視覚経路について
網膜~後頭葉
- 半側空間無視は字義通り空間の片側を無視する病態であることから視空間情報処理にかかわるネットワークのどこかに障害が起きることで出現する。
- 視覚情報の経路は『網膜⇒外側膝状体⇒一次視覚野』と情報伝達が起こる
※下線の間での損傷は、(同名)半盲を起こし、視野全体に欠損がみられ、その部分は全く見えない状態となる。
- 半側空間無視の場合は、半盲とは異なり、まったく見えないわけではなく、見えているがそこに注意が向かないことが根幹となる。よって、半側空間無視は一次視覚野以降の経路に問題が起きた場合に機能不全が生じる。
- 視覚情報は一次視覚野にて情報のソーティング(分類)が行われる。
後頭葉以降
腹側視覚経路(腹側経路:ventral stream)
- 側頭葉下面へ向かう経路
- what system(なに系,what系)と呼ばれ、物体の形態認知(物体認識)が行われる
- 視覚情報を対象の色や形の情報処理を行う。
- ものが何かわかるためには、色や形が重要なので、腹側経路ではそれらの情報を対象の知識(意味記憶)の存在する側頭葉先端部へ伝え、対象の同定に関わる。
- 障害により大脳性色覚障害、視覚性失認、意味記憶障害が起こりうる。
大脳性色覚障害:大脳病変による色覚異常
視覚性失認:失認とは要素的感覚の障害,知能の低下,注意の異常,失語による呼称障害,刺激に対する知識のなさのいずれにも帰することのできない,しかも一つの感覚を通したときにだけ生じる対象認識の障害と定義される (Frederiks 1969).これが視覚に生じた状態を視覚性失認と呼ぶ
意味記憶障害: 時間的標識をもたない知識一般に該当する記憶の障害
背側視覚経路(背側経路:dorsal stream)
- 頭頂葉へ向かう経路
- 過去に異なる背側視覚系の議論を統合し、Rizzolattiら(2003)により背背側視覚経路と腹背側視覚経路に2分された。
- 両者の違いは意識か無意識かという点がポイント
- 両者は頭頂間溝が境界となる
腹背側視覚経路
- 下頭頂小葉へ向う経路
- where system(どこ系、where系)と呼ばれ、外部座標、動きの分析が行われる
- 対象の位置や運動の情報を意識に上る形で処理し,それらの知覚や対象の意識化に関わる
- 腹背側経路の損傷は、半側空間無視のような対象の意識化の障害や,観念性失行、観念運動性失行のような行為の意識的制御の破綻を生じる。
- 下頭頂小葉は、進化上新しい部位で、サルでは発達が悪く、人で増大した領域である
背背側視覚経路
- 上頭頂小葉(主に頭頂間溝)へ向う経路
-
How system(いかに系、How系)と呼ばれ、位置・形・運動の分析(無意識の行為の形成)が行われる
- 対象の位置や運動,そして形の情報をあまり意識に上らない形で処理し,適切
な行為を引き起こす「いかに系」の働きを担う - 背背側経路の損傷は,視覚性運動失調に代表されるような行為の無意識的制御の破綻を生じる
- 頭頂間溝や上頭頂小葉はサルでもよく発達した進化上古い部位と考えられる。
視覚経路まとめ
整理
①腹側視覚経路:後頭葉から側頭葉に向かい,対象を同定をしたり対象についての知識を呼び出したりするために色や形を分析する。
②腹背側視覚経路:後頭葉から下頭頂小葉に向かい,対象の位置や運動を分析し対象を意識することに関わる。
③背背側視覚経路:頭頂間溝や上頭頂小葉に向かい,対象の位置や運動,形を分析し
て,対象に向けた行為の無意識的なコントロールに関わる。
個人的な理解
腹側経路は、側頭葉にて記憶との関連もあり、物体が何かを把握するために物体の形や色などの情報を処理するものであると理解した。
腹背側経路は、進化上新しい人間で発達した領域である下頭頂小葉という領域へ連絡をすることから、意識的な対象の位置や運動の分析に関与しているものと理解した。
背背側経路は、進化上古いサルでも発達していた領域である頭頂間溝や上頭頂小葉という領域へ連絡することから、無意識的な対象の位置・運動・形の分析に関与していると理解した。
整理された図(参考資料より)

参考文献
認定理学療法士(脳卒中)必須研修資料
森岡:半側空間無視のメカニズム.理学療法ジャーナル,51(10),855-863,2017
平山:視覚背側経路損傷による症状の概要.高次脳機能研究,35(2):199-206,2015
平山:高次脳機能研究第35巻第2号