 1992年. 2026年09月22日アクセス.
[10] Babyar SR, Peterson MG, Bohannon R, Pérennou D, Reding M. Clinical examination tools for lateropulsion or pusher syndrome following stroke: a systematic review of the literature. Clin Rehabil. 2009;23(7):639-650. doi:10.1177/0269215509104172. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19403555/. 2009年. 2026年09月22日アクセス.
[11] Blum L, Korner-Bitensky N. Usefulness of the Berg Balance Scale in stroke rehabilitation: a systematic review. Phys Ther. 2008;88(5):559-566. doi:10.2522/ptj.20070205. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18292215/. 2008年. 2026年09月22日アクセス.





