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ワーレンベルグ症候群-有効な介入方法を3入力系から考えるー

ワーレンベルグ症候群
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目次

ワーレンベルグ症候群の復習(国家試験の時にまとめたデータ)

ワーレンベルグ症候群(Wallenberg症候群)
延髄外側の障害によってみられる様々な症状をワーレンベルグ症候群という。
 
原因
椎骨動脈やその枝の後下小脳動脈などの灌流障害が多い。
 
重要なポイント
①やられる部位→延髄の背外側部
②反対側の障害→四肢体幹の温痛覚障害のみ
③やられる脳神経→語呂合わせ:野球50(Ⅷ、Ⅸ、Ⅴ、Ⅹ)
④他にやられる部位→小脳交感神経
舌下神経、副神経はやられない(舌下神経核は延髄内側、副神経は頸髄から出るため)
錐体路、深部感覚もやられない(延髄内側を通るため)
 
症状(①のみ反対側、他同側の症状を示す)
①外側脊髄視床路
反対側の頸から下の温痛覚障害
②三叉神経脊髄路・脊髄路核(Ⅴ)
同側の顔面の温痛覚障害
③迷走神経背側核、弧束核、疑核(Ⅸ、Ⅹ)
球麻痺、カーテン徴候、味覚障害、嗄声(させい)、
④前庭神経核(Ⅷ)
内耳神経麻痺として眼振、めまいなど
平衡感覚障害
⑤交感神経下行路
ホルネル症候群(眼瞼下垂、縮瞳、眼裂狭小、病側顔面の発汗低下)
※眼瞼下垂は、上瞼板筋(ミュラー筋)を交感神経が支配しているため。
⑥下小脳脚
四肢体幹の小脳失調
 
その他補足
延髄内側症候群(Dejerine症候群)との鑑別
舌下神経麻痺がないこと
錐体路障害が無いこと
より鑑別できる。
 

認定理学療法士試験の対策として

回復期の資料からはあまりどこが出るか想像がつきにくいですが、他の講義との関係性を考えて押さえておきたいところを少し整理しておきます。

①ワーレンベルグ症候群では感覚解離が起こる

感覚線維の交差する部位と通過する部位が異なるため

・位置覚、振動覚、触覚は障害されない

⇒位置覚、振動覚、触覚、意識にのぼる固有感覚を伝える線維は脊髄に入った後、そのまま後索を上行し延髄(内側毛帯)で交叉します。この線維は延髄の内側を通るためワーレンベルグ症候群(延髄背外側部の障害)ではやられないわけです。

・痛覚と温度覚は障害される(反対側のみ)

⇒痛覚、温度覚を伝える線維は、末梢神経から脊髄に入った後すぐに交叉し、反対側の脊髄視床路を上行して延髄外側部を通ります(外側脊髄視床路)・ちなみに錐体路は延髄腹側を通るため障害されません。

 

②ワーレンベルグ症候群ではlateropulsionが出現することが多い。

 →lateropulsionについては過去の記事をご参照ください

ワーレンベルグ症候群に見られる lateropulsionに対する介入

⇒ lateropulsionではSVV(視覚的垂直認知)が強く偏倚することが特徴です。ここが重要です。

3入力系から考える

・姿勢保持の3入力系である、視覚系、前庭系、体性感覚系を考えた場合、まずSVVが偏倚していることから視覚情報は軸がずれているため、視覚代償は聞きにくいことが考えられるため、有効なアプローチになりにくいことが考えられます。

・また、ワーレンベルグ症候群では、前庭神経核(内耳神経麻痺:Ⅷ)がやられ、平衡感覚障害や眼振、めまいなどが起こると同時に前庭機能障害も起こるため、前庭系からのアプローチも難しいことが考えられます。

意識にのぼる感覚と意識にのぼらない感覚から考える

・そうなると、残すところ体性感覚によるアプローチになるわけですが、体性感覚からのアプローチとしては意識にのぼる感覚と意識にのぼらない感覚からのアプローチが考えられます。

・意識にのぼらいない感覚について少し説明します。結論的にはこの意識にのぼらない感覚の障害が lateropulsionの原因となっている可能性が推察されています。

・無意識的な固有感覚(意識にのぼらない感覚):筋紡錘、腱紡錘などの固有受容器からの固有受容感覚のうち、身体の姿勢、位置、運動に関与するもので意識にのぼってこないものや反射的なものの情報は小脳へ伝えられます。(この経路は、総称して脊髄小脳路といわれる)

・isolated  lateropulsionを呈した4症例に共通した障害が背側脊髄小脳路に一致した延髄外側の小梗塞であったことをMaedaらが報告しています。

・このことから、ワーレンベルグ症候群でみられるlateropulsion現象では、背側脊髄小脳路の障害から無意識的な固有感覚(意識にのぼらない感覚)もアプローチとして使いにくいことがわかります。

意識にのぼる感覚を使うべし

・長くなりましたが、有効な感覚入力は結果的に、残ったもの、つまり意識的な固有感覚(意識にのぼる感覚)であると考えられます。

・意識される知覚である触覚や圧覚情報を利用できるように理学療法士が導くことが良いように思われます。

具体的なアプローチ例

歩行練習時の指導方法①

・歩行中に、ワーレンベルグ症候群の症例では、下肢の接地時に自動的に起こる無意識的な下肢の伸筋群の緊張が亢進しないために膝折れのリスクがある。

・ワーレンベルグ症候群では、錐体路は正常であり、意識される筋出力は正常であることが多い。

・そこで、歩行中に下肢の接地と同時に強く踏ん張るように指導するというアプローチが考えられる。意識的に接地時に足を踏ん張ることで、立脚期の下肢の支持性を高めることで膝折れの防止・転倒予防を行いつつ介入できる。

歩行練習時の指導方法②(①でうまくいかない場合)

・発症初期の介入としては、上記のようなアプローチでも速報への強い傾斜が起こる場合が多い。

・その場合は、単脚支持となった際に再び傾斜してバランスが崩れるため、一歩行周期ごとに歩行を停止し、下肢荷重量の変化を強く意識させるよう導き、立位姿勢を修正させる。そして、修正後に再び歩行を開始するという対策を行うことも有効な場合がある。

・運動失調を伴う場合は、運動失調に対する介入を組み合わせて対応することが必要である。

まとめ

ワーレンベルグ症候群では、通常の脳梗塞と比べ特徴的な症状がみられます。特に、認定試験においてはlateropulsionは重要なので、比較的応用的ですが、抑えてお期待と思い、調べました。臨床的にも、かなり役立つ内容になるので知らなかった方はぜひ覚えていただき、臨床の一助にしていただけたら幸いです。

参考資料

 認定理学療法士試験の範囲でわからないことがあるとこの本をみます。そうすると、試験範囲と重なる部分が多い印象です。認定理学療法士の回復期の理学療法の講義資料を作成している先生が編集しており、臨床的にも役立つことが多いです。

是非、試験を受ける方や、脳卒中の臨床で困っている方はもっているとよいと思います。

ワーレンベルグ症候群

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