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認知症予防とオメガ3:サプリは効かない?食事と遺伝子の関係

認知症予防とオメガ3:サプリは効かない?食事と遺伝子の関係
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「認知症予防には魚が良いらしい」「DHAが脳に良いって聞くけど、サプリメントはどうなんだろう?」 オメガ3系脂肪酸、特にDHAやEPAが脳の健康や認知症予防に良いという話は、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

しかし、その一方で、「オメガ3は認知症に効く!」という期待がある中で、「サプリメントを飲んでも効果はなかった」といった研究報告や、WHO(世界保健機関)のガイドラインでも「(認知症予防目的での)多価不飽和脂肪酸サプリメントは推奨しない」とされているなど、情報が錯綜しているのも事実です。「結局、どっちなの?」と混乱してしまいますよね。

こんにちは!あなたの心と体の健康をサポートする理学療法士のPTケイです。今回は、この混乱しがちなオメガ3系脂肪酸と認知症予防の関係について、なぜ研究結果が分かれるのか、そして私たちがどのような視点で情報を捉え、日々の生活に活かしていけば良いのか、最新の専門家による総説論文を基に、詳しく掘り下げて解説していきます。

研究紹介:オメガ3系脂肪酸と認知症予防の最新レビュー

まずは、今回主に参考にする論文の概要です。

2022年に橋本道男先生(島根大学)と蒲生修治先生(明治薬科大学)が発表した総説「ω3系脂肪酸による認知症予防―Up to Date」では、ω3系脂肪酸、特にDHAは脳機能維持に重要であり、否定的な研究結果もあるものの、摂取開始時期や摂取形態、個人の遺伝的背景(APOE4遺伝子型など)を考慮すれば、加齢性認知機能低下(ARCD)や軽度認知機能障害(MCI)の進行抑制、認知症発症予防に貢献する可能性がある、とまとめられています。(オレオサイエンス 第22巻第7号(2022))

この総説は、錯綜する情報の中から、科学的根拠に基づいたω3系脂肪酸との付き合い方を探る上で、重要な示唆を与えてくれます。

脳に必須!オメガ3系脂肪酸(DHA/EPA/ALA)とは?

まず基本のおさらいです。「オメガ3系脂肪酸」は、私たちの体内で作ることができない必須脂肪酸の一種で、食事から摂取する必要があります。

代表的なものに、DHA(ドコサヘキサエン酸)EPA(エイコサペンタエン酸)、α-リノレン酸(ALA)があります。

特にDHAは、脳や目の網膜の神経細胞膜に非常に多く含まれており、脳の情報伝達をスムーズにするなど、その機能維持に不可欠な役割を担っています。

オメガ3はどこに多い?食品別ガイド

では、これらのオメガ3系脂肪酸はどのような食品に多く含まれているのでしょうか? 主なものを表にまとめました。

脂肪酸の種類主な働き・特徴 (認知症予防関連)多く含まれる食品例
DHA(ドコサヘキサエン酸)、神経、目の網膜に特に豊富青魚 (マグロ脂身, ブリ, サンマ, サバ, イワシ等)
・神経細胞の機能維持、情報伝達に関与・魚油サプリメント (形態に注意)
・アルツハイマー病関連物質(Aβ)への作用も研究中・(母乳にも含まれる)
EPA(エイコサペンタエン酸)血液サラサラ効果 (血栓予防)青魚 (特にイワシ, サバ, アジなど)
抗炎症作用・魚油サプリメント (形態に注意)
・中性脂肪低下作用
・脳内量は少ないが血流改善等で脳機能に影響?
ALA(α-リノレン酸)・体内で一部がEPAやDHAに変換される (ただし効率低い)えごま油
・ALA独自の脳機能への効果も研究中 (気分改善報告も)亜麻仁油 (アマニ油)
チアシードヘンプシード
くるみ
・緑黄色野菜 (少量)

やはり青魚がDHA・EPAの主な供給源であることがわかりますね。ALAは植物性の油や種子類に含まれます。

「効く」「効かない」なぜ情報が錯綜?詳しく解説!

さて、ここからが本題です。なぜ、オメガ3系脂肪酸の認知症予防効果について、「効く」という話と「サプリメントは効かない」「推奨しない」という話が混在しているのでしょうか?

「オメガ3は認知症に効く!」という期待がある中で、「サプリメントを飲んでも効果はなかった」といった研究報告や、WHO(世界保健機関)のガイドラインでも「(認知症予防目的での)多価不飽和脂肪酸サプリメントは推奨しない」とされているなど、情報が錯綜しているのも事実です。

今回の総説論文では、この結果の不一致が起こる理由として、これまでの多くの介入研究(RCT:実際にサプリメントなどを飲んでもらい効果を見る研究)において、様々な要因(交絡因子)が十分に考慮されてこなかった可能性を指摘しています。具体的には、以下のような点です。

  1. 対象者の状態がバラバラ: 認知機能が完全に健康な高齢者、物忘れが少し出始めたMCI(軽度認知機能障害)の人、すでにアルツハイマー病を発症している人など、様々な状態の人をまとめて解析してしまっている場合が多い。オメガ3の効果は、対象者の認知機能レベルによって異なると考えられ、特に進行してしまった後では効果が出にくい可能性があります。
  2. 介入開始時期と期間の問題: 認知症の病理変化は、症状が出る何年も前から始まっていると考えられています。サプリメントを飲み始めるタイミングが遅すぎたり、飲む期間が短すぎたりすると、効果が現れない可能性があります。予防効果を期待するなら、より早期からの長期間の摂取が必要かもしれません。
  3. 用量や種類の違い: 摂取したオメガ3の量が少なすぎた、あるいはDHAとEPAの比率などが、効果を発揮するのに最適ではなかった可能性も考えられます。
  4. 元々のオメガ3レベルの違い: 普段から魚をよく食べていて体内のオメガ3濃度が十分な人に、さらにサプリメントを足しても、効果が見えにくいのは当然かもしれません。研究開始前の参加者のω3レベルを考慮せずに解析している研究が多いのです。
  5. 評価方法の違い: 血液検査でω3レベルを測る際、短期的な摂取を反映しやすい「血漿」で測るか、長期的な摂取を反映する「赤血球膜」で測るかで結果の解釈が変わる可能性があります。「Omega-3 Index」(赤血球膜中のEPA+DHA割合)のような、より安定した指標を用いるべきという意見があります。
  6. 【特に重要】遺伝的背景(APOE4)の無視: アルツハイマー病の発症リスクに関わる「APOE4遺伝子」のタイプによって、オメガ3の効果の出方が大きく異なる可能性が近年強く示唆されています。APOE4を持つ人は、持たない人に比べてサプリメントの効果が出にくいという報告が複数ありますが、これまでの多くの研究では、この遺伝子タイプを考慮せずに解析されてきました。

つまり、これまでの「サプリメントは効果なし」という研究結果の多くは、本来効果が出る可能性のある人(例えば、早期のMCIでAPOE4を持たない人)と、効果が出にくい人(例えば、既に認知症が進行しているAPOE4を持つ人)を一緒に解析してしまったために、全体の効果が薄まって見えた(あるいは、かき消されてしまった)可能性があるのです。

WHOがサプリメントを推奨しない背景にも、こうした介入研究結果の一貫性のなさが影響していると考えられます。しかし、これは必ずしも「オメガ3系脂肪酸自体に認知症予防効果がない」ことを意味するわけではありません

あなたの遺伝子タイプ(APOE4)も関係?最適な摂り方

結果の不一致要因の中でも特に重要なのが「APOE4遺伝子」です。日本人の約15~20%が持つとされるこの遺伝子タイプは、アルツハイマー病のリスクを高めることが知られています。

そして、このAPOE4を持つ人は、オメガ3サプリメントの効果が出にくい可能性があるのです。

では、APOE4を持つ人はどうすれば良いのでしょうか? 総説論文では、以下のような興味深い可能性が示唆されています。

  • 早期介入の重要性: 若いうち(認知症発症前)であれば、APOE4を持っていてもDHA摂取が有益な可能性がある。
  • 食事(魚)からの摂取の優位性: APOE4を持つ人では、脳へのDHAの取り込みメカニズムの違いから、サプリメントに含まれることが多い「遊離脂肪酸型」のDHAよりも、魚に多く含まれる「リン脂質型」のDHAの方が効果を発揮しやすい可能性がある。

つまり、遺伝的にリスクが高い可能性がある方は特に、若いうちから、サプリメントだけに頼るのではなく、意識して魚を食べる食生活を送ることが、認知症予防にはより効果的かもしれないということです。

まとめ:認知症予防とオメガ3、どう付き合う?

今回の総説論文を踏まえると、オメガ3系脂肪酸と認知症予防について、以下のように考えるのが良さそうです。

  • ω3系脂肪酸、特にDHAが脳の健康に重要であることは確か。
  • サプリメントの効果は、現時点では科学的根拠が十分とは言えない(特にWHOなどの公的機関は推奨していない)。 これは、これまでの研究方法に限界があった可能性が高い。
  • 効果を得るためには、対象者(年齢、認知状態、遺伝子型)、摂取開始時期、摂取形態(食事かサプリか、DHA/EPA比など)、期間などを考慮した個別化が必要。
  • 現時点での最も推奨されるアプローチは、バランスの取れた食事の一部として、魚などからω3系脂肪酸を摂取すること。 特に早期からの摂取が望ましい。
  • Omega-3 Indexのような客観的指標で自身のω3レベルを知ることも、将来的には個別化アプローチに役立つ可能性がある。

また、論文では触れられていませんが、オメガ3系脂肪酸は腸内環境を介して脳に影響を与える可能性(腸脳相関)や、認知症リスクでもあるフレイルやサルコペニアの予防にも役立つ可能性も研究されています。

脳の健康を守るために、オメガ3系脂肪酸を食生活に上手に取り入れていきましょう。


参考文献:

橋本道男, 蒲生修治. ω3系脂肪酸による認知症予防―Up to Date. オレオサイエンス. 2022;22(7):327-335.


健康・医学関連情報の注意喚起

本記事は、オメガ3系脂肪酸と認知症予防に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の食品や栄養素の効果効能を保証したり、医学的アドバイスを提供するものではありません。 認知症やその他の疾患の診断や治療、サプリメントの利用、食事療法については、必ず医療従事者や管理栄養士にご相談ください。

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